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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】フェルティオ侯爵家

【ヤルド】


 十七歳となり、ヤルドは約一年ぶりに侯爵家の館へと帰ってきた。ヴァンが辺境の村送りにとなって三ヶ月後、ヤルドとセストは内政や自領の管理を学ぶため、それぞれ大きな街の代官として勉強をしていたのだ。


 侯爵としては、末弟のヴァンだけを外に出したのが噂になりつつあったため、悪い噂が立たないように次男や三男も街の代官という任に就かせ、長男は当主補佐としてそれぞれ厳しく育てているといった体裁を整えただけである。


 だが、十代半ばという貴族として大切な時期に代官として外に出されたヤルドは、内心大いに焦っていた。


 当主候補の一人であり、火の魔術適性を持つヤルドとセストは四人兄弟の中でも有力なはずである。だというのに、何故自分が当主補佐ではなく、ただの街の管理者などにならなくてはならないのか。


 戦いの場に出てばかりのジャルパはいつ死ぬか分からない。だからこそ、当主補佐という立場が大切だ。


 ヤルドはそう考えていた。


 ヴァンのいるセアト村とは反対のフェルティオ侯爵領の南側で代官をしていたヤルドの耳にも、ヴァンが男爵になったことやイェリネッタ王国との戦いがあったことなどは届いていたが、ヤルドはそれを大きなチャンスと捉えていた。


 現当主から早急に戻れと連絡を受けて、ヤルドは今度こそ当主補佐として力を見せつける時だと喜び勇んで帰り、ジャルパの前に立ったのだった。


「父上! ヤルド・ガイ・フェルティオ、只今帰着しました!」


 ヤルドがそう言って顔を上げると、ジャルパはいつもの仏頂面で浅く頷く。


「……代官として街を治めてみて、どう感じた」


 そのシンプルな問いかけに、ヤルドの表情が変わる。


「……領主として街をどう統治するのか。どう利益を出し、どう発展させていくのか。十分に学ぶことが出来ました。今後は更に侯爵家を盤石なものとするために、戦いの場にも出て己の力を試していきたいと思っています」


 真剣な表情でそう語るヤルドを、ジャルパは目を細めて観察するように眺めた。ヤルドとセストには経験豊富な補佐官を付けており、その補佐官のやり方を学ぶだけの一年だったことをジャルパは知っていた。更に、代官として着任した街自体も平和で経済的に豊かな場所ばかりである。はっきり言って、真面目に過ごしてさえいれば必ず成果を出すことが出来る環境であると言えた。


 しかし、補佐官として付けていた人物からの報告では、ヤルドとセストは至って真面目に領主をしていた、という内容のみである。それを文面通りに受け取るほど、ジャルパは甘くない。将来当主になるかもしれない子らの評価を現在の当主であるジャルパ侯爵に報告するのだ。どうあっても下手なことは書けないだろう。逆に、少しでも良い話があれば大袈裟に脚色してでも報告したいはずだ。


 ところが、約一年足らずとはいえ、二人を派遣した街の状況は派遣前と大きな変化も無く、何かが発展したという話も無い。ただ、補佐官より真面目に代官として働いていたという内容だけである。


 それをジャルパは怠惰に過ごした結果だと判断した。


 じろりとねめつけるようにヤルドの顔を見て、小さく溜め息を吐く。


「……ヴァンは、お前が一年間街を管理していただけの間に、成体の竜を討伐して男爵となり、更には村を城塞都市にまで発展させ、戦で功まで挙げてみせた。兄として恥ずかしくはないのか」


 ジャルパがそう告げると、ヤルドは途端に顔を引き攣らせた。


「い、いや、それは恐らく、フェルディナット伯爵の助力を得てのものでしょう。噂ではフェルディナット伯爵の娘がヴァンの領地に住んでいると聞きます。ヴァンは伯爵家の手先となったに違いありません。伯爵家の力を借りて竜を倒し、領地を発展させたのでしょう。そんなやり方であれば俺だって……」


 大した魔術の適性も無い八歳の末弟がそんなことを出来るわけがない。そんな先入観からヤルドはフェルディナット伯爵の介入を疑っていた。


 当初はジャルパも今のヤルドと同様のことを考えていた。しかし、ヴァンの魔術を目の前で見てしまった後では、ヤルドの推測など妄想程度にしか感じられなかった。


「馬鹿なことを言うな。陛下が直接ヴァンの領地を訪ねてお認めになったのだ。フェルディナットが絡んでいれば陛下を騙すようなことは絶対にしないだろう。そもそも、普通のやり方で成体の竜を討伐しようと思えば、装備を整えた二、三千人の騎士団と一流の四元素魔術師数名が必要だ。そんなことを堂々としていれば陛下にはすぐにバレる」


 ジャルパがはっきりとそう告げると、ヤルドは何か反論しようと口を動かしたが、結局言葉は出てこなかった。


 まさか、ジャルパがヴァンを認めているともとれる発言をするとは思っておらず、ヤルドは混乱しながら状況を理解しようと努める。ただ叱責するために呼んだのではないか、そんなことを考え出した頃、ジャルパが溜め息を吐いて口を開いた。


「……つい先月、イェリネッタ王国の重要な拠点を陥落させた。聞いているか」


「は、はい! 流石は父上と……」


 ヤルドが恐る恐る答えると、ジャルパは眉間に皺を寄せて顎を引く。


「そうか……その拠点を、ヴァンが管理することとなった」


 ジャルパが答えると、ヤルドは目を瞬かせて固まり、すぐに声を荒らげた。


「そ、そんな馬鹿な!? そんな重要な拠点を、十にも満たない子供に任せるわけが……!?」


 驚きに目を見開いてヤルドが信じられないと言った。ジャルパも同意するように頷き、鼻を鳴らす。


「その拠点を奪う際に主力となって戦った者たちは自領に戻ったが、すぐに戦力を整えて次の戦に備えることとなった。それ故、ヴァンの協力者として他の子爵以下有象無象が残っている筈だ。だが、そこに我が侯爵家に忠誠を誓う者どもの騎士団は紛れ込ませることが出来なかった」


「……そんな下級貴族だけで拠点を守らせるとは、陛下は何をお考えなのか」


 ヤルドが悔しそうにつぶやく。それにジャルパは肩を竦めて首を左右に振る。


「下級貴族であれど一ヶ月か二ヶ月程度なら防衛出来るだろうとのご判断に違いあるまい。多少犠牲になったところで王国の損害は知れているからな。だが、何も手を打たないのも面白くない。それ故、侯爵家よりムルシアを派遣して協力するように伝えている」


 ジャルパがそう答えると、ヤルドはハッとして顔を上げた。


「……なるほど。それでは、もし何かあった時は兄上が指揮を執って侯爵家として功を挙げるということですね」


「その通りだ。しかし、我がフェルティオ侯爵家は戦いの場でこそ価値を示してきた。恐らく、陛下は今の勢いですぐにイェリネッタ王国の領土を削り取りに行かれるだろう。その時こそ、我が侯爵家の真価を発揮する時だ。そのために、お前とセストを呼び戻したのだ」


 ジャルパはそう言って、ヤルドを見据える。実際にはムルシアは陛下の命令でヴァンに協力しているのだが、何故かその部分は侯爵家にとって都合の良い内容に変えて説明していた。


 そういった事情を知らないヤルドは、ジャルパの言葉をそのまま受け取り、当主候補としての試験と捉えた。


「承知しました。セストと共に侯爵家の名を知らしめて参ります」


 ヤルドは獰猛な笑みを浮かべ、そう言ったのだった。





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