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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】イェリネッタ王国の混乱

【エアハルト・アスバッハ・イェリネッタ】


「なんだと!?」


 怒鳴り、テーブルを叩く。激しい音が石で出来た床や壁で反響し、室内に鳴り響いた。私の言葉に身を竦める伝令の兵を睨み、口を開く。


「もう一度、その馬鹿げた報告をしてみせよ!」


「は、ははっ! 南西のヴェルナー要塞が陥落! 国境騎士団が退却後、要塞に残ったスクーデリア王国の騎士団が僅かな手勢であると情報を得てすぐさま奪還に向かいましたが、それも失敗に終わりました! 被害は甚大であり、現在は城塞都市グローサーにまで後退し、態勢を立て直しているところです!」


「馬鹿な……っ!」


 伝令の報告を改めて聞き、手元にあった陶器の器を跪く兵に向かって投げつけた。肩の鎧の部分に当たり、兵は僅かによろめく。


「面白くもない冗談だ! あれだけの準備をして挑んだにもかかわらず、三つの戦場全てで無様に敗戦し、挙句に今度はこちらの拠点が奪われただと!? あれだけの兵器を持たせて、どうやったら負けることが出来ると言うのだ!?」


 再度テーブルを叩き、怒鳴りつけた。それに対して兵はビクリと肩を震わせて、地面を睨むように見る。額からは汗が滴り、床を濡らしていた。


「も、申し訳ありません……しかし、スクーデリア王国にも情報に無い様々な脅威が存在しました。それらにより黒色玉だけでなく、大型の竜種ですら無効化されてしまいました。もしかしたら、こちらの情報が相手に……」


「黙れ! そんな報告はもう再三受けておるわ!」


「は、ははっ!」


 言い訳を口にする兵を一喝すると、裏返ったような声で返事をする。その怯えた兵の姿に苛立ちを感じながら、現状を把握すべく頭を働かせる。


 当初は、中央大陸の覇者であるソルスティス帝国の援助を受けてスクーデリア王国を下し、このグラント大陸の覇権を手にしようと考えていた。魔術師でなくても戦況を変えることが出来る黒色玉や火砲(かほう)を目の前にすれば、誰でも野心を抱くというものだろう。


 勿論、ソルスティス帝国と海を挟んで隣接しているヘセル連合国と同様に、ソルスティス帝国に逆らうことが出来ずに不利な条件で同盟国となっていることには一抹の不安もあるが、近年のスクーデリア王国の勢いはそれ以上に警戒すべきものであった。


 自国の防衛のために黒色玉と火砲を大量に買い求めてソルスティス帝国に恭順的な態度を示し、それらを利用してスクーデリア王国の領土を次々に奪い取っていく。十分にソルスティス帝国の信頼を得ることが出来たなら、それなりの条件はあれど黒色玉の製法を得ることも出来るだろう。


 いずれは、ソルスティス帝国と相対することが出来るほどの力を持つ。それが最終目標であった。


 だが、今やそんな目標はただの戯言と同義となっている。なにせ、黒色玉も火砲も持たぬスクーデリア王国に連戦連敗なのだ。誰が聞いても我が国の惨状を愚か者の所業によるものと嘲笑うことであろう。


「……何故だ。何故、こうなった」


 歯軋りをして、口の中でそう呟く。我が国がソルスティス帝国の騎士団と衝突した時、黒色玉と火砲の威力を見てまともに戦うことも出来なかった。先にソルスティス帝国と同盟を結んだヘセル連合国の騎士団もいたが、はっきり言って物の数に入っていない。いや、単純にソルスティス帝国が強すぎた、というべきか。


 なにせ、ソルスティス帝国の騎士団は火砲を横一列に二十も並べ、更に歩兵達は黒色玉を手に持っていたのだ。こちらにも最上級の四元素魔術師はいたが、火砲二台を破壊するだけで精一杯だった。次の火砲を破壊しようとする間に、別の火砲の一撃を受けて重傷を負ってしまったのだ。


 弓矢での攻撃や騎兵での突撃も行ったが、まったく相手にならない。重装歩兵が全身をすっぽりと隠すことが出来る大盾を持つだけで、こちらの攻撃は簡単に無効化されてしまう。無理やり突破しようものなら、動きを止めた瞬間に火砲の餌食だ。


 黒色玉と火砲の破裂するような轟音は馬を無力にするだけでなく、経験の浅い兵たちの戦意も根こそぎ奪ってしまう。これでは、まともな戦争になどなるはずもない。


 結果、我がイェリネッタ王国は無残なまでの大敗を喫し、屈辱的な条件を飲んで同盟国となった。実質は従属国扱いと同じだ。輸出入では一方的に関税の税率が定められ、あちら側からの要望はほぼ強制されるのに対して、こちらから要望を行うことは出来ない。


 この不平等な同盟の唯一の利点は、強大なソルスティス帝国の助力を得て戦うことが出来ることだろう。ソルスティス帝国は同盟国に対しての支援を約束しており、新たに同盟国を増やすことを望んでいる。従属国という言葉こそ使っていないが、ソルスティス帝国は同盟国に等級を定めており、ソルスティス帝国と直接同盟を結んだ国を第一等級とし、その一等級国が新たに同盟国を増やした場合は二等級国という扱いになる。その次は三等級国だ。自分よりも下位の同盟国を増やしていけば、課税の面や物資で優遇を受けることが出来る。


 いずれはソルスティス帝国が世界を牛耳るはずだ。そう思っているからこそ、同盟国は競うようにソルスティス帝国の助力を得て周囲を支配下に置いていこうとしている。ヘセルも同様だが、立地条件が違った。ヘセルは一つずつ小国を奪っていくことしかできず、僅かずつしか下の等級の同盟国を増やすことは出来ないだろう。


 一方、我が国はソルスティス帝国に敗れて同盟を結んでから、すぐに西と北西の小国に進軍し、同盟を結ばせた。その二つの国は二等級国となった。これで東はソルスティス帝国、南はヘセル、西は下位の同盟国となり、我が国が隣接する敵対国はスクーデリア王国のみである。


 これまではスクーデリア王国に散々煮え湯を飲まされてきたが、今はソルスティス帝国の武力がある。こうなれば、この大陸でもっとも強大な国となり、逆にソルスティス帝国を上回る資源を得てやろう。


 その時までに、ソルスティス帝国より得た黒色玉や火砲という新技術を我が物としておけば、いずれは帝国の立場を奪い取ることも可能な筈だ。


 そう思っていた。


「……だというのに、なんだこの有様は……!」


 怒りに目眩を覚える。同盟国の中で少しでも優位な立場を築こうとしていたのに、このままでは反対に領地を削られてしまい、ソルスティス帝国の騎士団が出てきてしまうだろう。


 そうなれば、同盟国内の立場どころではなく我が国の存続すら危うくなる可能性がある。


「……どんな手を使ってでも、スクーデリア王国を叩き潰す。それが、我が国が生き残る唯一の道だ……!」




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