裁量の譲渡
さり気なくやっていた年末年始連続更新…
3日までで限界がきました_:(´ཀ`」 ∠):
真面目。超真面目。もう本当に石頭。カッチカチのガッチガチ。だけど、本当に心から僕に仕えてくれて、強い責任感を持っているからこそ自分にも他人にも厳しい。
そんなエスパーダという人物をよく理解しているからこそ、エスパーダには全ての権限を与えている。
少し詳しくその権限について説明するなら、僕がいない間の領地の維持や防衛だけでなく、新しく村人になるだろう相手の選別、許可もである。更に言うならば村の最大の稼ぎである魔獣の素材の管理、売買についてもそうだ。
エスパーダがもし金銭を持って逃げようと思えば、明日にでも白金貨を握り締めて逃げることも出来るだろう。それほどの裁量を与えている。
だから、エスパーダが自分の判断のみで自らの補佐をする者や各管理者を選別して任せることも出来るのだ。しかし、エスパーダは必ず重要な決定を僕に求めた。単純にヴァン・ネイ・フェルティオ男爵家の当主であるということを立ててくれている、ということもあるだろう。
だが、恐らくエスパーダの真意は別にある。
そんなことを考えながら、僕は室内を軽く見回した。
貴賓室としても使っている広間で、等間隔に並んだ椅子に座る五名。その奥にはエスパーダとロウが立って五人の後ろ頭を眺めている。ちなみに、それに対面する形で座る僕の左側にはカムシンとティルが立っており、右側にはアルテが椅子に座って僕と一緒に五人を見る恰好となっていた。
椅子に座る男女は明らかに緊張し、僕を見ている。その様子を確認してから、口を開く。
「……それでは、最終面接を始めます! 右手の方から順番に自己紹介と自信のある業務内容などを教えてください!」
何となく集団面接のような気分になったので、そんな言葉を投げかけてみた。予想外の言葉だった筈だが、手のひらを向けられた一番右奥の男性が素早く立ち上がって口を開く。
「は、はい……! わ、私は元奴隷のジウ・ジアロと申します! 奴隷になる前は建築、設計を生業としておりましたが、他の商会の囲い込みにより仕事が激減し、借金奴隷となってしまいました。この先どうなるのかと檻の中で震えていたところ、ベルランゴ商会に買っていただき今の暮らしを得ることができました。つきましては、ヴァン様にも心からの感謝を……」
という感じでジウさんの挨拶と自己紹介が始まった。もう、超真面目。エスパーダが教育するメンバーに選出した理由が分かるというもの。
そういった真面目そうな男女の自己紹介を聞いていく。四人目の貴族の子女であるジュリエッタ・ベルリーナという少女は確かにエスパーダが口にしていたような人物だった。
金色の髪を短く切った可愛らしい少女で、常に微笑みを浮かべている。しかし、話す時は人の反応を確認するように話し、相手の心情を測るように同意や共感の言葉を使っていた。
まさに、歌舞伎町の女帝になれる逸材である。日本にいた頃の僕なら毎月生活費を削って貢いでいたかもしれない。貢いだことは一切ないが。
そして、ついに最後の一人となった。
背の高い二十五歳ほどの女性である。紫がかった髪を後ろに結っており、力強い目も相まって女武者みたいな雰囲気があった。
美人だが、ちょっと怖そう。そんな印象である。
女性はこちらを見て背筋を伸ばし、口を開く。
「私はエミーラ・コーミィと申します。騎士の生まれでしたが、父の戦死により家が没落。母と弟のために自ら身売りいたしました。幸運にもセアト村に来ることができ、エスパーダ様に選んでいただいたことで今は領主代行として働けるように努力しております。今後はエスパーダ様の期待に応え、ひいてはヴァン様のお役に立てるよう粉骨砕身の覚悟で勤めを果たしたいと思います」
そう言って、エミーラは深く一礼した。最も簡素な自己紹介だったが、不思議と実直な性格が伝わってくる。そんなエミーラがなんとなく気になり、質問をすることにした。
「エミーラさんですね。騎士の生まれということでしたが、剣術や戦術についての知識はありますか?」
「……はい。父は子供に中々恵まれず、やっと生まれたのが女である私だったので、弟が生まれる十歳になるまで厳しく教えられていました。剣、槍についてはそこらの騎士にも引けをとらないと自負しております」
自信を持ってそう答えるエミーラ。それに成程と頷き、エスパーダを見る。
「エミーラさんの領主代行としての知識はどれくらいかな?」
そう確認すると、エスパーダが軽く頷いて口を開く。
「小さな町なら問題なく管理できるでしょう。財務、資源、人事などの管理は勿論、人的問題や上下水問題などにも対応は出来ます。課税については学んでいる途中ですが、現状はまだ人頭税や通行税も徴収していないため、後回しとしております」
「なるほど。それなら、試しにエスパ町を一ヶ月管理してみて、問題がなかったら城塞都市ムルシアの補佐官をしてもらおうかな。ムルシア兄さんはいずれ他の町や城塞都市を占領していく予定だから、そうなったら城塞都市ムルシアの城主代行として頑張ってもらおうか」
エスパーダにそう告げると、エスパーダより先にエミーラが目を丸くして驚いた。
「じょ、城主代行……わ、私が、でしょうか?」
意外と冷静な反応だが、しっかり驚いてくれている。中々良い反応だ。ヴァン君がご褒美にバリスタをあげよう。城塞都市ムルシアで使うだろうし、丁度良い。
そんなことを思っていると、エスパーダが難しい顔で顎を指で摩り、口を開いた。
「……なるほど。確かにセアト村以上に人材不足の状態ですから、ムルシア様には良い助力となるでしょう。しかし、当初の予定ではセアト村とエスパ町の両方に代官を置く予定でしたが、これではまた新たに選定して教育をしなくてはなりませんが……」
と、何故か今までになく不本意な様子のエスパーダ。それを見て、何となくエスパーダの思惑を察する。
「……もしかして、陛下のご要望を叶えようとか思ってない?」
目を細めて疑惑の眼差しを向けながらそう尋ねると、エスパーダは不服そうに視線を逸らした。
「うわ、怖い! セアト村とエスパ町に代官を置いてエスパーダが両方援助したら、僕が陛下のご要望通りに色々と出張出来るってこと!? 僕はセアト村から出たくないんだってば!」
水面下で行われていた策略に恐怖しながら文句を言う。すると、エスパーダが眉間に深い皺を作って口を開いた。
「陛下がせっかくヴァン様を重用してくださっているのですから、本当ならどんなお話も断るべきではありません」
「いやいや、僕の希望も聞いてよ! 陛下のご要望全部聞いてたら王都に来いとか言われるに決まってるじゃないか!」
思わず、その場でエスパーダと口喧嘩のような状況になってしまう。これには面接で集められた五人も困惑してしまうだろう。
しかし、ここは言っておかねばならないポイントである。誰であれ、僕の引きこもりライフを揺るがすことは許さないのだ。
そんなことを思いながら文句を言っていると、アルテが可愛らしく咳払いをした。
その音に、皆が一瞬動きを止めてアルテを見る。そして、アルテは、優しげな微笑みを浮かべてこちらを見返す。
「ヴァン様。それで、面接はどうされますか?」
柔和な雰囲気で聞かれた筈なのに、不思議と背筋が伸びてしまった。
「そ、そうだね……じゃあ、今後の領地を管理してくれる皆にこの先の話をしようか」
そう言って、僕は本題に戻るのだった。
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