【別視点】シェルビア王国軍の驚愕
【シェルビア騎士団 タウンカー・ピラーズ伯爵】
話は聞いていた。我が国の東部がイェリネッタ王国の要請に賛同し、自国に利点の無い同盟軍を結成するという話が出た、と。
なにしろ、大国であるスクーデリア王国と戦う為に、我が国の領地から攻め入るというのだ。負ければ我が国は間違いなくスクーデリア王国の一部となるだろう。その上、勝った時に享受できる利点はイェリネッタ王国との同盟関係の維持のみである。いや、同盟を結ばなければ先に我が国を攻め滅ぼすと宣言したと聞く以上、それはこれまでの同盟とは違い、明らかに上下関係が含まれた同盟となるだろう。
それならば、イェリネッタ王国ではなくスクーデリア王国との同盟を強化すべきではないか。西部で最も強い権力を持つ上級貴族、コルセア・ノーラス・アビエーター辺境伯がそう発言したが、それを王都元老院が否とした。
結局、東部はイェリネッタ王国の武力に屈したのだ。噂のイェリネッタ王国の持つ新兵器がどれほどのものかは知らないが、それはこれまでのシェルビア連合国の在り方や立場を変える必要があるほどのものだということは間違いない。
それを裏付ける理由として、シェルビア連合国の西側、スクーデリア王国との国境を戦場とするというのに、東部貴族達はこぞって騎士団を派兵してきた。中には自領を守る為の騎士団まで動員してきた者もおり、結果、総勢三万を超える人数が集まったのだ。一方、イェリネッタ王国に協力するといった程度に考えていた西部貴族は、総勢で一万程度である。
対して、イェリネッタ王国は総勢三万。この数字は現在、別の場所でスクーデリア王国の主力と戦っているという状況を考えると、信じられないような驚異的な数だ。もし同数でスクーデリア王国を押しとどめているというのなら、確かにこの戦いはイェリネッタ王国が勝つだろう。そして、このシェルビア王国国境での戦いにも勝つはずだ。たとえフェルティオ侯爵が自領に残っていたとしても、合計七万にもなるシェルビアとイェリネッタの連合軍には勝ちようがない。
「……時代は変わったようだな」
誰にともなくそう呟き、センテナの様子を眺める。激しい爆発音が鳴り響き、要塞のいたる場所から火の手が上がっている。空には飛竜が五羽飛んでおり、さらに攻撃を加えようとしていた。
戦いは始まったばかりだが、どう考えても要塞センテナが陥落する未来しか見えない。
「もし、自分がセンテナを防衛するならどうするか……もはや、玉砕覚悟の突撃しかあるまい」
そう口にしてから、自身の率いる騎士団の状況を確認する。山の斜面の中腹。相手からは見えないような窪地があり、そこで身を隠すように控えていた。もし相手が突撃してきても良いように、街道にもその周囲にも罠が仕掛けてある。その上、イェリネッタ王国より借り受けたこの大砲だ。
自ら前線への布陣を申し出た東部貴族の騎士団たちは、その大砲を手に左右の切り立った崖から攻撃を仕掛けている。あの場所まで三日も掛けて移動したのだから、もし反撃を受けたら退避することは難しいだろう。つまり、それだけイェリネッタ王国の新兵器を信頼しているということでもある。
そして、それは半ば間違っていなかったと証明されたも同然だ。
「射程は、およそ一キロか……? あれだけの攻撃を複数方向から連続して行われたら、反撃も難しいだろうな」
反撃に手間取れば、大砲は移動している。よほどの魔術師でなければ一度の攻撃範囲は数十メートル程度だ。一撃放つ度に移動されてしまえば、反撃したところで効果は見込めない。
「これが、これからの戦争か……」
戦いには間違いなく勝っている。だが、なぜか胸に穴が空いてしまったかのような虚無感があった。魔術師を主体として騎馬、歩兵で敵を翻弄、狙い通りに敵を動かす……そういった戦術ももはや過去のものなのだろう。
今後は、この大砲や黒色玉による攻撃が主力となり、魔術師はその攻撃を成功させる為の陽動や補助的な使い方へと変わる……。
そう思った直後、センテナの屋上から右手に広がる崖に向けて赤い光が走った。真っ赤に燃える炎の帯だ。崖は瞬く間に燃え上がり、崖の一帯へあっという間に燃え広がって、その炎の熱量を自ずと教えてくれた。
「……ジャルパ・ブル・アティ・フェルティオ侯爵。そうか、スクーデリアの番人が残っていたのか」
その苛烈なまでの炎の魔術を見て、思わず拳を握る。これで、センテナを陥落するまでの時間が大きく延びたことだろう。一秒を争う状況でありながら、敵方に現れた強大な魔術師一人の力が戦況に影響を与えたことに内心で小さな喜びを感じていた。
まるで、まだまだ魔術師の時代は終わっていないと言っているかのように思えたのだ。
もう一つ炎の帯が反対側の崖を焼き払う。
「伯爵様! センテナからの魔術による攻撃があるかもしれません! 一旦、後方へ避難を!」
騎士団長が避難を申し出てくるが、首を左右に振って拒否する。
「問題ない。あの攻撃はたった一人の手によるものだ。あれだけ目立てば十分標的になる。もう、反撃を止めて安全な場所へ移動している頃だろう」
そう告げた途端、まるで私の言葉を嘲笑うかのように空が赤く染まった。驚き振り返ると、空を焼き尽くすような獄炎の幕が空を覆っていた。
「ば、馬鹿な……なんという……」
騎士団長が驚愕に目を見開き、空が焼ける光景を眺める。
その気持ちは痛いほど分かる。私は土の魔術師であり、騎士団長は火の魔術師だ。同じ四元素魔術師として、あれだけの魔術を行使できるということが信じられないのだ。
「……これは、簡単には進めぬかもしれんな。あの、スクーデリアの番人が立ち塞がっているのだから」
困ったことになった。そういうつもりで口にしたのだが、騎士団長は眉根を寄せてこちらを見ると、苦笑して首を左右に振った。
「……伯爵様、随分と楽しそうですが」
「ふん、気のせいだ」
騎士団長の指摘に適当な返事をすると、センテナに背を向けて本陣に振り返る。崖に隠れた街道の外れに本陣はある。
「一時的とはいえ、ワイバーンが追い払われたのだ。作戦に変更があるやもしれん」
「はっ!」
本陣に向けて歩き出すと、騎士団長が背筋を伸ばして返事をした。
次にくるライトノベル大賞2022、単行本部門3位☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
本当にありがとうございます!
そんなお気楽領主5巻が8月25日発売!
是非チェックしてみてください!・:*+.\(( °ω° ))/.:+
https://over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824005854&vid=&cat=NVL&swrd=




