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【別視点】激闘

 私にとって、これは幾つも経験してきた単なる盗賊退治でしかない。


 騎士の方が少ない時だってあったし、行軍中に奇襲されたこともある。それらは盗賊が依頼者を脅してまでして得た情報であり、騎士団を潰すべく万全の状態で行われた戦いだ。


 だが、私はその悉くを打ち破った。


 全ては練度の高い兵達と最良の陣形、戦い方を選択した結果だと思っている。


 まぁ、つまり私の指揮はそれほど卓越し、天才的であり、最高だと自負している。


 だが、そんな私が今はヴァン様の指揮に従ってみたいと思っている。


 驚くべきことだ。団長のストラダーレの指揮であっても、自分の方が上手く指揮をすることが出来ると思うというのに。


「……いや、違うな」


 これまで、私の予測を何度も裏切ってきたヴァン様だからこそ、その指揮を間近で感じたいと思っているのだ。


 それに気付き、自然と笑みが浮かんだ。


「はっははははっ! 面白い! さぁ、どうなるか! 見ものである!」


 笑いながら階段を登り、バリスタを構える村人達の怯えた顔を見て、腰の引けた者共の背中を叩き、街道を見た。


 辺境故に何も遮蔽物も無い、見晴らしの良い街道だ。あの村人はかなり遠くに現れた盗賊団に気付き、声を上げたのだろう。優秀な斥候になれる。


 何しろ、私の目にはようやくこちらに向かって走ってくる集団が野蛮な盗賊だと認識出来る距離なのだ。


 野蛮な盗賊どもは統一感のない荒くれ者らしい格好で走ってくる。中には大口を開けて剣を振り上げた格好の者までいた。


「……む、走ってくる?」


 その光景に、私は頭を捻った。すると、後方からヴァン様の声が響いてくる。


「どうかなー!?」


 いつものヴァン様の落ち着いた声に笑いながら、私は一兵卒のように素直に状況を伝える。


「数は五十から百! まだ数百メートルは先です! ただ、不審なことに盗賊団は全力疾走でこちらに向かっております! 着いた頃にはバテて地面に転がるでしょう!」


 そう返答すると、ヴァン様は一秒か二秒ほど間を置き、すぐに返事をした。


「分かったー! もしかして、盗賊が何かに追われていないかなー?」


 と、そんなことを言ってきた。


 成る程。確かにそれならばあの全力疾走も分かる。つまり、巡回中の騎士団に見つかったか何かしたのだろう。


 そう思い、私が目を凝らして見ていると、隣の村人が「あ!」と声を上げた。


「なんだ?」


 聞くと、村人は盗賊団の背後を指差した。土煙が少し上がっているせいではっきり見えないというのに、何か分かったというのか。


「尾だ! 尾が見えた!」


「……尾?」


 あまりにも断片的な情報に首を傾げるしかないが、今一度確認せねばなるまい。


 バラバラだが五列ほどに広がって走ってくる盗賊どもの後方を見る。


 やはり土煙でよく見えん。しかし、隣の村人以外からもなにかを発見したかのような声が次々と聞こえてくる。


 なんなんだ、この村は。皆異様に目が良いとでもいうのか。


「あれは、甲殻亜龍アーマードリザードだ!」


「それも一頭や二頭じゃないぞ!」


 その叫びに、私は顔を顰める。


 最悪だ。この村にとって、最も嫌な相手が現れてしまった。


 急いで背後を振り返り、地上にいるヴァン様を見て叫ぶ。


「ヴァン様! どうやら盗賊を追い立てるのはアーマードリザードの群れのようです! アーマードリザードの通常見える範囲には、並みの武器は効きませんぞ!」


 そう言うと、ヴァン様の顔が心なしか曇ったようだった。


 それはそうだ。この村において、戦える魔術師はエスパーダとあの冒険者の娘くらいだ。そして、冒険者達は資材調達に出てしまっている。


 魔術師がいなくとも、鎧や重装備を備えた騎士団ならば、アーマードリザードの動きを抑え、弱点である腹部を斬るなどの攻撃を加えれば討伐可能だ。


 だが、村人にそんなことはさせられないし、出来ないだろう。


 かくいう私も、最重量装備をして一人で二頭相手にするのが限界だ。部下達は二人で一頭といったところか。


 つまり、重量のあるアーマードリザードの突進や爪、尾の攻撃を受けながら、ただ耐えることしか出来ない。


「皆! バリスタの矢を変更! 横に置いてる鉄の槍を載せて!」


 と、ヴァン様の指示があった。


 僅かな可能性に縋り、せめてバリスタの攻撃力を上げるということか。


 やらないよりは良い。だが、無駄であろう。


「……いや、私はヴァン様の指示に従うと決めた。無心である。一兵卒はただ言われたことを的確に実行するのみ!」


 一つ空いていたバリスタに向かい、村人達と共に矢をすげ替える。


 敵を盗賊と想定していたため、矢はあの不思議なヴァン様の作った木槍だった。これでも普通の人間ならば十分な牽制になるだろうが、アーマードリザードは簡単に弾くだろう。


 軽いその矢を外し、次に側に置かれている鉄製の矢を手に取った。重いが、短剣程度の重さだ。威力は格段に上がるが、私の振るう剣の威力には達しない。


 せめて、力のある剣士がもう三人、いや五人いれば間違い無いか。


 私を合わせて六人が援護をもらいながら戦えば、十や二十の群れであっても撃退出来たものを……。


 内心で歯噛みしながら、鉄の矢を載せた。


 弓の部分に添え付けられた棒を引き、弦を引く。ぎりぎりと音が鳴るが、バリスタ本体は恐ろしく頑丈だ。これは、本当に良い造りをしている。


 とても八歳の子が造った代物とは思えない。


 そっと感動しながら、私は準備の整ったバリスタを構えて街道に視線を移した。


 もう盗賊どもは目の前だ。


「た、たしゅ……! たす、けて……!」


 息も絶え絶えに走ってくる盗賊どもは、思ったより少ない。四十人前後か?


 そして、盗賊どもが近づいたお陰で、その後ろに迫るアーマードリザード達の全容が見えてきた。


 そのどれもが大型だ。頭から尾の先まで見れば、八メートルを超えるだろう。堀が無ければ、立ち上がるだけでこの防壁まで届いたに違いない。


 それが、およそ三十から四十。稀に見る大群だ。


 こんなもの、中規模の街でないと防ぎようが無いぞ。


「八メートル級のアーマードリザードが約四十! 速度は餌が一人脱落する度に落ちるため、大したことはありません!」


「餌って盗賊の人ー? 可哀想にー!」


 と、ヴァン様の場違いな発言に思わず吹き出した。


「はっはっは! 申し訳ありません! 失言でした!」


 笑いながら謝罪していると、近くの村人達から信じられないものを見るような目で見られた。


 私とて、これが窮地だとは思っている。


 だが、窮地に立たされた時こそ冗談でも言って笑い、肩の力を抜かねばならん。余分な力は必ず足を引っ張る。


「それじゃ、引きつけてから撃つって意味も込めて、堀に盗賊の人達が落ちてから射ってねー! 皆ー! 堀の前に来たら射るんだよー?」


「は、はい!」


「分かりました!」


 ヴァン様の指示に、村人達が震えながら従う。


 なに、安心せよ。


 上手いこと口内や目などに当たれば牽制成功だ。時間を稼ぎ、あの魔術師の娘が戻ってきた頃に、私がアーブとロウを連れて突撃してくれる。


 エスパーダの援護もあれば、なんとか一体ずつ戦える環境も作れるだろう。


 ヴァン様の領民たる貴様らが誰一人死ぬことなく、この戦は終わらせてみせるぞ。


「さぁ、やろうか! 皆の者! 今日は蜥蜴の串焼きである!」


 私は歯を見せて笑い、村人たちを鼓舞したのだった。


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