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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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パナメラさん怖いです

 突然始まった百人規模の尋問大会。


 誰もが、言葉を発することが出来ずにパナメラの尋問を見ていた。


「君。そう君だ。一つの質問に五秒の考える時間を与えよう。出来るだけ早く答えてくれると嬉しい」


 そう言って笑うパナメラに、地面に座った男は顔を引き攣らせる。その様子が見えていないかのように、質問は始められた。


「さっそく一つ目だ。君の名を教えてくれるか?」


「……ペイサーだ」


「良い名だ。協力に感謝するぞ、ペイサー」


 二、三秒で答えたのを見て、パナメラは上機嫌に頷く。


「それでは二つ目の質問だ。君たちは、どの騎士団に所属している?」


「……それは、言えない。言えば殺されるからだ」


 質問に、ペイサーは冷静にそう答えた。パナメラはその答えに頷き、剣を振るう。


「では、次の質問だ」


 言いながら振るわれた剣は、ペイサーの右の手のひらを貫通した。


「ぐ……っ」


 痛みを堪えて低く声を出す様子を横目に、パナメラは優しく微笑む。


「不思議に思うことが一つある。よく、言えば殺されるから口を閉ざす、という者がいる。しかし、この場で黙って殺されるのは良いのだろうか。矛盾していないか? どう思う」


「……どうせ死ぬならば、情報を漏らさずに死ぬべきだ」


 冷や汗を流しながら、ペイサーが答えた。


「ふむ。良い心掛けだな。では、もう少し質問をしたいので、頑張って耐えてもらいたい。ちなみに、次は右手首を切り落とすので、気をしっかり持つように」


 パナメラは上機嫌にそう告げると、質問を再開した。






 結局、最初の一人は重要な部分は一切喋らなかった。ディーやアーブ、ロウはまだ冷静にその様子を見守っていたが、アルテやティルは顔色が真っ青になっていたので、すぐさま地下室に戻ってもらった。


 セアト村騎士団の面々は微妙である。表情は優れないが、それでも何とか冷静にしていようという雰囲気は感じられた。


 まぁ、騎士団はなんだかんだでそれなりに戦争を経験しているため、度胸がついたというところか。


 ちなみに、僕とカムシンは意外にも冷静に尋問の様子を見ることが出来ていた。


「失血死してしまったか。次は、止血をしながら質問しなくてはならんな」


 苦笑してそう言ったパナメラは、二人目の男に向き直った。すでに、地べたに座らされた男達は顔面蒼白である。中には恐怖で涙ぐむ者もいた。


 先に怯える者を尋問すれば解決しそうだが、パナメラは何故か睨み返す男を選ぶ。


「さて、一つ目の質問だが、準備は良いかな?」


 パナメラがそう口にした時、パナメラの騎士団の奥から二十人ほどの男達が歩いてきた。


「待たれよ、パナメラ子爵」


 低い男の声に、パナメラが剣についた血を拭きながら顔を上げる。そこには、大柄な太った男と、背の低い筋肉質な男の二人が並んで立っていた。白と黒の豪華な鎧やマントを付けているのを見る限り、この二人は貴族だろう。その後ろに並ぶ騎士達もそれぞれ白と黒を基調とした鎧を着ていたので、恐らく二つの騎士団から集められているに違いない。


 その黒い鎧の背の低い男が、パナメラを睨むように見ながら口を開いた。


「この重要な戦いの最中に、他の騎士団の士気が下がるような行動は謹んでもらいたい」


 その言葉に、パナメラが笑顔で首を傾げる。


「おや、トロン子爵。普段は私と同じく敵対する者を断固として赦さない卿が、突然博愛精神でも育てられましたか」


 不思議そうにそう尋ねるパナメラに、トロンは舌打ちをして眉間に皺を寄せた。


「そのようなことは言っておらん。ただ、陛下も参加する重要な戦いが行われている裏でこのような凄惨な拷問をすれば、全体の士気を下げる結果に繋がりかねんと言っておるのだ。まだ陛下が来ておらぬ内にこのような事は止めよ」


 イライラしたようにトロンがそう言うと、黒い鎧の騎士達だけでなく、ほかの騎士団の騎士も何人か顔を強張らせた。背は低いのに威圧感が凄い。


 だが、パナメラはその怒気も鼻で笑ってスルーした。


「トロン子爵。それでは、ヴァン男爵が夜襲を受けた件を無かったことにしようとしているとしか思えぬ。もし卿が寝込みを襲われたなら、ただちに犯人を探し出すであろう?」


 そう聞き返すと、トロンは肩をすくめて首を左右に振る。


「パナメラ子爵は武力はあれど、貴族としての会話の機微には疎いようだな。私は、今この場での尋問は止めよ、と申したのだ。尋問はこちらのヌーボ男爵に頼もうと思っておる。最後尾に下がり、野営用のテントを張って尋問をさせるので安心するが良い」


 トロンがそう答えると、ヌーボと呼ばれた小太りの男は黙って頷いた。なるほど。この二人がトロンとヌーボか。やっと顔と名前が一致した。


「……さて、その提案を聞く限り、例えばこのヴァン男爵が作った地下室の奥で尋問するなら問題はないかのように聞こえるな。まぁ、半日掛からぬだろう。この地下室で、声も聞こえないように尋問をすれば良いかな?」


 挑戦的な笑みを浮かべてパナメラが言い返す。トロンとヌーボが揃って目を鋭くさせるが、パッと反論ができなかった。


 その時、二人の後方に集まっていた騎士達が左右に素早く動いた。その気配に二人が振り返ると、そこには近衛を引き連れた陛下の姿があった。


「なんの騒ぎか」


 低い声で不機嫌そうに陛下が呟き、トロンとヌーボは素早くその場で跪く。


「へ、陛下……!」


 トロンが明らかに動揺した様子で顔を地面に向けた。


 その後頭部を見下ろしてから、陛下は僕の顔を見る。


「む? おぉ! ヴァン男爵! 昨晩はあの素晴らしい門のお陰でゆっくり休むことが出来たぞ! 王都にも作って欲しいくらいだ」


「それは良かったです。暫く使うことになるかもしれませんし、もし何かありましたらお知らせください」


 商品のアフターフォローみたいな返事をして会釈をすると、陛下はパナメラの近くで血塗れの死体が転がっていることに気がつく。


「……何があったのか、説明をせよ」


 パナメラに鋭い視線を向けて、陛下が口を開いた。パナメラは剣を納刀し、答える。


「昨夜、ヴァン男爵の寝所が襲撃されました。男爵は扉一つ破れない唯の来訪者だと気にしておりませんが、今回で二回目の夜襲となります。同盟を結んでいる身としては捨て置くわけにはいかないと思い、襲撃者を捕らえた次第です」


 パナメラのその言葉に、陛下の目が更に鋭くなる。


「なんだと? この大軍勢の中で、二度も特定の相手に夜襲を……なるほど。つまり、ヴァン男爵がこの戦いの切り札の一つであると知っている者の犯行か。一緒に行動する騎士団でなければ、男爵の居場所を的確に襲うことなど出来んが……まさか、この王国にイェリネッタに与する者が現れるとは」


 怒りを孕みながらも冷静に推測する陛下の言葉に、トロンとヌーボの背が震えた。


 それを尻目に、陛下はパナメラに対して口を開く。


「それで、パナメラ子爵とトロン子爵、ヌーボ男爵が襲撃者の尋問をしておったのか」


 その質問に、パナメラは首を左右に振った。


「いえ、トロン子爵とヌーボ男爵は私の尋問の仕方に異議を唱えております。目立たぬところで、ヌーボ男爵が尋問をするから、私に手を出すなと」


「なに? パナメラ子爵のやり方はともかく、ヴァン男爵の唯一の同盟者が尋問をするのは至極当然であろう。何が悪いと言うのか」


 パナメラの言葉に陛下が眉根を寄せる。まるで最初から台本があったかのようなスムーズなやりとりで、陛下はトロンとヌーボへの追及に移った。これは、二人が事前に打ち合わせしていた可能性が高い。


 そう思ってパナメラを見ると、含みのある笑みが返ってきた。


 やっぱりね! 頼りになるけど、パナメラさん怖い!






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