ムルシアと天守閣で宴会
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納得したかはさておき、ムルシアは僕の話を聞くべく夕食を共にしてくれることになった。
「なんだかんだで、兄さんと二人で食事をするのは初めてですよね」
「あ、そ、そうだね……それにしても、場所が……ちょっと凄すぎる気がするけど」
複雑な表情でそう言いながら、ムルシアは天守閣の外に視線を移した。夕焼け空は美しく、稜線の縁は鮮やかなオレンジ色の線となっている。高い城の上から見ているため、眼下も広く赤く染まっており、手前の城壁の上は等間隔に灯りがあり、景色にささやかな彩りを加えていた。
控えめにいっても絶景である。
「すごく良い景色ですよね」
「……そ、そうだね。それは間違いないよ」
と、何故か恋人同士のような会話になってしまった。変な空気になっていると次の料理を持ったティルが来てしまう。さっさと本題に入ろう。
そう思い、ムルシアに顔を向ける。板張りとはいえ和室で座布団に座り、丸い大きなちゃぶ台を囲んでおり、個人的にはとても落ち着ける空間となっていた。まぁ、ムルシアは落ち着かないかもしれないが、住んでいれば慣れるだろう。
「ムルシア兄さんが力になってくれるなら、改めて今後の計画を話したいと思います。この城の城主になってくれますか?」
そう告げると、ムルシアはウッと息を呑んで背筋を伸ばした。しばらく動かずにこちらを見ていたが、やがて観念したように口を開く。
「……もちろん、ヴァンの補佐を命じられているからね。ただ、僕の出来る範囲で頼むよ?」
そう言って、ムルシアは苦笑する。消極的ながら助力を了承してもらえたようだ。僕は安心して今後の計画について内容を明かすことにする。
「ありがとう、兄さん! じゃあ、まずは一年間、この城塞都市を守ってほしいんです! その後は戦力が整い次第、イェリネッタ王国の領土を奪い取っていく予定にしてます! 海の方向へ領土を奪っていって、最後は中央大陸に繋がる港まで手にします! その時にはムルシア兄さんが最低でも三つの城塞都市の領主になるから、陛下に爵位をいただいて各都市に代官を置いてほしい! なので、今後この城塞都市に来た人たちの中から、騎士団長になれる者や代官になれる者をそれぞれ六名から十名くらい選んで育ててもらいたいと思っています! 一年間では中々難しいかもしれないけど、出来るだけ適性が高い人材を送るつもりなので、なんとか……」
「ちょ、ちょっと待って! ヴァン! とんでもない計画を大きな声で話しているけれど、大丈夫なの!?」
ムルシアは僕の壮大な行動計画を聞き、目を白黒させてしまった。だが、そんなことで躊躇っていては貴重な香辛料や食材は手に入らないのだ。なんとしても中央大陸までの足掛かりを得ねばならない。
「ムルシア兄さん。イェリネッタ王国の領地に食い込んでいけば、いずれは黒色玉も手に入ると思います。そうなったらどんな敵も恐るるに足りません。何の心配もいりませんよ」
真っすぐにムルシアの目を見てそう告げた。それに、ムルシアは驚きに表情を変える。そして、何処か悲しそうに目を細めた。
「……凄いね、ヴァン。どうして子供のヴァンがこんなに大きな功績を挙げることが出来たのか、分かった気がするよ」
そう前置きしてから、ムルシアはおもむろに立ち上がる。
「……この見事な城塞都市が、今後私の家になるということだね。この地を守ることが私の使命、か……分かったよ、ヴァン。私の力では少々足りない部分もあるだろうけれど、全力で役目を果たそうと思う」
言いながら、ムルシアは天守閣の外廊下に出て、顔だけ動かして周囲を見た。そして、最後にこちらへ振り向き、口を開く。
「それでは、これからよろしくお願いします。ヴァン男爵」
そう言って微笑むムルシアに、僕は立ち上がって一礼した。
「ありがとうございます! ムルシア兄さん!」
お礼を言うと、ムルシアは小気味良く笑って肩を揺する。
「立場が反対になっている気がするよ、ヴァン」
「あ、ごめんなさい」
謝りつつ、釣られるようにして僕も笑った。久しぶりに家族の会話をしているようで、嬉しかった。
だが、そんな家族団らんの時間は盛大な奇襲で打ち切りとなってしまう。
「敵だ! イェリネッタ軍が攻めてきたぞ!」
城壁の上で叫ぶ騎士団の団員の声を聞き、慌てて外廊下に出ているムルシアの隣へ移動する。地上を見ると、火矢が次々に城壁に向けて飛来しているところだった。とはいえ、ヴァン様が丹精込めて修復した最強城壁には火矢など全く効果が無い。後付けした和風な屋根と壁にしっかりと阻まれている。
それよりも、あの目の良いセアト村騎士団の団員が、どうして奇襲に気付かなかったのかが問題だ。もしかして、街道以外でこの拠点まで接近できる道があるのだろうか。
そう思って、すぐに周囲の確認を指示する。
「イェリネッタ軍が何処から来てるか分かるー?」
誰にともなく大声で尋ねた。すると、城壁の上で二、三やりとりが行われ、すぐにそれぞれが行動を開始する。一名ずつが左右に分かれて城壁の上を移動し、ほかの団員は防衛用バリスタに張り付いた。さらに、伝令を聞いた団員達が続々と城壁や櫓に集まってきている。
と、城壁の右側に向かった団員がこちらを振り向いて叫んだ。
「ヴァン様ー! イェリネッタ軍は林を抜けてきているようです!」
「えー? こんなに高い場所から見ても分かりづらいのー?」
「はい! 常にそちらを警戒していなければ分からないと思います!」
「なるほどー! それじゃあ、防衛をお願いしますー!」
「はっ!」
そんな感じで団員と情報共有を行い、改めて城壁の向こうで隊列を組むイェリネッタ軍を見る。確かに、右側奥の方から続々と兵士が隊列に加わっているようだ。というか、相手の拠点の目の前で隊列を組んでいくというやり方が信じられない。
「……気のせいか、緊張感があまりないような気がするよ。あれだけ多勢の騎士団が攻めてきたら、中々冷静ではいられないと思うけど……」
呆れたような顔でこちらを見るムルシアに、軽く首を左右に振って口を開く。
「いいえ、平静でいようとしているだけですよ。それにしても、前回の敗戦から戻ってくるのが早すぎます。特に、この重要な防衛拠点が奪われたというのに、素早く戻ってくるというのは妙です」
「え? 何故だい? まさか城壁が修復されているとは思わないだろうし、急ぎで戻ってくるのは当たり前じゃないかな?」
ムルシアは不思議そうに首を傾げた。それに頷き答える。
「そうですね。考え過ぎかもしれません……しかし、強固な防衛拠点があっという間に陥落したんです。そのうえ、ウルフスブルグ山脈を突破して現れたスクーデリア王国軍が、すぐに反転して帰っているなどとは思わないでしょう。何故、この拠点に僅かな人数しか残っていないと思ったのか?」
「……もしかして」
僕の推測を先読みしたのか、ムルシアが眉間に皺を寄せて息を呑んだ。恐らく、同じ予測に辿り着いたはずだ。
そう思って、首肯を返す。
「はい。僕の推測でしかありませんが、スクーデリア王国に内通者がいると思っています」
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