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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】イェリネッタ王国への進撃と

なんと!

皆様のお陰でお気楽領主の4巻が3月発売です!

更に、コミカライズ版3巻も2月発売します!

皆さま、ありがとうございますー!・:*+.\(( °ω° ))/.:+




【パナメラ】


 王都に陛下が戻られて一ヶ月足らず。僅かな間に騎士団の再編成を終え陛下が出立されたと報告が入った。早馬は昼夜問わず、馬を替えながら報告に来たため、時間的には余裕があるだろう。


「こちらの準備はどうだ?」


 騎士団長に確認をすると、自信のある笑みが返ってきた。


「はっ! 新たに増強した団員もあわせて五百名が準備を完了しております! 兵站も同様です!」


「ふむ。移動に二週間。途中でセアト村に寄って、そこで物資の補給も出来るな」


 報告を聞いて、頷きながら答える。ヴァンからバリスタと機械弓を購入してからというもの、盗賊団の壊滅から大型魔獣の討伐まで今までとは比べ物にならないほど楽にこなしている。結果、大きな損害もなく様々な宝物や希少素材を手に入れており、高額なヴァンの矢を補充しても十分賄えるほど儲かっていた。


「よし、報奨について聞かれていたからな。そろそろ領地を求めても良いだろう」


 そう呟くと、騎士団長は表情を引き締める。どうやら、まだまだ慎重なようだ。


 貴族というものは案外厄介なもので、様々なしがらみが存在する。筆頭は上級貴族間の派閥問題だろう。上級貴族の人数はここ十数年変化が無い。王位継承権を手放した王族は別として、侯爵と伯爵が王都に四人、各地方に二人から三人といった形だ。各領主は国王の代わりに王国の領土を守るという形で領地を預かっている。その中でも、過去に多くの武功を挙げてきた侯爵や伯爵はその力に応じて広い領地を治めており、非常時には相応の権限も与えられている。


 つまり、もし何かが起きた際には、上級貴族が自己判断で周囲の下級貴族を動かすことが出来るのだ。その際に領地持ちの貴族は多少の発言権を持つが、領地を持たぬ私のような貴族には実質発言権は無い。


 特に、今回のように戦争が関われば上級貴族の命令を無視するだけで国家反逆罪に問われる恐れもある。


 それ故に、下級貴族達は上級貴族の顔色を常に窺い、隙あらば自らが取って代わろうと狙っていた。それはこのパナメラも同様である。


「肥え太った中年どもの指示で命を懸けるなぞお断りだ」


 小さくそう呟き、自らの手のひらに視線を落とした。貴族の端くれでありながら、剣を振り回した結果、手は随分と節くれだった気がする。その手を握り締めて拳を作り、自らの顔の前に挙げた。


「私は私の力でのし上がる。使い捨ての駒になどなってたまるか」


 そう言って口の端を上げると、騎士団長がフッと息を漏らすように笑った。


「その心意気は素晴らしいことと存じます。しかし、パナメラ様が領地を得ても、恐らくすぐ近くにあのフェルティオ侯爵がいることでしょうな。一筋縄ではいきませんぞ?」


 領地を持てば嫌でも目立つし、フェルディナット伯爵家の派閥に入っている私に対して、侯爵の当たりが激しくなることだろう。


 場合によっては、今度の戦いで厳しい局面で前に出されてしまう可能性もある。出る杭は打っておくのが貴族の常識だ。騎士団長もそれを心配してのことだろう。


 それを理解した上で、私は鼻を鳴らして答える。


「いずれ顎で使ってやるさ。私を信じろ」


 そう言って微笑むと、騎士団長は一瞬目を瞬かせたが、すぐに噴き出すように笑った。


「はっはっは! それはそれは……もとより、我々はパナメラ様に忠誠を誓った身。どうぞその野心を叶えるために使い潰してくだされ」


「良く言った」


 騎士団長の粋な返答に笑みを深めて、頷く。


 さぁ、合戦だ。この戦いで、どこまでのし上がれるか決まるだろう。





【フェルディナット伯爵】


「……陛下が出立されたか」


 報告を聞き、腰を上げる。


「……次の戦いは大きな戦いなのでしょう? 大丈夫ですか?」


 妻にそう言われて、顎を引いて息を吐く。


「次の戦いは明確に相手の領地内を突き進んでいく、十数年ぶりの侵攻だ。相手は守りを固め、罠も仕掛けていることだろう。対して、我がフェルディナット伯爵家は先の戦いで最も大きな損害を出してしまった。次の戦いに備えるための余力はない……だが、伯爵家存続のためには必ず参加せざるを得ないのだ。そして、結果もな」


 溜め息混じりにそう告げると、妻は眉間に皺を寄せて俯いた。そして、何処か恥ずかしそうに口を開く。


「……その、戦場ではヴァン男爵もいらっしゃるのでしょう? 男爵の武具はとても優れていると仰っていましたが、そちらを借り受けることは出来ないのでしょうか……今は、男爵の下に娘も預けておりますので……」


 妻がそんなことを言いだして、思わず怒鳴りそうになった。だが、その想いを察して踏みとどまる。軽く深呼吸して、冷静に口を開いた。


「……伯爵家が新興貴族に助力を求めるなぞ出来るものか。そもそも、娘を送り出したのは同盟のためではない。順序を間違えてはならん」


 それだけ言って、私は窓の外から城下町の方角を見た。夕陽で赤く染まった街は、心なしか活気がなくなってしまったように感じる。その光景に深く溜め息を吐き、拳を握る。


「私の力が及ばず、伯爵家は勢いを失いつつある……だが、今回の戦いは大きな機会だ」


 そう口にすると、妻は眉尻を下げて俯いた。


「……分かりました」


 妻の返事を聞いて頷く。伯爵家当主となってもう長いのだが、これだけ妻を不安にさせてしまっていることが情けなく、腹立たしい。


 今度こそ、自らの力を命がけで示さねばならない時だ。


 対して、自らの家を興したばかりで勢いがあるとはいえ、ヴァンの功績の数々は末恐ろしい。あれだけのバリスタや機械弓を作れる魔術があることも大きな要因だが、的確な使い方をするからこその成果だろう。


 それに瞬く間に砦を作り上げることが出来るというのも陛下に重用される要素となる。今後、イェリネッタ王国の領土へ歩を進めていけば、間違いなく相手側の方が有利な状況が発生する。地形面や補給面、兵の運用においてもそうだ。イェリネッタ王国の砦や要塞を奪ったとしても、それを上手く扱えるかは疑問が残る。


 行軍の最中に襲われれば大敗を喫することもあり得るのだ。


「……どう考えても今後はヴァン男爵の武功が最も多くなる。ならば、狙うは第二功、三功だが、あのフェルティオ侯爵を出し抜く必要があるな」


 呟いて、あの傲慢な男の顔が思い浮かび、辟易してしまう。苛烈極まる性格でありながら、冷徹なまでに戦いを支配する見事な戦術眼を持っている。正直、同じ戦力で野戦を挑めば十回のうち八回は負けてしまうだろう。


 そのフェルティオ侯爵を出し抜くには、先に敵の拠点の城門を打ち破るか、敵の将軍級の首を挙げるしかないだろう。そういった戦い方ならば、ヴァンでも参加は出来ない筈だ。


 と、そんなことを考えていると、妻が以前に言っていた言葉を思い出した。


「……そういえば、我が伯爵領が攻め込まれた時、恐ろしい騎士がイェリネッタ軍を打ち砕いたと言っていたな」


 そう尋ねると、妻は深刻な顔で首肯する。


「は、はい……情けないことに私は直接見ることが出来なかったのですが、我がフェルディナット伯爵家の旗を掲げた一団から、銀色の全身鎧を着た騎士二人がイェリネッタ王国の軍を真っ二つに切り裂いたと……」


「英雄譚としても、まるで下手な冗談のような話だ。重い全身鎧を着けて戦うのは簡単なことではない。それも、千の騎士団の只中を一騎駆けするだけでも決死の覚悟を以て行うというのに、イェリネッタ王国の軍は一万にもなろうという大軍だったという……予測でしかないが、やはりその騎士二人は人間ではあるまい」


 そう告げて息を吐く。すると、妻が俯いて懺悔でもするかのように表情を暗くした。


「……昔、アルテが私に魔術で人形を操ってみせたことがあります。その時は、卑しい魔術と評される傀儡の魔術の適性だったことに怒り、苛立ちをぶつけてしまいました……」


 妻がそう言って涙を堪えるように唇を噛むのを横目に見てから、外へ視線を向けた。


「……以前、ヴァン男爵に会った時に説教をされたよ。アルテの心に刻まれた傷はもう完全に治ることは無い。だが、少しでも癒すことは出来るはずだ。だから、アルテの話を聞いてやってくれ、とな」


 呟いてから、細く長い息を吐く。


「もう遅いのかもしれないが、君が母としてアルテに謝りたいと言うのならば、いつかセアト村に連れていっても良い」


 そう告げて振り向くと、妻は声を押し殺して泣きだしたのだった。



続刊情報は下記をご覧ください!

ノベル4巻

http://blog.over-lap.co.jp/shoei_2302/


コミカライズ版3巻

https://over-lap.co.jp/お気楽領主の楽しい領地防衛+3/product/0/9784824004253/?cat=CGB&swrd=

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