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ジャルパの処遇と帰宅

「……それでは、父に……フェルティオ侯爵に尋問をお願いします」


 そう答えると、ジャルパは心から驚いたような顔を見せた。そして、トロンとヌーボはその場にへたり込むように崩れ落ちる。


 三人の様子を眺めて、次に陛下とパナメラを見た。陛下は興味深そうに僕の表情を観察し、パナメラは少し怒ったように眉根を寄せている。


 なるほど。この話を最初に提案したのはパナメラの方のようだ。陛下がどこまで乗り気だったのかは分からないが、僕の回答を聞いて怒ったりはしていなさそうである。


 内心ホッとしつつも、改めてジャルパに向き直る。無言でこちらを睨むジャルパを見て、出来るだけ自然に見えるように微笑んだ。


「それでは、父上。お願いします」


 そう言って頭を下げると、ジャルパは口をへの字にしたまま顎を引いたのだった。





「何故、フェルティオ侯爵を選んだ? 意味が分かっていないわけではないだろう?」


 移動してすぐにパナメラがそう問いかけてきた。陛下は前線に戻っており、ジャルパは尋問をするという名目で昨晩泊まった地下室に移動している。周りには僕とパナメラの関係者しかいない状況だ。


 パナメラの質問になんと答えようかと考えていると、アルテが眉を八の字にして口を開いた。


「……その、やはり実のお父様が処罰されるかもしれないような選択は出来なかったのではありませんか?」


 アルテが心配そうに答えると、パナメラは肩を竦めて首を左右に振った。


「馬鹿な……貴族たるもの、自分の害となる者は誰であっても容赦してはならん。舐められたら終わり、それが常識だ。情に流されて判断を誤った者は家を衰退させるだろう。それでも良いのか?」


 不機嫌そうにそんなことを言いながらパナメラがこちらを見た。それに苦笑して、浅く頷く。


「僕としてはそんな殺伐とした人生を歩みたくないし、かといって家を衰退もさせません」


 そう言った後、不敵に笑いつつ再び口を開いた。


「それに、情に流されたわけじゃないですよ?」


「……なに?」


 僕の言葉に、パナメラは目を細める。


「僕は、自分のやり方で敵対者に対抗します。それこそ、敵対したことを後悔するように」


 そう告げると、パナメラは目を丸く見開いて瞬きを何度かした。そして、不機嫌そうだった表情を幾分柔らかくする。


「……それは興味深いが、今後は多少なりとも私や陛下の思惑に沿うように考えてくれると有難い。本当なら、フェルティオ侯爵家の牽制をしつつ、私と少年の権力を増す予定だったのだが……」


 最後の方は何やら小さく呟いていたが、どうやらパナメラも裏で何かしらの策謀を巡らしていたらしい。


 国が領土的、経済的に成長しない場合、貴族間の権力争いは謂わば奪い合いとなる。誰かが新たな領地を得れば誰かがその分を失い、誰かが要職に座れば誰かが要職から外されるということだ。


 パナメラは、力を持ち過ぎているフェルティオ侯爵家の領地や権力を狙っていたに違いない。それは、王家の力を優位にしたい陛下の思惑とも合致したのだろう。


 陛下は一気に王国を成長させようとしたからこそ、武功を立てたフェルティオ侯爵家を目に見えるほど優遇した。その後領土が広がることは無かったが、明らかに勢いを増したフェルティオ侯爵家は何もしなくても様々な人物が擦り寄ってくることになる。


 他の貴族や大きな商会はもとより、有力な騎士、魔術師なども仕官したいと勝手に集まったりもする。


 これにより、フェルティオ侯爵家は爵位が上がった以上の大きな成長を遂げてしまったのだ。


 陛下はフェルティオ侯爵家の勢いを減衰させたい。フェルディナット伯爵家の派閥と思われているパナメラは、自身が成り上がる為に邪魔なジャルパを失墜させたい……二人の思惑はこんなところだろうか。


 まぁ、申し訳ないが、被害者は僕なのだから僕のやりたいようにさせてもらう。


 内心でそんなことを思っていると、パナメラは溜め息を吐いて肩を竦めた。


「それで、もう少年は領地に戻るのか? 恐らく、あの要塞も半月で攻略されるぞ?」


 パナメラにそう言われて、すぐに首肯する。


「いえ、帰ります。半月もあったら家に帰り着きますからね。早く帰って銭湯に入りたいです」


 心からの言葉である。何が悲しくて空気がピリピリした血生臭い戦場で何日も過ごさなくてはならないのか。


 選べるなら、暖かいベッドと銭湯、美味しい食事のあるセアト村を選ぶのは当然といえる。


 断固たる決意でそう答えると、パナメラは苦笑しながら頷いた。


「そうか。そう言うと思っていたぞ。それじゃあ、また会おう。次に会う時は勝利報告と共に凱旋するから、極上の食材を準備しておいてくれ」


「承知いたしました」


 パナメラの余裕を感じさせる別れの挨拶に笑いながら返事をする。


 そうして、パナメラは颯爽と去っていった。向かう先は戦場だというのに、流石は王国の女傑代表である。


 その頼もしい後ろ姿を見送ってから、僕は皆を振り返った。


「さて! それじゃあ今度こそ帰ろうか!」


 皆に向かってそう言うと、多くの嬉しそうな返事と歓声が返ってきたのだった。






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