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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】城主の誇り

【ムルシア】


「ヴァン男爵の新たな領地へようこそ、陛下。歓迎させていただきます」


 緊張にガチガチになりながら挨拶をして、頭を下げる。陛下は馬車からゆっくりと降りると、こちらを見下ろして口を開いた。


「ふむ、中々立派に代官を務めておるではないか。折角だ。代官自ら案内してくれんかね」


 そう言って笑う陛下の姿に安心して一礼する。良かった。機嫌が良さそうだ。


「お任せください。陛下をご案内できるなど、光栄の極みにございます」


「そうか。では、案内してもらおう」


 最小限のやり取りだ。緊張し過ぎて時間のかかる丁寧な受け答えができそうにないので仕方が無い。出来るだけ悪い印象を与えないように努力するしかないのだ。他にもまだ後続の貴族や騎士団が到着している最中だが、陛下の言は何よりも優先すべきだろう。無言でディーを見ると、アーブに何か指示を出してこちらに歩いてきた。


 アーブは何人かの騎士を残して、城門の前へ移動する。どうやら、後続の貴族の相手もしてくれるようだ。ディーもアーブも、そして防衛の重要な役目を担ってくれている機械弓部隊の面々も、全てヴァンの部下である。つまり、この城塞都市の騎士団が十分な人員を確保出来たら、セアト村に戻ってしまうのだ。


 果たして、ディーやアーブ達がいなくなって上手くやっていけるだろうか。元々の私の指揮する騎士団にはマーコスを含めて有能な者が多くいる。しかし、それでも経験は足りていない。それは司令官である私自身もそうだ。むしろ、私の方が圧倒的なまでに経験不足だと言えるだろう。


 いや、一番の問題はこんな自分の考え方、自信の無さなのかもしれない。このように頼りない人物が今後最も重要な拠点となるであろう場所を防衛出来るのか。そして、そんな状態であることを陛下にバレずに管理していくことが出来るのか。


 そんなことをぐるぐる考えながら歩いたためか、設備の説明もせずに歩いてしまった。そのため、陛下やベンチュリー達に声を掛けられて初めて答えるような形となってしまう。


「ムルシア殿。あの小さな城は? 複数あるようだが」


「あ、は、はい。この城塞都市はご覧の通り、巨大な壁の通路を複雑な道順で進まないと中心にまで辿り着きません。そのため、城壁を越えた後にも各小城が防衛拠点として機能します。また、壁には弓を射る場所が随所にあります。そこから小城を攻めようとする相手を攻撃することもできます」


 誰かから出た質問に答えると、壁を見上げたベンチュリーが口を開く。


「……遥か昔に廃れた構造だな。強力な魔術師が多数現れた今、弓矢を防ぐ騎士が前に立てばそういった待ち伏せは難しくなっている。その辺りはどうするつもりだ?」


 どうやら構造を貶めたいわけではなく、純粋な疑問のようだ。しかし、歴戦の猛者たるベンチュリーが口にしたことで、全員の意識がこちらに向いてしまう。城塞都市の守り方、各設備の運用方法はヴァンやディーに聞いている。


 自分に自信を持って説明をしなければ、説得力を持たせることが出来ない。


 気を強く持って、私はベンチュリーの顔を真正面から見た。


「……ご安心ください。センガンという名前の仕掛けで、城壁と同じく簡単には壊されない戸で守られています。更に、そこから攻撃するために使う武器はヴァン男爵の作った連射式機械弓です。たとえ重装歩兵が複数人で守ったとしても完全に矢を防ぐことは出来ないでしょう。逆に効率的に城壁を突破して侵入した魔術師を狙える構造となっていると思います」


 そう、力強く断言すると、ベンチュリーは片方の眉を上げて笑みを浮かべた。


「ほう、なるほど。確かにあの恐ろしいバリスタや弓が相手ならばその辺の魔術師では対抗も出来んだろうな。まぁ、我ら程度に魔術が使えれば離れた場所から城壁を崩す形で……いや、その時は城壁からバリスタで対処するということか。なるほど、これは中々攻め難いな」


 ベンチュリーが感心したように呟く。それに同調するように他の貴族達も口を開いた。


「遠くから魔術で城攻めをするのは難しく、かといって物量で攻めるのも難しい……なるほど、難攻ですな」


「流石はヴァン男爵の設計、と言うべきでしょう」


「ふむ、そうだな」


 そんな貴族達の声を聞いて、僅かに劣等感を刺激されたが、それでも自身の弟を褒められたことが嬉しかった。


 それに答えようとすると、自然と顔が上がり声量も大きくなってしまう。


「そうでしょう! この城塞都市は以前のものとは全く別物になっています。今の小城や城塞都市内の構造もそうですが、更に凄い仕組みが無数にあります。本当ならもっと組み込みたい仕掛けがあったこともヴァンから聞いておりますが、それでも、これ以上難攻不落という言葉が相応しい要塞は存在しないでしょう。それはこの城塞都市を管理している私が断言します」


 誇らしい気持ちと共に、この城塞都市の素晴らしさを熱く語った。結果、それまで談笑しながら城や城壁を見上げていた貴族達も目を瞬かせて私に視線を集めている。


 まずい。早速やらかしてしまった。ヴァンの作った城塞都市が褒められて調子に乗ってしまった。これが自分のことであったなら、生来の自信の無さからそこまで喋り過ぎてしまったりしないというのに……。


 冷や汗を流しながら、陛下の反応を見た。


 すると、陛下は噴き出すように笑いながら私の背を軽く叩く。


「わっはっは! そうか、そうか! いや、最初は少々頼りないかとも思ったが、予想を大きく超えて良き代官をしておるな! その自信、頼もしく思うぞ」


 予想外に陛下は上機嫌でそう言うとこちらを見て再度口を開いた。


「そういえば、この城塞都市の名を聞いておらんかったな。それほど自信を持って語ってくれた難攻不落の要塞だ。もう名前も決めておるのだろう?」


 そう質問されて、思わず息を呑む。だが、答えないわけにもいかない。


「……城塞都市、ムルシアです」


 一気に小さくなってしまった声でそう答えると、皆が目を瞬かせたのだった。





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