人口増加計画
さて、人口を増やして管理職になれる人材を確保しようとは思うが、中々簡単ではない。近くの町村を巡ってセアト村を推薦しても良いが、各領地を治める貴族から激しく恨まれるだろう。
では、どうするか。
「ベルランゴ商会に依頼しようか」
そう呟くと、エスパーダが頷いた。
「それが適任でしょう」
合格だったらしい。内心、ホッとしながら答える。
「ふふん。まずは王都や各地方の大きな都市に行ってもらって、出稼ぎしたい人を募集しよう! 仕事は数種類用意して、給料は王都の水準よりも高めに設定する! 同時に冒険者ギルドにも護衛やダンジョン調査の依頼を出しておく! そうすれば、セアト村ってすごい豊かな場所なんだろうなー、凄いなーってなるよね? 後は傭兵にも大型の依頼を出してみよう! お金がかかる有名な傭兵団とかが動けば、それだけでも凄い宣伝効果があるからね!」
ウキウキしながらアイディアを披露する。さぁ、エスパーダよ。存分に褒めるが良い!
そう思ってエスパーダを見る。しかし、エスパーダはとても冷静な表情で僕を見た。
「……すでにベルランゴ商会によって王都やフェルティオ侯爵領ではセアト村の宣伝や職人の募集などは行っております。また、冒険者ギルドへの依頼も出しております。報告書を見て……」
「あー! 見た見た! それね!? 知ってるーっ!」
エスパーダの台詞を遮り、全力で知ってるフリをする。あくまで自然に演技をしてバレないようにしなければ、待っているのは恐怖の勉強時間二倍だ。僕は額から流れる冷や汗を華麗に拭き取り、ニヒルな笑顔を向けた。
「そんなことは百も承知だよ!? 僕が言っているのは、他の大きな街でも宣伝をしようって意味! あと、ベルランゴ商会にはまた奴隷の購入をしてもらおうかな! 真面目な人であれば僕の領地には仕事がいっぱいあるし!」
そう答えるとエスパーダはしばらく目を細めてこちらを見ていたが、やがて浅く息を吐いて視線を逸らした。
「……まぁ、良いでしょう。それでは、そちらの手配もしておきましょう。ところで、予算はどれほどをお考えで?」
来た、キラーパス。エスパーダの問いかけに、長年培ったエスパーダレーダーが反応した。これは、報告書を見ていたら白金貨何枚くらいかな、みたいな回答が出来たのだろうが、今は正直言ってセアト村の財政を全く覚えていない。だって戦争へ参加したり城塞都市を修復したり改造したり色々あったんだもん。
だが、そんな理由では勉強の鬼は納得してくれない。
「……そうだね。前に買った時は、若くて元気な奴隷百五十人くらいだと白金貨三枚ぐらい掛かるって話だったよね。それなら、今回は白金貨十枚で買ってきてもらおうかな」
少しぼかしつつ、明確な数字を口にする。これにはエスパーダも片方の眉を上げて一瞬動きを止めた。数秒もの間沈黙して、ようやく返事をする。
「なるほど。セアト村の資産ならばその三倍は出しても良いかと思いますが、何故白金貨十枚に?」
「そりゃあ、あんまり大人数が同時に入居すると教育や住居を整えるのも大変だからね。それに、奴隷市場でそんな買い方をしていたら変な目で見られそうだし、奴隷市場側も困るだろうしね。定期的にそこそこ買うくらいが良いと思うよ」
さも色々と考えてましたといった顔で答えてみた。すると、エスパーダは表情を僅かに緩めて頷いた。
「なるほど。深いお考えがあったということですね。それならば何も言いません。ところで、陳情が上がっていた騎士団用の装備補充に関してですが……」
それからたっぷり二時間後、ようやく解放されて逃げるように領主の館を脱出することができた。
「……つ、疲れたぁ」
背中を丸めて溜め息を吐きながら歩く。それを見て、ティルとアルテが苦笑しながら口を開いた。
「お疲れさまでした」
「でも、領主としてのお仕事をきちんとされていて凄いと思います。私はエスパーダ様とのお話も半分ほどしか分かりませんでしたから」
そんな風に言う二人に曖昧に笑い返す。アルテの年齢なら半分も分かれば十分だと思うが、それを年下の僕が言えば嫌味になりそうだ。そんなことを思いながら、改めてセアト村の風景を見回す。
エスパーダの進言もあり、かなり広い敷地を城壁で囲っている。そのため、今は土地が余りまくっているが、今後のことを考えるとギリギリの面積になりそうだ。流石はエスパーダ。慧眼である。
「この通りにはまだまだ飲食や服飾、雑貨とかの店が並んでほしいし、市場や屋台通りみたいなのも欲しいよね。鍛冶屋はドワーフの炉の周囲に集めるとして、大工や商会の倉庫、後はお洒落な住宅地と公園かな。他には何かあるかな?」
歩きながら頭の中でセアト村の完成図を想像して口にする。もはや村という呼び方をすると文句を言われそうなレベルだが、ここまできたら最後までセアト村はセアト村で通したい。
と、僕の呟きを聞いていたアルテが片手を挙げた。
「治療院は不要でしょうか?」
「あ、それは必要だね。忘れてた」
笑いながら同意すると、今度はティルが片手を挙げる。
「はい! 図書館が欲しいです!」
「なるほど。教育とかはどうしようかな? やっぱり、教育施設が必要だよね。文字と四則演算だけでも教えた方が良いかな。そうじゃないと本も読めないし」
「え? 普通の住民達もですか?」
「え? 村人全員だよ」
ティルの質問に真顔で返事をした。すると、アルテが一人で首を傾げ、ティルとカムシンは顔を見合わせる。その様子を見て、ふとこの国の常識を思い出した。
この国では貴族は家庭教師を雇い、準貴族である騎士や商人などの子が塾に近い形で教育を受けることが出来た。しかし、そういった教育を行える者は必然的に恵まれた生まれの者が多いため、金銭感覚の違いから費用も高い。
結果として、貧乏な者は教育も受けることが出来ないのが普通だった。
まぁ、中には商人見習いになったりして教育を受ける機会を得る者もいるが、稀である。
「……地球でも識字率の低い国はあるし、そんなものかもしれないな」
国の教育制度を憂うというより、全員が教育を受けられる環境が恵まれ過ぎていると考えるべきだろう。特にこの世界ではそれが顕著な気がする。
とはいえ、住民の教育指数が高ければ高いほど発展しやすい筈だ。
「教師になれる人を探さないとね。とはいえ、セアト村もエスパ町も人手が足りないくらいだからなぁ。やっぱり、新しく来る人たちから選ぶしかないかな」
ぶつぶつ言いながら、最低でも必要になる家族用の住宅や独身者用の集合住宅などを作っていく。
すると、アルテから不思議そうな声が聞こえてきた。
「……あの、ヴァン様?」
「ん? なんだい?」
振り向いて聞き返すと、アルテが出来たばかりの家を指差して首を傾げた。
「その、最近建物を建てることが多いせいか、凄く早くなっていませんか?」
「ん?」
アルテの言葉を聞き、周囲を軽く確認する。そういえば、一時間ほどで何軒も家が出来ているではないか。
武器もそうだが、建物も気がつけば製作時間が短縮されていたようだ。
簡単に自分自身の魔術について分析しつつ、アルテと同じく興味津々といった表情のティル、カムシンを見た。
「頭の中に自然と設計図が思い浮かんだり細部まで想像出来るようになると、段々と作るのが早くなるんだよね。だから最近だと武器だけじゃなくて建物も得意になったね。城塞都市ムルシアを作る時は城壁とかに時間掛かったから、そっちはまだしっかりした想像が出来てないのかな?」
分析しながらの発言だったため曖昧な部分が多かったが、三人は成程と頷いた。
「普通、町やお城を作るって何年も掛かりますからね」
「ヴァン様、あんまり張り切るとまた陛下から無理難題が……」
「流石です、ヴァン様!」
三者三様の反応。手放しで褒めてくれるのはカムシンだけである。しかし、ティルの言う通り、目立ち過ぎてもまずいだろうか。
「……でも、頭の中にある設計図の完成度が重要な気がするし、暫く作らないでいるとどんどん遅くなっちゃいそうなんだよね。出来るだけ色んなものを作っておいた方が今後の為にはなりそうなんだけど」
口の中で小さくそう呟き、今後の村作りについて頭を悩ませる。
さぁ、ここからどれだけ人口を増やせるか。それ次第でイェリネッタ王国の攻略速度が決まるだろう。
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