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初めての鉄の武器

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ありがとうございます!

 好みは装飾が多めの武器である。


 よし、柄は握りやすく、鍔はまっすぐ、刀身はしなやかな両刃に……後は、中心に文字と装飾、柄尻も少し拘ろうか。


 刀身の厚みは刀より厚く、けど刃の部分は極限まで鋭く……金属の密度が大事な気がする。ぎゅっと集めて、凝縮させよう。


 周りから息を呑む音が聞こえたが、気にしない。今はこの剣のことだけを考える。美術では毎回先生に褒められていたのだ。その実力を発揮する。細部の細部までイメージしろ。


「……よし」


 手応えはバッチリだ。でも、時間は大して掛かっていない。手抜きというわけじゃなく、コツが掴めてきたのだろう。


 その証拠に、僕の手の中には大袈裟なほど立派な剣が一本在った。長さは六十センチほどで、刃の幅は根元で十五センチほどか。装飾も格好良いぞ。


 口の端を片方上げて、短剣をクサラに差し出す。


「はい、どうぞ。記念すべき最初のお客だからね。装飾に凝ってみたよ」


 そう告げると、クサラは震える手で剣を受け取り、何故か天に掲げた。


「ふぉ、ふぉおおおっ!」


「え、なに、怖い」


 僕は突然咆哮し始めたクサラにドン引きし、次の剣作製に取り掛かる。


 そっとクサラから距離を取り、地面に並べた鉄の塊を持つ。次はお揃いのデザインでただ長くするだけだ。元々イメージは強く固まっている。


 ぐいんぐいん粘土を引き延ばすようにして金属の塊を伸ばし、一気に凝縮して剣の形にしていく。長さは一メートル。クサラの場合、これ以上長くなると使いづらいだろうと思う。


 背後で剣を見せろと騒ぐ声と抵抗するクサラの声が聞こえるが、完全に無視する。


 黙れ、オーディエンス。今ヴァン様がオシャンティーなロングソードを造っておるのだ。


 と、そんな余計なことを考えながらでも剣のイメージが壊れず、魔力も均等に流れる。いつか鍛冶屋の歌でも口ずさみながら剣を作れるかもしれない。


「……よし、出来た。うん、中々格好良いな」


 僕はそう言って、美しくも力強いロングソードを掲げてみる。柄の長さはやはり両手で握るかもしれないから、持ち方にもよるが三十センチはあった方が良い気がして三十センチ近く。刀身の長さは七十センチだ。鍔はまっすぐ。刀身の太さは太い根元で十五センチくらいかな。


 力強く、それでいてシャープな感じ。やはり、図画工作と美術の成績が良かっただけはある。


 自己満足に浸りながら、僕はロングソードをクサラに差し出した。


 すると、クサラは大事そうに持っていた短剣を逆手に持ちながら、器用にロングソードも両手で受け取る。


「ぉほぉおおっ!」


 奇声が上がった。その場で飛び跳ねる部族の踊りのようなものまで始まる。


 騒ぐせいで村人達まで集まってきた。


 クサラがあまりに喜ぶので、オルト達が目の色を変えて迫ってくる。


「ヴァ、ヴァン様! 俺にも剣を! あの長剣が欲しい!」


「俺は短剣だ! 刺突用のが欲しい!」


 冒険者達が急に生き生きし始めた。おや、意外にも本職でも欲しがる出来栄えなのか。


 僕は優しく微笑み、オルト達に言った。


「金貨三枚から五枚ね。あ、大剣とかなら十枚かな?」


「値段が上がった!」


「一瞬で高騰したぞ! どうなってる!?」


 値段を倍に吊り上げてみたが、現場はパニックになった。高過ぎたか。


 そう思っているとプルリエルが眉を八の字にしてクサラの剣を見た。


「金貨三枚か……ちょっと厳しいかな。作って欲しい短剣があったんだけど」


 悔しそうな雰囲気で呟くプルリエルに、僕の良心が痛む。女の子を悲しませてしまうなんて、僕のバカ。


 結果、思わず自分からプルリエルに声を掛けてしまった。


「……仕方ないね。サービスで金貨一枚で作ってあげるよ。今回だけね?」


 ツンデレを装い、僕はそっぽを向きながらそう告げる。すると、プルリエルは目を瞬かせて僕を見た。


「い、いいんですか? 本当に?」


「仕方ないからね。今回だけだからね」


 そう答えると、プルリエルは嬉しそうに笑った。すると、それを聞いていたオルトが嬉しそうな顔で寄ってきた。


「いいんですか! 今回だけ金貨一枚でいいんですか!」


「オルトさんは金貨三枚ね。あ、長剣なら金貨五枚。大剣ならサービスで金貨七枚」


「馬鹿な! 大剣以外安くなってねぇ!?」


 うるさいよ。さっさと出すもん出しな。


「大剣で良いですか? じゃあ、作りますね」


 僕が笑顔でオーダーを確認すると、発注元は慌てて両手を振る。


「ちょ、待っ、分かった! じゃ、じゃあ長剣にする! 長剣にします!」


「はい、金貨五枚ね」


「ぐはっ」


 騒ぎに騒いだオルトは、泣きながら金貨五枚を僕に手渡した。持ってるのか。凄いな、オルト。僕の中では常に五百万持って冒険してる人に昇格したぞ。そんなもん、持ったまま走るだけで大冒険だわ。心臓止まること間違いなし。


 と、なんやかんやと冒険者達から注文を受ける。


 そうして、冒険者達は総額なんと金貨二十枚を支払った。


 仕方ない。家用の家具はサービスで用意してやろう。ヴァン様に感謝するがよい。


 ん? 剣を高値で買ってもらったのに、そういえば家は無料で用意してしまったな。


 どちらかというとサービスし過ぎな気がするぞ。







 夕方になり、外の防壁も大方完成し、さらには周囲に簡単な堀まで出来た。


 だが、例の盗賊団は来ない。まぁ、元から確実に来るとは限らない話だったけども。


「こうなったら、先に防衛用の設備から準備するか」


 そう呟くと、ティルが村を見渡す。


「皆さんの家もあっという間に出来ちゃいましたからね。でも、ヴァン様? 魔力は尽きないのですか?」


「ちゃんと疲れるよ。だから、疲れたら終わり」


「一日中何か作っていた気がしますが……」


 ティルが呆れたような困ったような顔をするが、僕は首を傾げるだけだ。村人達の家は殆どが二部屋か三部屋にトイレといった超簡単な家である。いつか石材がいっぱい手に入ったら建て直そうとは思うが、今はこれで十分だろう。


 その証拠に、村人達からは物凄く感謝された。出歩けば頭を下げられて農作物やらなんやら貰えるくらいである。


 うむ、苦しゅうない。物よりお金をください。


 家は防衛や村の中での利便性も考え、移動しやすいように四つの家を一組とし、大きめの通りが格子状になるように配置している。


 方格設計とかいう作り方かな。中心のブロックには領主の館がある。周囲にはディー、村長の家などのブロック。出入りが多いだろうオルト達は出入り口近くだ。


 今は敷地いっぱいいっぱいだが、今後は村を拡張しても良いかなと思う。


 後は資金と資材調達、防衛設備だ。


 とりあえず、次の行商人が来るまでに武器や鎧、盾のストックを作っておこうとは思うが、防衛の設備も大事である。


 人手が欲しいが、工作出来る人は少ない。


 仕方なく、僕は簡易的なバリスタを作った。魔獣の皮をゴム代わりにし、前面はクロスボウのような形状で大型の矢などを固定する台がある。


 射出口のところ以外の前面には、ウッドブロックを使って作った大きめの盾を備え付けており、敵からの攻撃を防ぎつつ破壊力の高い槍のような矢を飛ばすことが出来る。


 ちなみに、テコの原理を使って出来るだけ軽く引けるようにしたのだが、それでも重い。


 そんなバリスタを、とりあえず村の周囲全方向に八台作った。上下左右に照準を合わせることは出来るが、村の中にまで振り返ることは出来ない機構だ。


 全てに矢をセットしておいたので、敵が来たらすぐさま使うことが出来る。


「もうちょい強化しないとね」


 僕は油断しないのだ。


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