大砲に対してのみ最強の城塞都市
城塞都市の強化。それはすなわち、新たな脅威である大砲の対策に他ならない。
大砲とは、何か。大雑把に説明するなら、鋼鉄の頑丈な砲身がありその中で火薬を爆発させて、重量物を遠くまで撃ち出す兵器、である。それだけのことのように思えるが、火薬次第で石造りの城壁を軽々と貫通するような威力を出すことが出来る。もし、隊列を組んだ騎士団の中心目掛けて発射したなら、想像するだに恐ろしい結果を示すことだろう。
重装歩兵のように頑丈な全身鎧と大型の盾を構えた一団であっても、高速で飛来する鉄の塊を相手にすればひとたまりもない。
それは魔術師であっても同じだろう。氷の壁も石の壁も破壊してしまうため、防ぎようがない。そんな恐ろしい兵器から拠点を守るためには、大砲を使用させないようにしなくてはならないだろう。
「……大砲は重量があるから、車輪を付けて馬に引かせて運んでいるんだよね?」
「はい。あと、近くには石や鉄の球を運ぶ馬車もありましたね」
大砲を調べてくれていたボーラ達、超最強機械弓部隊の面々が壊れた大砲や鉄球などを指差して答えた。大砲は想像していた以上に大きく、長さも二メートル以上はある。鉄球もボウリングの球より大きい。
これは、運ぶだけでなく発射角度の調整ですらかなり大変そうだ。
「僕が作るなら……」
呟きつつ、イメージを形にしてみる。車輪を大きくして段差に強く、砲身は命中率を上げるために長く、更に内側に螺旋状の溝を作って砲弾に回転を加えられるようにする。砲弾の形次第とはなるが、火薬の爆発による威力を余すことなく伝えることが出来れば、イェリネッタ王国の使う大砲の倍以上の飛距離と威力を狙えるはずだ。
「……あ、でもこの形だと爆発の反動で車輪やフレームが歪んだりするかも? よし、発射時は固定用の支えを設置するようにしようか。そうすれば連続で撃つ時も安定する筈だよね」
言いながら、作ったばかりの大砲を改良していく。気が付けば形が当初の物と全く違うものとなっていた。砲身も長くて少し細身になったため、自分で言うのもなんだがスタイリッシュである。こんなところでもヴァン君の素晴らしいセンスが爆発している。大砲だけに。
そんなアホなことを考えながら出来たばかりの大砲を眺めていると、ふと周囲の皆がこちらを見ていることに気が付いた。
「あ、ごめんなさい。大砲から拠点を守る改築でした! 大砲を作っている場合じゃなかったですね」
笑いながらそう言って謝ると、全員から苦笑が返ってきた。まるで練習でもしていたかのようにぴったり揃って同じような表情をしている。微妙に孤独感を覚えるが、何故だろうか。
「……こほん。それでは個人的な見解ですが、拠点改造計画をお話しいたします」
空気を変えようと思って丁寧に話を切り出すと、疎らな拍手が返ってきた。ありがとう、ありがとう。
「大砲はその性質上、真っすぐに狙った場所へ飛んでいきます。まぁ、この筒の部分が丁寧に作られていなかったら何処に飛ぶか分かりませんが、しっかり作っていたら真っすぐ飛ぶはずです。なので、相手が大砲で狙えないように地形を変えることから始めようかと思います」
「ち、地形を変える?」
僕の説明に、ボーラが驚きに目を剥いた。他の人達も多少違えど似たような表情をしている。
「うん。地面が斜めだったり、目の前に山があったりすると大砲は発射できないよね。坂道でもそうだけど、変な状態で大砲を使えばその反動で自爆することもあり得ると思う。坂道を転げて周りの人たちが巻き込まれたりもするでしょ? だから、まともに大砲が使えない状態をこっちで準備するんだよ」
そう説明して、まだ若干混乱しているボーラ達に頼み、人を集めてもらった。
斥候としてディーやボーラ達が街道の先に進み、周囲を確認する。
「イェリネッタ王国軍はこちらから侵入してきました!」
「おお、なるほど」
騎士団の団員から説明を受けて街道の近くにある森の方を見ると、確かに馬車一台通れそうな砂利道が敷かれていた。とはいえ、大人数の行軍は大変だろう。やはり、こちらの人数が極端に少ないことを知っていて奇襲を仕掛けてきたに違いない。
今すぐにでも裏切者を探し出し、お尻をつねってやりたい気持ちに駆られる。
しかし、今はとりあえずさっさと城塞都市を完璧なものとし、セアト村に帰って大浴場でゆっくりしたい。
そう思って、集まってくれた皆に「木材を集めてほしい」と指示を出す。ちょうどイェリネッタ王国軍が使っている抜け道を丸裸にすることにもなるし、一石二鳥である。
すでに伐採業者よりも木材集めを極めてしまったセアト村騎士団にとって、木材集めなどディーの行う訓練よりも遥かに楽なボーナスステージと同義なのだ。
見事なフォームで木を切り倒し、素晴らしい持久力で倒した木々の運搬を行う面々。普通なら枝を落とすのだが、図工が得意なヴァン君の場合はその手間も不要である。その為、気が付けば街道そばの森林はみるみる間に見通しが良くなっていく。
そして、その伐採された木々はヴァン君の神の手によって生まれ変わる。
道の形を変え、更に段差や壁なども作っていく。視界が遮られていれば大砲も撃てないだろうし、壁を貫通してまともに飛ぶことも無いはずだ。一部下り坂になっている場所にのみ壁の無い部分を設定しているが、そこは城塞都市側から楽に狙うことが出来る。
相手が大砲の角度調整や発射できる状況を準備する間にバリスタから幾つも矢が飛来することだろう。
「……よし、こんなものかな」
丸一日掛けて、イェリネッタ王国軍の侵攻を防ぐための街道改造工事が完了した。僕は満足感を覚えながらそう呟く。
対して、ムルシアは物凄く真剣な顔になり、すっかり様変わりした街道を眺めていた。
「……なるほど。ヴァンのこの魔術もそうだけど、やっぱりそれだけじゃなかったんだね。ヴァンのこの独創的な発想が、これまでのとんでもない功績に結びついていたんだ」
ムルシアは噛み締めるようにそう呟いてから「私も努力しないと……」と口にした。
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