当主の不在
お気楽領主5巻!8月25日発売決定!☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
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「ま、まぁ、なるようになりますよ……はは」
怒り狂うマイダディの姿を想像しながら、軽口で応えた。
しかし、内心では穏やかになれずにいた。確かに、ただでさえフェルティオ侯爵領とフェルディナット伯爵領はセアト村に領民を取られている状況だ。イェリネッタ王国との大きな戦の影響もあり、周辺地域で最も安全だと噂されるセアト村に逃げてきた人々は数多くいる。
それを領主の居城がある都市で勧誘などすれば、領民の流出は加速する可能性があるだろう。
いや、流石に大丈夫か。なにせ、この街は北部地域では一番の都会である。なんでも手に入る都会からスローライフを求めて田舎に移住する、なんて環境でもないはずだ。
心の中で自ら自分のフォローをしつつ、馬車の窓から見える実家を見上げた。高い塔がいくつもあり、使われた石材の色をそのままにした大きな城は周囲に必要以上に威圧感を与えている。
大通りの正面。正門の奥に二階のテラス部分が見える。その斜め上の窓の部屋が、僕の部屋だった。今は僕の部屋には誰もおらず、ただの寝室としてそのままにされているに違いない。ほかの窓と同じなので、誰もあの窓に注目はしていないだろう。
「ふむ、流石にフェルティオ侯爵の居城は力強いな。武力でその地位を確固たるものにしただけはある」
感傷に浸っていると、パナメラが何気なくそんなことを呟いた。
「そうですね。僕の知る限り、この街が戦場になったことはありませんが、籠城戦もできる堅牢な造りだと思います」
返事をすると、パナメラはこちらを一瞥してから鼻を鳴らす。
「……ふむ、そうか」
なにか気に食わなかったのか、パナメラは短い相槌を打って腕を組み、背もたれに体重を預けた。その様子を少し気にしつつ、アルテが口を開く。
「あ、あの、事前に連絡もなく向かって大丈夫でしょうか?」
不安そうに質問されてパナメラが肩を竦めた。
「実の子が帰郷したというのに、事前に連絡もなにもないだろう」
と、素っ気ない態度で返事をするパナメラに、思わずアルテと顔を見合わせる。だが、何となく聞き辛い雰囲気だ。
「……あ、もう正門に到着しましたよ! ほら、門番のアンドレさんが」
パナメラの様子がおかしいことに気が付いたのか、ティルも少し困ったように笑いながら話題を変えた。窓から見ると確かに見知った顔の門番の姿がある。ロウが走っていき、その門番に話しかけている様子が目に入った。
わずか数秒程度だろうか。ロウはすぐに踵を返してこちらに向かって走ってくる。
「ヴァン様、ジャルパ様はシェルビア連合国との国境近くへ騎士団を率いて出立されたそうです」
「……嫌な予感が当たっちゃったかな? いつ出発したか分かる?」
「二週間前と聞いております」
ロウの報告を聞き、頷いて答える。
「二週間……それなら、もう目的地に着いている頃だろうね」
「ふむ、そんな距離か? 侯爵が自らの騎士団のみでシェルビア連合国を迎え討とうとしているなら、それこそ傭兵も雇って一万ほどの兵は用意しているはずだ。そうなるとまだ到着まではしていない可能性もある」
「そうですね。セアト村に来なかったことを考えると一か月以上の準備期間があります。近隣の傭兵団を集めて準備を調える時間を考えると丁度良いです」
パナメラの推測に同意してから、馬車の外にいるカムシンに声を掛ける。
「急いで手分けして食料や物資を補給してくれるかな。出来たら、明日か明後日の早朝には出発しよう」
「はい!」
指示を出すと、カムシンは背筋を伸ばして返事をした。その返事を聞いてから、御者に声を掛ける。
「情報収集をしたいから、お城に行ってみようか」
「はっ!」
若い騎士団の青年が返事をして、馬車を進める。門番のところまで移動すると、髭をたくわえた初老の門番、アンドレが僕を見上げて声を上げた。
「おお! ヴァン様! お久しぶりでございます!」
「久しぶり。アンドレさんも元気そうだね」
笑顔で挨拶を返すとアンドレは嬉しそうに笑った。
「はっはっは! ヴァン様は変わりませんな! ヴァン様が男爵になられたと聞いたときは城内は大騒ぎでしたぞ! いや、どうやら街の方でも噂になっていたようでしたが」
好々爺といった雰囲気でアンドレは上機嫌にそんなことを言う。それに少し照れながら、片手を振って応えた。
「いやいや、運が良かったんだよ。あ、そうだ。もしアンドレさんがお仕事辞める時はセアト村に移住してね。騎士団の先生になってもらうから」
そう告げると、アンドレは目を瞬かせて驚く。
「わ、わしをですか? いや、もうこの通り、門番くらいしかさせてもらえない老いぼれでして……」
自信なさげにそう呟くアンドレに、大袈裟に首を左右に振って否定する。
「そんなことないよ! 僕が二歳の頃はフェルティオ侯爵騎士団の兵士長だったんだから! 百人規模の運用は任せとけって、自信を持って指南役になって欲しいかな」
笑いながらそう告げると、アンドレはウッと息を呑み、涙ぐんでから何度も頷いた。
「は、はい……! まさか、そんな幼い頃のことも覚えておいでとは……お任せください! 出来るだけ早急に、ヴァン様の下へ馳せ参じますぞ!」
「うん、ありがとう! アンドレさんが来てくれたら百人力だよ!」
アンドレの言葉にお礼を言うと、アンドレはついに涙をこぼした。その様子を見て、馬車の中でパナメラがフッと息を漏らすように笑う。
「……まったく、大した人たらしだ。これで、激戦をくぐり抜けてきた侯爵家騎士団の熟練者が一人引き抜けたな?」
パナメラはまるで越後のちりめん問屋に「お主も悪よのぅ」とでも言うような言い方で呟いてきた。失礼な話である。実力を過小評価されて落ち込んでいる人材に、もっと能力を発揮できる場所があると教えただけではないか。そう思って、パナメラに反論する。
「思っていることを言っただけです。フェルティオ侯爵家では長期間の遠征や大規模な戦いへの参加が多い為、体力が不足してくる五十歳以上は街に残される傾向にあります。それも門番や街中の見回りなどです。それはあまりにも人材の無駄遣いでしょう? つまり、フェルティオ侯爵家の騎士団の運用が悪い、ということですね」
そう言って肩を竦めると、パナメラは噴き出すように笑って僕の背中を叩いた。痛い。
「面白い! ようやく調子が戻ってきたな! 感傷的な少年はたいそう面白くなかったぞ? どうせだから、この調子で侯爵家の人材と領民を強奪してやろうじゃないか!」
パナメラはそんな恐ろしいことを言って、大きな声で笑い出した。いやいやいや、そんな大それたことは考えておりません。なんてこと言うんだ、この人は。
と、内心でパナメラを非難しつつ、一方でパナメラが何に苛立っていたのか察することが出来た。
言葉通りにとれば、過去のことで感傷的になる僕への不甲斐なさへの苛立ちだが、言葉の端々にはジャルパへの怒りのようなものを感じることが出来る。つまり、初めて僕の領地へ来た時と同じ感情だったのだろう。
子供を蔑ろにしたり、不幸にしたりするという状況に腹を立てていたのだ。この場合は、八歳で家を追い出された僕への同情である。パナメラの性格ならば、男であり男爵である僕の自尊心の為を考えて、同情しているとは口に出来なかったに違いない。
ツンデレである。
パナメラが笑う姿を見て、なんとなくアルテと顔を見合わせて笑いあったのだった。
皆さまのお陰で次にくるライトノベル大賞2022にて、単行本部門3位の快挙☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
本当にありがとうございます!
そんなお気楽領主5巻がもうすぐ発売!
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