【別視点】兄弟の再会
【ヤルド】
急ぎで搔き集めた傭兵たちの準備が遅々として進まず、予想以上に出立までの時間が掛かってしまった。
そうこうしている内に、父上からは自分よりも先に出立せよとお達しが来る始末。こんなところで悪印象を与えてしまったかもしれない。と、やきもきしながら私兵たちに他の準備をさせておき、更に傭兵の装備を整える手助けまで行った。
出費は馬鹿にならない。傭兵を一カ月雇えば一人頭大銀貨一枚から三枚程度だろうか。だが、それが百人いれば一カ月で大金貨一枚から三枚。千人いればその十倍となるのだ。騎士一人の年収が金貨三枚から四枚が普通であることを考えれば、かなりの出費となる。
それに今回は一カ月や二カ月で遠征が終わるとは思えない。これでもし大した活躍も出来なければ大赤字だ。
だからこそ、少しでも陛下の印象を良くするために早急に辺境の村へ行く必要がある。
「……ヴァンの領地、か。まさか、あの出来損ないが爵位を持つことになるとはな」
四元素魔術の適性どころか、無能とまでいわれる魔術の適性だった。それを憐れんでエスパーダやディーが同行したようだが、その二人の力でどうにか手柄を立てたのだろう。冒険者だか傭兵だかを雇っていたとも聞いている。金銭においても二人から援助を受けたのかもしれない。
ディーはもちろんだが、エスパーダも過去には戦場で武功を挙げたことがあると聞く。この二人がいれば、竜を討伐することも可能だろう。結果としてヴァンは辺境の小さな村を救い、竜を討伐した英雄のような扱いを受けることとなった。運が良いと思うが、それも重要なことだ。
しかし、今度の戦いでは戦場を炎で焼き尽くして自らの力を示し、ヤルド・ガイ・フェルティオの存在を知らしめてやる。そんな気持ちで馬車に揺られながら、ヴァンの領地を目指した。
途中の町や村では多少体力の回復が出来たが、長い時間馬車に揺られるのは精神的に疲弊する。セストと話をしていても、お互い徐々に疲労が隠せなくなっていた。
そうこうしていると、ようやく先導する傭兵の方から目的地に着いたと報告が入る。
「ヤルド様ー! もうすぐ着きます!」
「……くそ。もう少し静かに報告できんのか」
傭兵の粗野な声掛けに苛立ちつつ、馬車の窓から顔を出す。あまりに品の無い言葉遣いに、初日から傭兵団長を怒鳴りつけてやったが、そのおかげで少しはまともになった。頭の痛いことに、今のもまだ良い方である。
しかめっ面で隣の馬車を見ると、似た表情をしたセストと目が合った。
「ようやく到着するみたいだね」
セストがうんざりした様子で呟く。それに頷き返して、溜め息を吐いた。
「我が侯爵領の広大さを実感することが出来たのは良かった。しかし、これだけ端に追いやられた末弟が憐れにもなるな。才能の違いで待遇が変わるだろうが、それだけ素質無しと判断されたか」
ヴァンの境遇に多少の憐れみと、四元素魔術師である自分との違いに少しの優越感を覚えてそう口にする。と、セストが眉根を寄せて馬車の進む先を見た。
「……ヤルド兄さん、あれは? まさか……あれが、ヴァンの領地?」
茫然としたような調子でセストにそう言われて、何を言っているのかと顔を上げる。だが、すぐに俺も同じ感情を抱くこととなってしまった。
「……城壁? まさか、一年余りであれほどの城壁を築いたというのか?」
街道の奥には確かに城壁に囲まれた城塞都市が見える。規模は小さいが、それでも優に千人以上は暮らせる立派なものだ。城壁の上には兵士の姿も見え、周囲への警戒もきちんとされているようだった。
「やはり、ディーとエスパーダが動いているようだな。しかし、どれだけ金を掛けたというのか」
努めて冷静にそう呟いたが、内心はかなり動揺していた。自分が代官を務めていた街はヴァンの領地から遠く、父の下へ戻って初めてヴァンの最近の噂を耳にすることが出来たのだが、それは荒唐無稽な噂だと切り捨てていた。
なにせ、ヴァンは魔術で家を建て、武器を作ったという。その力でヴァンの領地は大きく発展したらしい。
馬鹿な。そんな魔術は聞いたことがない。生産系の魔術なのは間違いないが、歴史上そんな生産系の魔術師などいなかったではないか。
噂を聞いた俺は、そう言って気にも留めなかったのだ。
だが、目の前にはとても一年余りで作れるとは思えない城塞都市があった。近づけば見上げるような城門が威圧的なまでの存在感を放っている。
「……あまり、見たことのない建築様式だな」
「そ、そうだね……それにしても、大きいな」
気圧されてしまわないように気軽な調子で話しかけたが、セストの方は動揺を隠せていなかった。そうこうしていると、城壁の上から声が掛かる。
「フェルティオ侯爵家の方々とお見受けいたしますが、間違いありませんか?」
若い女の声だ。それを意外に思いながら、先頭を行く騎士団長が返答をする。我らがフェルティオ家の者であるということだけでなく、俺やセストも来ていると伝えた。結果、すぐに城門は開かれたのだが、即時入城とはいかなかった。
「なに? 代表者十名まで、だと?」
「申し訳ありません。まだまだ多くの騎士団が到着の予定ですので」
そう言われて、門の奥の景色を睨むように眺める。門が開かれた瞬間、王都かと見紛うほど発展していた街並みに虚を突かれたが、確かに広さはそれほどではない。
「兄さん、仕方ないさ。敷地が足りないよ」
半笑いでセストにそう言われて、鼻を鳴らして頷く。
「あぁ、そうだな。いや、貧相な村をよくぞここまで、と言うべきか」
強がって返事をしつつ、街の中へ入る。セストの言葉通り、豪華絢爛かつ見上げるような建物ばかりだが、敷地は決して広くない。多くて千人ほどが住める程度だろうか。いや、建物が三階建て以上のものばかりだから、もう少し人数は住めるかもしれない。
しかし、そうだとしても自分たちが代官として統治していた街よりも小さいだろう。流通といった面でも不利に違いない。
そう思ってホッとしながら街の景色を眺めて歩いていると、何故か反対側の城門へと案内された。
「……なぜ、街の外へ出ようとする?」
「も、もしかして、僕たちを追い出すつもりじゃないだろうな」
門の前に立たされたので、二人で案内している兵に文句を言う。すると、兵は不思議そうな表情をしてこちらを見返し、何かを思い出したように頷いた。
「ああ、説明不足で申し訳ありません。ここはまだセアト村ではありません。あまりにもセアト村に訪れる冒険者が増えたので、ヴァン様が新たに作られた冒険者専用の町です」
「……は?」
兵の説明の意味が分からず、思わず生返事をして首を傾げる。冒険者専用の町など聞いたことも無い。いったい、この者は何を言っているのか。
セストと顔を見合わせて混乱する頭で言葉の意味を考える。
「開門!」
その間に、城門が開かれて街の外の景色が目の前に広がった。
「……な、なんだ、あれは……」
「……まさか、あれが、ヴァンの……?」
現れたのは、この街よりも大きく、立派な城塞都市の姿だった。
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