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我が部下達の葛藤

 村の四方の角に物見櫓を作ってみた。


 とはいえ、材料の問題もあり、二階建ての屋上にバリスタを設置する程度の簡素なものだ。だが、見た目はしっかり城塞都市っぽくなって満足である。


 まぁ、規模はかなり小さいが。


 そうこうしている内に、辺りはすっかり暗くなった。


 ティルは食事を用意するといってカムシンを呼び、入れ替わるようにして家に行ってしまった。


「よく働いたね」


 そう声を掛けると、カムシンは悔しそうに俯く。


「どうしたの?」


 尋ねると、カムシンは土に汚れた両手を開き、溜め息を吐いた。


「僕は、何メートルか石を積んだだけです。ヴァン様がこんなに、村を変えたのに……僕は石を積むくらいしか……」


 声が沈んでいくカムシンに、僕は困ったように笑う。


「僕は領主だからね。村を良くしていかないと。カムシンは、何を目標にしてる?」


 僕の問いに、カムシンは難しい顔を見せる。十歳にする質問じゃなかったかな。


 そう思っていると、カムシンは力強い目でこちらを見返してきた。


「……僕の目標は、ヴァン様を守ることです」


 その言葉に、僕は思わずキュンとした。


 いや、冗談を言える雰囲気ではないか。


「無理はしなくて良いからね。でも、ありがとう」


 ちょっと照れるが、感謝は伝えておこう。


 カムシンは返事をしつつ、急に僕の前を歩き出した。胸を張って、周囲を警戒しながら歩くその姿に、思わず笑ってしまう。


 第三者が見たら十歳と八歳の子供が遊んでるって感じで微笑ましいかもしれない。


 まぁ、カムシンは大人顔負けの強い気持ちと覚悟で目標を目指しているが、そんなことは分からないだろう。


 今度は、カムシンに鎧を造ってやろうか。


 少しでも、立派な騎士に見えるように。






 それから三日間。僕はよく働いた。


 村の防壁は生産系魔術を使って全て固めた。表面に石を配置していたのだが、それを接合してコンクリートみたいに強くしている。


 高さも微妙に疎らだったのを、一番高い部分の三メートルで揃えた。


 上部は幅一メートル半くらい。そこに等間隔にシールド付きバリスタを合計百台備えた。


 これがタワーディフェンスなら機銃と地対空ロケット砲を交互に設置したいところだが、残念ながらそんなものは作れない。


 世の中には火薬の研究をし、形だけでも銃を造った者がいると聞く。行商人が来たら聞いてみよう。


 ちなみに、防壁の外の堀は三日で村の周囲を囲むまでに至った。村の正面にのみ橋を渡せるようにしており、滑車で上げ下げする。


 門も裏側に金属の板を当てて更に補強した。


「うむ。満足満足。こんなに強い村は中々無いぞ」


 僕がそんなことを言っていると、ティルやカムシンは「はい!」と嬉しそうに返事をし、エスパーダやディーは眉間に皺を作り唸った。


「……これはもはや村ではありません」


「小さな要塞ですな。まぁ、盗賊如きではどう足掻いても攻略出来ますまい」


 二人も太鼓判を押してくれた。何処か呆れたような空気が流れているのは気のせいだろう。


 と、ディーが悔しそうに口を開く。


「……ヴァン様のこの御力を、ジャルパ様が気付いて下さったなら……侯爵家はヴァン様を当主、もしくは補佐として大きく発展したものを……」


 その呟きに、エスパーダが眉根を寄せた。


「そのような事は言ってはなりません。ご当主は戦える力を最も重要としただけのこと。そのお考えの可否など、私達が決めることではないのです」


「しかし、エスパーダ殿! これを見れば分かるだろう!? ヴァン様の御力は充分に戦える力ではないか! むしろ、時間さえあれば誰よりも強大な力とさえ言える……!」


「ヴァン様の御力は守る力です。この拠点を動かすことは出来ないように、ヴァン様の御力は他国を攻めるには向かないでしょう。その代わり、他国から攻められた時、ヴァン様がいれば鉄壁の守りとなり、民を守ることが出来る筈です」


「馬鹿な……! エスパーダ殿、戦とは兵と兵がぶつかり合うことだけではない。攻める隊と守る隊、そして補給する隊が上手く作用してこそ……」


 二人の議論は瞬く間に過熱していく。


 喧嘩でもしているかのような語気の強さに、ティルとカムシンがオロオロしだした。


 僕はそれを眺め、エスパーダ達に声を掛ける。


「境遇を悔やんでも、才能を悔やんでも仕方ないさ。自分の持ってる物だけで勝負しないとね」


 と、僕は有名キャラクターの名言をパクって我が物顔で諭してみた。


 すると、二人は目を見開いて固まる。暫く僕の顔を凝視していたが、やがてディーが吹き出すように笑いだした。


「ふ、ふははははっ! まさにヴァン様の仰る通りです! 自らの不遇を嘆いていても何も変わりません! こんな領地の端に追いやられようと、ヴァン様なら盛り返せますぞ! そして、やがてはヴァン様の領地を……!」


「侯爵家と相対する道を勧めてどうするつもりですか」


 ディーの台詞にエスパーダが冷静に突っ込む。だが、エスパーダの目は穏やかだった。表情に変化はあまり無いが、どうやら僕の台詞に喜んでいるらしい。


 こういった日の翌日は勉強の密度が高くなるため、明日は忙しいふりをして武器を作ろう。


 そう決意を固めていると、ティルとカムシンがキラキラした目で見ていることに気付く。


 うわ、直視できない。名言パクってドヤ顔したなんて言えない。


 困った僕は、村の外の堀を見るべく歩き出す。何しろ堀は穴を掘っただけで水を張るまでには至っていない。いや、水を溜めない空堀や段差のみの堀もあるが、やはり水を張った水堀が理想だ。風情があるし。


 しかし、今は少し水が入ってはいるが、徐々に土が吸ってしまっており、ぬかるんでいる程度の水気なのだ。


 やはり、堀の底や横の部分をしっかり固めないとダメか。後、水を引くルートを確保しないと。


 近くに川、湖があれば良いが、残念ながら近くには無い。ちょくちょく川まで水を汲みに行くこともあるが、あまり量は無い。他の水は雨を溜めた甕があり、それをろ過して使ったりしている。


「やっぱり、水源を確保しないとなぁ。ライフラインが一番大事だ」


 そんなことを呟きながら村の出入り口の方へ向かっていると、入り口の扉を開けて、外から村人の一人が走ってきた。


 血相を変えてという言葉がしっくりくるような、必死の形相だ。


「と、盗賊達が来た! 街道の向こうから、向かってきてる! は、早く橋を上げろ!」


 息も絶え絶えになりながら叫ぶ村人に、僕はすぐに頷き、片手を左右に振った。


「橋を上げて! すぐに扉も閉めて! 外に出てる人の数は分かる!?」


 そう指示を出すと、即座に村人達が動きだした。男は橋を上げ、扉を閉めて閂を掛ける。


 避難すべき女子供が急いで村人の顔を確認していった。


 おぉ! 僅か数日で僕もしっかり領主として認知されてきたのか! 皆が素早く行動してくれる!


 内心でちょっとした感動に浸りながら、僕は状況を確認した。


 橋はもうすぐにでも上がるし、扉は閉じられた。


 ならば、次は配置だ。


「物見櫓の上に一人ずつ行って! 防壁の上には一方向に最低五人! 入り口側には十人向かって!」


 次の指示を出してから、僕も防壁に登ろうとした。しかし、ティルに手を引かれて立ち止まる。


「ティル? 僕もいかないと」


 そう言って振り向くと、涙をいっぱいに溜めたティルの顔が目の前にあった。


 怒っている。


 それがすぐに分かった。なにせ、僕がティルの怒るところを見るのは初めてなのだから。


「……ごめん。ディー。部下を連れて様子を見に行ってくれる? 情報を伝えてくれたら、僕も後ろから指示を出すから」


 そう告げると、ディーは胸を叩いて口の端を上げた。


「お任せあれっ!!」


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