戦いの場へ【別視点あり】
なんと、物資の補給は一日で完了した。カムシンやロウが街に残ったフェルティオ侯爵家騎士団の団員に助力を願い出たお陰である。
さらに、街の住民の協力で物凄い格安でセアト村騎士団とパナメラ騎士団の団員達は宿に泊まることが出来た。久しぶりのベッドでの熟睡。この休息のお陰で、翌日の早朝には元気いっぱいで出発することが出来るようになったのだ。
「皆さん、ご協力ありがとうございました!」
街の城門前で、代表者として僕がお礼の言葉を口にする。城門には衛兵や一部領民以外にも、わざわざ城から執事やメイド、アンドレさん達騎士団の人々まで出てきてくれていた。
「ヴァン様! お気をつけて!」
「はーい! 行ってきまーす!」
総勢百人以上に見送られて僕たちは出発する。それにティルが終始上機嫌で紅茶をカップに注いでくれた。
「皆さん、紅茶をどうぞー」
「ありがとう」
ティルに接待されるまま紅茶とお菓子をいただき、ゆったりとした時間が流れる。すると、アルテが話題の一つとして街や城の様子を口にした。領民の生活や豊かな生活風景。フェルディナット伯爵の領地よりも豊かで都会に見えたようだ。
そんな話題の中で、城で働く執事やメイドにも触れた。
「そういえば、ティルさんが話をされていたメイドの方々は何故怒っていらっしゃったのでしょうか?」
アルテがそう質問すると、ティルはお菓子を食べていた手を止めて、自慢げに胸を張って自分の胸に手を当てた。
「はい。元同僚の皆さんからはセアト村での生活について聞かれました。怒っていたというか、羨ましがっていた、という感じですね。なにせ、ヴァン様が侯爵家を出られた時に、誰がヴァン様に付いていくかで激しい戦いが繰り広げられましたから。そして、その勝者が私です!」
ティルはご機嫌でそんなことを口にする。それを、ぼんやりと聞いていたパナメラが反応した。
「ほう? 侯爵家の当主が住む居城に勤めるメイドが、辺境の村の領主になる少年の方を選ぶというのか。侯爵の人望が窺えるな」
何故か嬉しそうにそんなことを言うパナメラに苦笑しつつ、ティルの言葉に補足説明を加える。
「いや、追い出される僕に同情してくれる優しい人が多かっただけですよ。ティルは元々僕のお世話係でしたからね。そのまま付いてきてくれたんだと思います」
照れ隠しでそう答えるが、ティルが眉根を寄せて口を尖らせた。
「そんなことありません! 最初はくじ引きで決めようって話になりましたが、話し合いの結果三本勝負になったんです。十人以上で二時間戦って、ギリギリのところで勝つことが出来ました……その激戦を無かったことになんて……!」
「ご、ごめんごめん。よく分からないけど、僕が悪かったよ」
珍しくご立腹のティルに平身低頭で謝罪をする。それに、アルテもパナメラも楽しそうに笑った。最初はどうなるかと思ったが、平和かつ楽しく旅を送ることができている。それもパナメラが合流してくれたおかげだろう。
口には出さないが、内心で密かにパナメラへの感謝をしながら、僕は戦いの場までの道のりを進んだのだった。
【ジャルパ】
攻守に優れた立方体を組み合わせた形状の要塞。石造りだが、魔術での攻撃を視野に入れて壁は限界まで厚く作られている。五十年以上前に建てられたというのに、その威容はいまだに健在だ。壁は赤みがかった石材が主として使われているが、繰り返される補修で一部の壁は灰色に近い色のものもあった。
周辺は切り立った崖であり、さらに奥には険しい山々が続いている。シェルビア連合国に対する要所とされるだけあり、この要塞さえ守ればシェルビア連合国は我が領地に侵入することは難しくなる。
それが北部の壁と称される要塞、センテナである。
要塞センテナの無事な姿を見て、表情には出さずに安心した。
「閣下、先に私が確認に向かいましょう」
と、馬車の横で馬に乗って移動しているストラダーレがいつもの不愛想な顔でそう口にした。
「うむ。騎馬隊で向かえ。様子がおかしいと感じたらすぐに戻って来い」
「はっ!」
指示を出すと、ストラダーレは素早く駆け出し、センテナの城門へと向かっていく。その統率力は目を見張るものがあり、わずかな時間で騎馬隊の隊列を整えると、即座に移動をし始めていた。
ストラダーレは一万を超える我が騎士団の騎士団長として、誰よりも信頼を寄せる男だ。本来なら歴戦の猛者であり、ストラダーレの上官でもあったディーの方が騎士団長になる筈だったが、過去にあった大きな戦で目覚ましいまでの戦果を挙げての大抜擢となったのだ。
副団長となったディーとは何度も模擬戦を行い、常に互角の戦いを繰り広げてきた。個人の武勇ではディーの方が上だろう。しかし、全体の指揮に関してはストラダーレの方が一枚上だと思っている。
ストラダーレの方が若いこともあり、後数年もすれば個人の武勇もストラダーレの方が上になるのは間違いない。だからこそ、ディーには副団長としてストラダーレを支えつつ、ストラダーレに足りない部分を補ってもらいたかった。
そう思っていたからこそ、まさかヴァンが出ていく時にディーが同行するとは思わなかった。エスパーダにしてもそうだが、なぜ自殺ともとれるような選択をするというのか。
重要な人材を奪われたような気持ちになり、しばらくはヴァンの名を聞くだけで苛々したものだ。
だというのに、今では陛下一番のお気に入りとなってしまい、大きな戦では必ず顔を見るようになってしまった。それどころか、離れていても話題に出てくることがあるくらいだ。
まったく、気に食わない。せめて、独立していなかったのなら全てフェルティオ侯爵家の功績とすることもできただろうが、男爵とはいえ爵位を手に入れてしまっては別の家という扱いになる。
「……恩知らずめ、世話になった生家に奉公しようという気もないのか」
吐き捨てつつ、それが難しいだろうということも自覚している。八歳で家から出したのだ。フェルティオ侯爵家への情などないだろう。
このままヴァンが手柄を挙げ続ければ、いずれはフェルティオ侯爵家の領地や権利を奪い取られる可能性もある。そうならない為には、出来るだけ早急に大きな手柄を挙げる必要があるのだ。
「シェルビア連合国……貴様らが誰を相手にしているのか、思い知らしめてやろう」
自らを奮い立たせるように、低い声でそう呟いて口の端を釣り上げた。
皆さまのお陰で次にくるライトノベル大賞2022にて、単行本部門3位の快挙☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
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