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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】兄弟の再会3

【セスト】


 緊張感の欠片もない大声に、流石のヤルドも毒気を抜かれてしまった。二人揃って顔を上げて、メイドの後方を見る。


 道の向こうから十人程度の人影がこちらに向かってくるのが見えた。


 真ん中の子供はヴァンだ。少し背が伸びたように感じるが、他は特に変わっていない。後ろの人物は誰か分からなかった。てっきりエスパーダとディーが側にいるものと思っていたが、二人の姿は見当たらない。


「……ヴァン。メイドをしっかり教育しておけよ」


 やっとか、といった様子でヤルドがそう告げると、メイドの肩がビクリと跳ねた。途端に不安そうになるメイドの背中に手を添えて、ヴァンが前に出てくる。


「すみません。ティルは僕のことを幼少の頃からみてくれていたので感情が先立ってしまったようです。普段はとっても素晴らしいメイドさんですよ。おっちょこちょいだけど」


 笑いながらヴァンがそう答えると、ティルと呼ばれたメイドが照れたように俯いた。それが気に入らなかったのか、ヤルドは面白くなさそうな表情で口を開く。


「……久しぶりだな、ヴァン。セストと領地を見せてもらったが、中々の発展ぶりじゃないか。まぁ、まだ我らの街よりも規模は小さいが、活気があって治安も良さそうだ。とはいえ、俺ならもっと大きく発展させていただろうがな」


 ヤルドはそう口にして肩を竦めてみせた。それに、ヴァンの後ろに並ぶ男女達が呆れたような顔をしている。


 いや、ちょっと待て。なんだ、あの豪華な衣装は……戦場に赴くとは思えないような高価な生地、細かな装飾。まるで、我が父上のような豪華な作りだ。まさか、上級貴族の当主たちか?


 しかし、それならばいくら自領とはいえヴァンが引き連れて歩くみたいな構図はおかしい。ヴァンは爵位を得たとはいえ、まだまだ男爵の筈だ。それとも、ヴァンが子供ゆえに無礼も許されているということか。


 どちらにせよ、下手をしたら自分よりも立場が上の相手である可能性が高い以上、こちらから挨拶をした方が良いだろう。


 そう思い、ヤルドの隣から顔を出してヴァンに小声で話しかける。


「……ヴァン、後ろの方々を紹介してくれ」


 そう告げると、初めてヤルドもヴァンの後ろに並ぶ男女の顔や衣装の違和感に気がついた。


「む。確かに……」


 ヤルドが小さな声で同意の言葉を口にする。それが聞こえたのか、ヴァンは小さく苦笑しながら一歩横に動いて後ろの人物達と我々を対面させるような構図にした。


「まず中央のナイスミドルな御方が、我らがディーノ・エン・ツォーラ・ベルリネート国王陛下。次に隣にいらっしゃる美しくも力強い淑女がパナメラ・カレラ・カイエン子爵。次に……」


 ヴァンが一人ずつ肩書きとともに紹介をしていく。だが、声は聞こえているが頭の中にあまり入ってこない。


 何せ、最初に軽く紹介した人物が国王陛下だと言うのだ。後の人物も爵位を持つ者が多かったが、陛下の後に紹介されても存在が霞んでしまう。


「……最後に、こちらが料理上手で優しい超有能メイドのティル。そして、今や騎士団でも屈指の腕前になりつつあるかもしれないカムシンです」


 全員の紹介を終えてから、ヴァンが微笑みつつ我々の反応を待った。


「あ……も、申し遅れました。私は、フェルティオ侯爵家のヤルド・ガイ・フェルティオと申します。これは弟のセスト・エレ・フェルティオです。この度は、フェルティオ侯爵家の代表として我ら二人が参陣致しました」


 ヤルドがしどろもどろになりながら自己紹介をして、ついでに自分まで紹介されたため、流れで一緒に一礼しておく。


 陛下は苦い物を食べたような顔をしてから我々の顔を順番に眺めて、首を僅かに傾げた。


「……ふむ。イェリネッタ王国領土への侵攻だというのに、侯爵が本人ではなく子を派遣するとは珍しい。それこそフェルティオ卿の実力を発揮する最高の機会であろう。まさかお前達の方がもう父よりも実力が上である、などとは言うまい?」


 陛下が口の端を上げてそう尋ねると、ヤルドが困ったような笑みを浮かべて首を左右に振る。


「いえ、まだまだそこまでは……しかし、いずれは父をも超え、侯爵家を更に盛り立てていけたら、と」


 自信に溢れた顔でヤルドはそう答えた。陛下がどう受け取ったのかは不明だが、とりあえず先に侯爵家として勘違いされないように答えておかないといけない。


 仕方なく、ヤルドの隣で代理として口を開いた。


「あ、あの……父、フェルティオ侯爵は、しばらくしたらこちらに参ると、思います。その、戦力を更に増強しなくてはならない、と、判断しまして……」


 自分なりに頑張って状況を説明してみたが、陛下の表情は変わらなかった。少し不満そうに我々を眺めてから溜め息を吐く。


「まぁ良い。それで、先程少し気になることを言っておったな。そう、ヤルドだったか? 確か、この町を、自分ならもっと発展させることが出来る、だったか」


 陛下がそう口にすると、ヤルドは大きく頷いた。


「勿論です。この地にかなりの労働者と資材を提供されたようですが、私ならばこのような奇抜な街の形状にはしないでしょう。確かに見た目の迫力は中々のものがありますが、効率的に町を運営するならば現在の主流となっている城塞都市の方が優れています。また、奴隷の姿があまり見当たりません。奴隷を効率的に使うことは大きな利益に繋がります」


 ヤルドが自信を滲ませながらそんなことを言う。それに内心焦りながら陛下の様子を窺った。本当に、何も考えずに発言するのは止めてほしいところだ。これだけ人と金を掛けて街を発展させているのならば、もしかしたら陛下の主導で行われた可能性もある。つまり、この街の形状だって陛下のご発案かもしれないのだ。


 だが、どうやら陛下の案を馬鹿にするような危険な事態にはならずに済んだらしい。陛下は無表情で成程と納得したように頷いていた。


「ふむ、我が国の一般的な街の形状と統治が最も優れている、と言いたいわけだな? これが一年前ならば、私もそのように思ったことだろう。しかし、残念ながらこのヴァン男爵の領地は我が王国の一般的な城塞都市よりも遥かに強固だ。更に恐るべきは、この領地は誰からの力も借りずにヴァン男爵がこれだけ発展させた、ということだ。その事実を理解してから、改めてヴァン男爵の領地を見て回ると良い。必ず、お前たちの良い学びとなることだろう」


 陛下にそう言われて、思わずヤルドと共にヴァンの顔を見る。ヴァンは嬉しそうに胸を張って立っていた。


 これだけの城塞都市を、ヴァンが?


 ありえない。不可能だ。そもそもヴァンは大した私財も持っておらず、期間は僅か一年と数か月しかない。どうやって、こんな都市を建設するというのか。人も金も資材も膨大な量が必要となるのは容易に想像がつく。


 ヤルドもそう思っただろうが、陛下のお言葉に逆らうわけにもいかず、ただ静かに「承知しました」とだけ答えたのだった。






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