最強の城塞都市計画1
こんにちは。皆のアイドル、ヴァン君です。
いつ戦場になるか分からない激戦区でミサイルでも撃ち込まれたような有様の要塞を復興し、尚且つ攻め込まれても自力で防衛しろと言われました。知らない人が聞いたら新しい形の拷問か何かだと思うレベルである。
しかし、今の僕はこれまででも最高クラスのやる気に満ちている。恐らく遠くからでも目に宿る炎が明々と見えることだろう。
「よし! まずは材料集めだ! 皆、崩れた城壁をそれぞれの場所に集めて!」
「はい!」
指示を出すと、セアト村騎士団の面々がそれぞれ部隊ごとに分かれて作業に入る。他の騎士団も一部が残ってくれており、依頼を受けて働いてくれている。
気を使うのは大半が僕よりも爵位が上という点だ。年齢も上だし、本当なら僕がお願いをしたところで取り合ってもらえないような相手である。
まぁ、例えるなら起業したばかりの小さな会社の社長が、大手企業の社長に指示を出して働いてもらうようなものである。並みの度胸では耐えられないだろう。
ただし、今の僕には陛下の威光が燦々と輝いている。この威光ビームで貴族たちを扱き使うしかあるまい。事態は急を要するのだ。
「あの、ピニン子爵……大変申し訳ないのですが、北側の壊れかけの城門を修復したいので、木材と石材、出来たら金属なども集めておいてもらえませんか?」
「む……良かろう。我が騎士団で対応する。いつまでにどれほど必要だ?」
「ありがとうございます! 急ぎになってしまいますが、金属は二頭立ての馬車で四台ほどで、石材は倍は必要なのですが……」
「……承知した。それで、いつまでだ?」
「一週間以内、でしょうか」
「ほ、ほほぅ……? それは、少々……」
こめかみに青筋が浮かびつつあるスキンヘッドの中年男性を見上げて、両手を振る。
「あ、いえいえ! もちろん、ピニン子爵お一人にお願いをするわけではありません! ファリナ子爵にもこれからお願いに伺おうと……」
「ファリナ卿か……悪い人選ではないが、もう少し人員を確保した方が良い。私の方で二、三人声を掛けても良いか」
「も、もちろんです。ただ、最終的に誰と一緒に作業をしていただいたか、後でご連絡下さるようお願いいたします。陛下にご報告申し上げなくてはいけないので……」
頭を下げながらそう告げると、ピニン子爵はウッと呻いて顎を引いた。
「も、もちろんだ! 言われるまでもない……ところで、後二、三人といったが、よく考えたらファリナ子爵も今回は大人数で参加していたな。我ら二つの騎士団で事足りるだろう。一週間と言わず、五日で材料は集めてくるぞ」
「ありがとうございます!」
と、低姿勢かつ、かなりの妥協をしながら貴族達に指示を出していく。気を抜けば楽をしようとする奴らである。時間を与えると要塞に残された財を持ち帰ろうとする輩までいる。
出来るだけ作業場所を限定させて、尚且つ適切な人数で短期間に作業が終わるように管理しなくてはならない。ただお願いをするだけでも気を使うのに、面倒極まりないことだ。
だが、陛下に報告すると告げるだけで、暴れん坊将軍のような貴族も大人しく言うことを聞くようになる。どれだけ陛下が恐れられているかという話だ。
なにしろ、この要塞に残された貴族達は先の戦いにてあまり目立った活躍が出来なかった面々である。せめて、要塞修復を手伝って功績を挙げろという陛下の厚意ともいえた。その厚意を無下にしたら、後が怖いどころの話ではない。
そんな陛下のご威光のお陰で、僕よりも爵位が上の貴族達が懸命に仕事をしてくれている。この機に色々と余分に資材を集めておこう。なにせ、これだけ多くの人員がいるのだ。利用しない手はない。
「ヴァン様、悪い顔をしていますよ?」
ティルにそう言われて、表情を元に戻す。
「いやいや、別に何も考えてないよ。とりあえず、暇そうにしている貴族の人はもういないかな? ちょっと仕事を頼みたいんだけど」
「……本当、ヴァン様はどこでそんなことを覚えていらっしゃるのでしょう。まるで、様々な修羅場を潜り抜けた大商人のように人を操るのが上手で……」
「人を操るなんて人聞きが悪い。お願い上手と言ってほしいね」
「半ば脅しのような気がしましたが……」
そう言って呆れたような顔をするティルに苦笑を返し、カムシンに振り返った。
「後は急ぎで直す城壁無かったかな?」
尋ねると、カムシンは手描きの地図を取り出す。
「えっと、後は南東の一面です。それ以外は既に対応中です」
「南東の壁はヒビが入ってるだけだったね。それじゃあ、材料が揃ってそうな場所から修復にかかろうか。土の魔術師は集まった?」
カムシンに答えつつ、次はアーブに質問する。それに背筋を伸ばし、アーブが口を開いた。
「はっ! 現在、中央広場に十名集まったとの報告を受けています! ロウが団員と手分けして探していますが、これ以上は集まらないかもしれません!」
「まぁ、城壁作りに使えそうな人材なんてそんなにいないよね。よし、十人いれば大丈夫だと思うし、城壁の補修に取り掛かろう」
アーブの報告にそんな返事をしていると、斜め後ろで話を聞いていたアルテが「あ」と声を発した。
「うん? どうかした?」
振り向いて尋ねると、アルテが困ったように微笑みながら首を左右に振る。
「あ、いえ……今日はお風呂に入れないことに気が付いただけです。申し訳ありません」
と、アルテは深々と頭を下げた。
「忘れてた! ありがとう、アルテ!」
アルテの言葉に思わず大きな声を出してしまう。要塞復興に残った騎士団が意外にも多く、砦はもちろん人数オーバーであり、風呂など入れるわけもない。なにせ、僕が一番爵位が下なのだ。新興貴族でもあるし、その辺りはわきまえなくてはならない。
必然的に、僕が寝泊まりするのはこの廃墟のような要塞なのである。
「よし! いますぐ要塞の修復を行う! いや、建て直しだ! 清潔な新築物件を用意する! 皆、早急に資材集めを頼んだ! 全て木材で良いから、大急ぎで!」
「はっ!」
僕の指示を受け、セアト村騎士団の面々は即座に走り出した。
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