続々と
ようやく追加の住宅も建ち、公園なども整備出来た。図書館は本が足りず延期しているが、二階建ての学校と病院は完成している。
ちなみに僕がそれらを建てていく間に一軒だけ、セアト村にある唯一の大工屋さんが住宅を建ててくれたのだが、中々良い感じだった。手作り感もありつつ、十分な完成度だ。これなら、二ヶ月に一軒ほどのペースで建ててもらうことも出来るだろう。
安定して建物を建ててもらえば大工さんの技術向上が見込めるし、大工希望の住民も増える。農地、商会、鍛冶屋、宿屋、飲食店などは既にある。木材や石材、金属などの素材は冒険者に依頼しているので問題ない。今後はそこに教員や医師、看護師といった職業が増えるはずだ。
後は、縫製を行う衣服屋なども無いが、それは後々だろうか。
「……ともあれ、セアト村も立派になってきたなぁ」
出来たばかりの公園のベンチに座り、そっと呟く。
「ヴァン様ー? 何か仰いましたかー?」
と、僕の呟く姿が目に入ったのか、カムシンが少し離れた場所から声を掛けてきた。顔を上げると、出来たばかりのブランコで遊ぶカムシンの姿が目に入る。カムシンは真面目な顔でこちらを見ているが、それなりの勢いでブランコを漕ぎ続けている。
初めてのブランコは相当面白いのだろう。そっとアルテもブランコを漕いでいるのだが、こちらは素直に楽しそうな表情をしている。
ちなみに、ティルは二人がブランコで遊んでいるのを心底羨ましそうに眺めていた。ティルはこの前十九歳になったはずなのだが、何故そんなに遊びたそうにしているのか。いや、童心に帰りたくなる時もあるだろうけども。
そんなことを考えながら公園を満喫する三人を眺めていると、城門の方から例の如く騎士団の若人が報告に来た。
「ヴァン様ー! 騎士団がいっぱい……って、何ですかコレ!?」
「あぁ、もう陛下が到着したかな? まぁ、イェリネッタへ再侵攻するなら早ければ早い方が良いからね」
セアト村に騎士団が現れたと聞き、すぐに陛下が動かれたんだな、と察する。
「いやいやいや、ヴァン様? その見たことのない庭園はいったい……?」
「ん? あぁ、遊具のことかな? 遊具は子供用だから遊んじゃダメだよ。十八歳までね」
遊具のある公園を庭園と呼ぶことに違和感を覚えつつ、遊具について回答をしておいた。すると、団員と一緒に何故かティルまでショックを受けて固まってしまう。
二人がこの世の終わりのような顔をしてこちらを見てくるので、苦笑混じりにルール変更をすることにした。
「じゃあ、十九歳にしようか。二十歳からは禁止ってことで良いかな」
「よし!」
「良かった!」
僕の言葉に、二人は目を輝かせて喜びの声をあげた。まぁ、喜んでもらえてなにより、と思って良いのだろうか。
「……あ、誰か来たんだったよね。忘れてた」
ふと、団員の報告を思い出してベンチから腰を上げる。すると、報告に来た団員も同様にハッとした顔になって頷いた。
「あ、そうでした! 騎士団は最低でも数千人! 多ければ一万人ほどの大人数です!」
「おお、大人数」
報告に改めて頷き、アルテやカムシンのブランコを中断してもらう。後ろ髪を引かれるような態度でついてくる三人に笑いつつ、僕たちは城門まで向かった。
辿り着くと、すぐに陛下御用達の見事な馬車が目に入る。
「おお、ヴァン男爵! 久しぶり、というほどでもないな!」
「ようこそ、陛下。お元気そうで何よりです」
ご機嫌な様子の陛下が挨拶をしながら馬車から降りてこられた。馬に乗った騎士はともかく、徒歩で来たであろう周りの兵士たちが疲労感を漂わせているため、かなりの速度で行軍してきたのだろうと推測できた。
僕の視線に気づいて、陛下は笑いながら自らの騎士団を顎でしゃくった。
「このセアト村を出るのは二週間後ほどになるだろう。その間、王都騎士団の精鋭達を休ませてやってくれ。後列には途中で一緒になった他の騎士団もおるからな。何とか休める場を提供してもらえると助かる。ああ、食料もそれなりに必要になるだろうが、備蓄はあるか?」
「はい、大丈夫ですよ。最短なら二週間以内にイェリネッタ王国へ攻め込むかと思っていたので、十分過ぎるほど備蓄はしております」
そう答えると、陛下は眉根を寄せて片方の口の端を上げた。
「……ほう? それは、どうしてだ?」
「え? 相手国の領地に踏み入って重要拠点を陥落させたんですから、相手からしたら即座に奪還したいところですよね。逆に、攻める方からしたら相手が一部の犠牲を諦めて完全に守勢に入る前に、出来るだけ敵の奥深くまで攻め込んでおきたいところだと思います。双方の立場を考えて、再び攻めるなら陛下がセアト村に残られ、各貴族を使って王国軍の再編を急ぐという手段もあるかと。正規の騎士団はともかく、農民からなる兵士たちは少々可哀想ですが、たとえ報奨を増やしてでも遠征期間を延ばす形ですね。それくらい、今は時間が大切かと思っていました」
何となくでそう答えると、陛下は愉悦を嚙み殺すような不思議な表情でこちらを見た。もしかして、間違えただろうか? ヴァン君は十歳にもなってないんだから、許してくれるよね?
若干不安になりながら陛下を見ていると、息を漏らすような笑い声が返ってきた。
「ふ、これが子供の考えることか? 素晴らしい戦の才能だな。とはいえ、流石にまだ経験が足りない。ある程度の人数ならば相手に考える時間を与えずに攻め込んでいくという戦法もとれる。しかし、数万人同士の戦いを連続して行うというのは現実的ではない。特に、ウルフスブルグ山脈を通らなくてはならない場合などは、な」
そう言う陛下に、成程と頷いて返事をする。
「なるほど。確かに、何万人もいたら大変でしょうね」
長期間遠征が続いたら、ストレスは物凄いだろう。陛下としてはそういった部分も考えておられるに違いない。
ウルフスブルグ山脈に街道を作ったので、兵站の補給問題は比較的問題無いはずである。なにせ、ベルランゴ商会だけでなくメアリ商会と商業ギルドも定期的に行商に来るセアト村が補給地点なのだ。物資については後から後から補給することが可能である。
更には僕さえ出向けば武器や防具類も現地で新品となるし、冒険者達と機械弓部隊がいれば常に大型魔獣の肉を食べることが出来るだろう。やはり、問題はストレスに違いない。
そんなことを思って頷いていると、また城壁の方から見張りをしていた団員が走ってくる。
「ヴァン様! ベルランゴ商会のベルさんが戻りました! 何故か、商業ギルドのアポロ様もご一緒です!」
「え? アポロさんが?」
報告を聞き、驚いて聞き返す。一方、陛下は当たり前のように頷いた。
「ふむ、商業ギルドか。遅かったな」
そう呟く陛下に目を向けると、フッと息を吐くように笑って僕を見る。
「途中で、商業ギルドとベルランゴ商会の一団と一緒になったが、すぐに置いていったからな」
「あ、そうだったんですか……って、最低でも何千人規模で移動してるのに、よくそんなに早く……」
陛下の言葉に呆れてしまったが、当の本人は僕が驚いたのが嬉しかったのか、歯を見せて笑った。
「はっはっは! 行軍訓練に余念の無い我が騎士団を侮ってもらっては困るな。さて、商業ギルドの者が何の用件でヴァン男爵に会いに来たのか。同席しても構わないだろうな?」
と、陛下は半ば強制的なコメントを口にした。それにはいくら天才ヴァン君であっても苦笑いで頷くより他ないだろう。
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