帰りはあっさり
大半の山道を舗装したお陰で、セアト村へは三倍以上の速度で帰ることが出来た。道中は魔獣が不安だったが、なんとオルト達が格安で護衛を引き受けてくれたので、魔獣の奇襲を受けることもなく安全に村に辿り着けた。
「ヴァン様、お帰りなさいませ」
「ただいま、エスパーダ」
エスパーダ達に出迎えられ、お風呂に入って汗を流したと思ったら、あれよあれよという間に大バーベキュー大会の準備が完了する。
あれ? 何も指示出してなかったよね?
と、不思議に思っている内に、僕は明々と燃える火の前で肉の串を持って立っており、目を輝かせるセアト村の住民達を見回していた。
「……それでは、セアト騎士団が怪我無く帰郷出来たことを祝して、大バーベキュー大会を開催します!」
「うおおおぉ!」
よく分からない状況の中、ノリだけで言った開会の挨拶と共に、皆で火に肉の刺さった串を向ける。一斉に最高級の肉の焼ける匂いが広がり、住民達のテンションは最高潮に達した。
「実食!」
「はい!」
乾杯の挨拶をすると、焼けた肉が次々に住民達の口に運ばれていく。
そして、バーベキュー会場であるセアト村メインストリートは歓声と朗らかな笑いに包まれた。
「美味しいですね、ヴァン様」
隣に座って肉と果物を食べているアルテにそう言われて、頷きつつ首を傾げる。
「うん、美味しいけど……気が付いたらバーベキュー大会が始まっていて驚いたよ。誰が始めようって言ったのかな?」
苦笑しながら確認してみると、アルテは目を瞬かせて僕の顔を見た。
「え? ヴァン様がお風呂でバーベキュー大会をしたいと仰ったと聞きましたが……」
驚いた様子のアルテの言葉を聞き、曖昧に頷きながら口を開く。
「あ、あぁ……そうだったね。カムシンにお肉が食べたいよねって言った気がするよ。そうか、気を利かせてバーベキュー大会を企画してくれたんだね」
何度か頷きつつ、よく焼けたお肉を口に運んだ。
うん、美味しい。やはりヴァン君の特製ダレが一番だな。
それから、毎日溜まっていた仕事をこなした。
「ヴァン様! 新しい住民が千人増えて家が足りません!」
「ヴァン様! ドワーフの方々がオリハルコンの武器を作りたいと騒いでいます!」
「ヴァン様! 魔獣の素材の売却が間に合いません! 商業ギルドが、こちらにギルドの人員を派遣して素材の仕分けや運搬を手伝いたいと言ってくれています!」
そんな様々な要望や意見が舞い込み、てんやわんやで処理していく。
「家は三人以上の家族なら一軒家かな? 一人か二人は申し訳ないけど集合住宅でも良い?」
「ラダヴェスタさんから鉱石もらってないよね? え? あるの? じゃあ、格好良い槍が欲しいって伝えておいて」
「商業ギルドの人が手伝ってくれるのは有り難いけど、お給料はいくらかな? え、毎月金貨一枚? 高っ! 金貨一枚で二人お願いしよう。ダメならメアリ商会にも話を持っていくよってアポロさんに手紙を送って!」
こんなノリで、なんと三日間走り回った。食事休憩くらいしか出来ていないのに、夕食後は笑顔のディーと無表情なエスパーダから剣と学問を習う。
もう、寝る頃にはヘロヘロである。
「つ、疲れた……イェリネッタ王国の要塞攻略に残れば良かった……」
貸切にしてもらった大浴場で半ば浮くようにして湯に浸かり、呟く。
「お疲れ様です」
律儀にカムシンが一礼しながら労ってくれた。泣きそうである。
「後は……アプカルルさん達から出た水中の居住施設建設依頼と、ベルランゴ商会の倉庫追加建設依頼。あ、まだセアト村内の道を増やしてほしいっていうのもあった」
やらなくてはいけないことを指折り数えていく。泣きそうである。
「水中の建物……どうせなら湖底神殿とか作って遊びたいけど、潜って建物作るって難しいよね。金魚鉢みたいなのを被ってラダプリオラちゃんに引っ張ってもらうとか……いや、絶対に悪戯されるから止めておこう」
ぷかぷか浮きながらブツブツ呟いていると、カムシンがハッとした顔になった。
「そういえば! エスパ騎士団の方から冒険者の町の拡張依頼が上がっていました!」
「えぇ……!? そんな簡単に町の拡張なんて言わないでよぉー! 一、二週間は掛かるんだからね!?」
「……一、二週間で出来ることが驚くべきところですよね」
プリプリしながら文句を言うと、カムシンからは呆れた表情が返ってきた。
文句を口にしつつも、頭の中で地図を広げる。
「……う〜ん。街道の上に冒険者の町を作ったからなぁ。ウルフスブルグ山脈の手前の森もあるし、他の方角はちょっと傾斜がある土地なんだよね。作るなら地面の整地からかなぁ……」
と、再度ぷかぷか浮きながらぶつぶつ呟いた。それにカムシンがまたもハッとした顔になる。
「そういえば、ヴァン様! ウルフスブルグ山脈手前の森から木々を伐採してきたので、かなりの土地が開拓されました! こちらの方向に町を拡張してはいかがでしょうか?」
そう言って、空中で指や手を駆使して、カムシンが土地の空き状況を説明し始める。
「ここがセアト村で、ここが冒険者の町だとすると……ここ! この辺りはもう木々が一切ありません!」
「へ、へぇ……じゃあ、作れちゃうねぇ……」
「はい!」
カムシンの説明を聞きながら、僕は悲しみに暮れたのだった。
ちなみに、お風呂上がりのティル特製冷たい果実水はとても美味しかった。
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