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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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最強戦力

「……いきます」


 アルテが小さく呟いた直後、ミスリルの装備に身を包んだウッドブロック製の人形が二体、地を蹴って飛翔した。まるで風のように軽々と城壁から飛び降りると、そのままの勢いで崖を駆け上がっていく。


「おお、忍者みたい」


 思わずそんな感想を口にしてしまった。集中するアルテには聞こえていなかったようだが、カムシンは興味深そうにこちらを見ていた。一方、パナメラはアルテの操る人形に目が釘付けになっている。


「な、なんだ、あの動きは……」


 掠れた声でそう呟くのが精いっぱいの様子。それに何故か僕の方が嬉しくなり、アルテの魔術の凄さを語る。


「実際にアルテの人形二体が数千人規模の騎士団を翻弄したと聞いています。残念ながらその雄姿は見られませんでしたが、一緒に行動した冒険者の皆さんがその活躍ぶりを教えてくれました」


「そ、そうなのか? そういえば前にもアルテ嬢の人形を見ることはあったが、実際に戦う姿は見ていなかったな。まさか、あんな動きをすることが出来るとは……」


 珍しくパナメラがアルテの人形に驚いて狼狽していると、そのセリフの途中で人形が崖の上まで登り切り、ロケットが射出されるように空中へ舞った。


 皆が驚きに目を丸くしている中、崖に戻ろうとしていたワイバーンと交錯した。その瞬間、目が良い者はアルテの人形が身長を超えるほどの長身の剣を振ったのが見えたことだろう。


 その証拠に、アルテの人形とすれ違ったワイバーンは途端にバランスを崩して空中でぐるりと回転。頭を地面に向けた。


 それも仕方がない。なにせ、ワイバーンの翼が一太刀で切り落とされてしまったのだ。まるで英雄譚に出てくる一幕のような光景である。


「な、なんと……っ!」


 パナメラや騎士達が驚愕の声を上げる。だが、アルテの人形の活躍はそれだけでは終わらなかった。ワイバーンが落ちていく間にももう一体の人形が地を駆けており、次のワイバーンを狙っている。それに気が付いたのか、崖の近くまで迫っていたワイバーンが飛行する角度を変えようとした。


 だが、アルテの人形はその余裕を相手に与えず、瞬く間に崖の中腹まで登り、壁面を蹴って空へと飛びあがる。その跳躍はおよそ人間離れしたものだったが、僅かに高度が足りなかった。ワイバーンの下方をすれ違うように通り過ぎていき、まるで苦し紛れのように人形が剣を振った。


 腕を限界まで伸ばし、ただ体を棒のように伸ばして剣の間合いを広げただけの行動。剣を使う者ならば、誰が見ても力が入らず挙動も安定しない初心者の悪あがきと断じたことだろう。強いて言うならば、身長より長いその大剣を棒きれのように振るった膂力には目を見張るものがある。その程度の感想しか出ないはずだ。


 だが、人形の振った大剣はワイバーンの足を掠った。刃先がワイバーンの足に触れたのだ。


 鮮血が空中に舞う。僅かに触れただけだったように見えたが、結果、ワイバーンは片足を失ってぐらりとバランスを崩した。落下まではしなかったものの、ワイバーンに騎乗する傀儡の魔術師を振り落とすことには成功した。


 突如として自らを制御する者がいなくなったワイバーンは、怪しい軌道で空を飛び、崖の壁面に衝突してから落下することとなる。その様子を見て、ようやくアルテがホッと息を吐いた。


「な、なんとかなりました……!」


 プレッシャーを感じていたのだろう。アルテは花が咲いたような笑顔で振り向き、額の汗を拭う。


「うん、バッチリだったよ! これですぐにはセンテナを攻撃に来ることもないだろうし、早くタルガ騎士団長とジャルパ侯爵を救出にいこうか」


 そう告げると、アルテは頷いて人形たちを呼び戻そうとする。しかし、パナメラとパナメラ騎士団長、それにセンテナ騎士団の面々はそれどころではなかった。


「ちょ、ちょっと待て!? なんだ、今の一撃は!? 当たったかどうかも怪しい斬撃だったぞ!」


「多分、当たったから足が切れたんだと……」


「掠ったくらいで傷つくものか! ワイバーンだぞ、ワイバーン! まともに当てても傷一つつかんこともあるというのに……」


 理解が追い付かないのか、パナメラはついに頭を抱えて天を仰いだ。そして、ハッとしたような顔になってこちらを見る。


「……そうか。そうだった。あの人形が持つ剣は、少年の作ったものか。あの常識外れの切れ味を持つ剣を人形に持たせているな?」


「もちろんですよ。むしろ、あの高い運動能力を最大限に活かす為に最高の装備で揃えています。ぎりぎりまで軽量化したミスリルの全身鎧。そして、最高の切れ味を誇るミスリルの大剣……完璧ですよね」


 何を当たり前なことを。そういったノリで返答したのだが、パナメラは呆れたように目を細めて睨んできた。


「……本来なら傀儡の魔術であんなことは出来ない。よく話に聞くのは使用人などを操って暗殺をするとかいったものだが、複雑な命令は出来ないという話だ。それに、距離や時間の制限もあったはずだが……」


「なるほど」


 困惑するパナメラの言葉に相槌を打ち、情報を整理する。


 本来、傀儡の魔術の適性を持つ者は名乗り出ることは無い。なにせ、昔から暗殺などの犯罪に使われることが多かった魔術だ。情報も少ないし、あまり研究も進んでいないのだろう。


「もしかしたら、意思の力が関係してるのかも? 人間は高度な知性があるから、操るのが難しいとか……素材での違いはあったし、あながち見当はずれってわけでもないかな? う~ん、どっちにしても、自分でやってみないと分からないなぁ」


 なんとなくそんなことを呟きつつ、アルテの方を見る。すると、ちょうど人形たちがアルテの下へ戻ってきたところだった。


「……気のせいか? 人形は五体満足どころかまともな傷も見当たらないんだが」


 パナメラが再び呆れたような声でそう呟く。


「まぁ、個人的には我がセアト騎士団最強戦力の一つと思っていますからね。余裕ですよ、余裕。ふふふん」


 自慢を隠すことなくそう答えると、アルテが照れたように首を傾げる。


「い、いえ、私なんてそんな……」


 照れるアルテも可愛い。後ろには抜身の大剣を持つ人形を二体控えさせているが、まぁそんなことは些細なことだろう。


「……アルテ嬢が変わったとは思っていたが、こういう方向に変わっているとは……」







次にくるライトノベル大賞2022、単行本部門3位☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

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