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一泊している間に

 結局、せっかく作った陽明門は陛下に譲ることになったので、改めて自分の宿泊施設を作ることになった。


「よく考えたら、周りの貴族の殆どは爵位が僕より上じゃないか。また取られてしまう可能性もあるし、今度は目立たないものにしよう」


 そう決心した僕は、最も目立たない建物を考えた。


 そう、つまりは地下室である。入口に気をつければ誰にも気付かれないくらい目立たない筈だ。


「どうせなら、よく駅前とかにある地下街みたいに広い空間が良いな。見やすくするために通路は直線だけにしようか。それとも、侵入者対策のために迷路みたいにしたほうが良いかな?」


 地下への階段を作ってから、僕はそんなことを呟いた。すると、後ろに並んでいたカムシンやティル、アルテが顔を見合わせる。


「……ヴァン様を守護する身としては、守りやすい作りは有難いですが」


「その……迷路は、私も迷ってしまいそうです……」


「簡単な迷路にしてはいかがですか? 全て右を選べば正解の道とかなら迷わなくて良いかもしれません」


 と、それぞれの意見が出た。


「おお、それは良いね。流石はアルテ」


 折衷案ともいえる丁度良いアイディアが出たところで、発案者のアルテを褒めて採用を告げる。ちょっと照れた様子ではにかむアルテに微笑みつつ、地面に簡単に地図を描く。


 地下に降りてすぐに三方向に分かれる道を作り、それぞれ更に二つの分かれ道を作った。


「どこかで、人間は左を選びやすいって聞いたからね。全部右を選んだら正解ってことにしようか。理想としては、外れの道を選んだら全て同じ部屋に集められて出られなくなるような仕掛けが欲しいけど……」


 幾つか地面に道を描きながら、どんな風にしようかなと考える。すると、カムシン達も一緒に考えるような素振りを見せた。


 そして、今度はティルが挙手して口を開いた。どうやら何か考えがあるらしい。


「正しい道でなければグルグル回ってしまうような形はどうでしょう? そうしたら、侵入者の方も諦めて帰るかもしれません」


 と、可愛い提案をしてきたので、軽く笑いながら頷いた。


「そうだね。じゃあ、分かれ道を誰かが通る度に音が鳴るようにしようか。そうしたら、困ったら絶対に開けられないような扉を作っておけば防備は固められるからね」


「え? 音が鳴るようにというのは……?」


「紐と板を使うものですか?」


 ティルとカムシンがそれぞれ質問をしてくる。どうやらカムシンは昔の武家屋敷にあったような防犯装置を思い浮かべているようだが、よくぞそんなものを知っているなと言いたい。


 というか、この世界にそんなものがあるのだろうか。


 不思議に思いつつ、僕は答えを教える。


「カムシンの案を採用してみよう。板の下に紐を張っておいて、その先を壁の裏を通して奥の部屋まで繋げたら良いかな? やったことないから分からないけど、今後のためにもちょっと実験をしておこうか」


 そう答えるとカムシンは嬉しそうに頷いた。ティルとアルテはまだ想像できていなさそうだが、とりあえず了承してくれるようだ。


 新しいものを作るのは楽しい。


 僕はどうやって侵入者探知の仕掛けを作ろうか頭を働かせるのだった。





 夜になり、部屋の天井に設置した薄い鉄の板と板が接触して澄んだ音を立てた。早速、防犯装置が作動したらしい。


「す、すごい音ですね……」


 半分寝かかっていたのか、アルテが目を擦りながらそんなことを呟き、歩いてきた。僕はその様子を見て笑いながら、作ったばかりのソファーに座ったまま軽く伸びをして頷く。


「そうだね。シンバルをイメージして作ったから、思ったよりすごい音だったね」


「しんばる?」


「大きな音が鳴る楽器だよ」


 アルテが首を傾げたので簡単に説明すると、成程と真面目な顔で頷かれた。


 ソファーから立ち上がると、入口の方向からカムシンが現れた。こちらも生真面目な性格のためか、軽装の鎧を着て武器も手にしている。


「侵入者です」


「そうみたいだね」


 苦笑しつつ、返事をした。ティルも同じようにほほ笑みながら、反対側のソファーから腰を上げて僕を見る。


「お茶を淹れましょうか?」


「そうだね。温かい紅茶が良いな」


「かしこまりました」


 お願いすると、ティルは一礼してから紅茶を淹れに行った。


 何故、こんなにゆとりがあるのかというと、出来たばかりの宿泊施設が最高の防犯能力を保持しているからに他ならない。


 地下一階に降りると分かれ道が何度か続き、正解の道を連続して選ぶとようやく奥の部屋へと辿り着く。その部屋は十人ほど寝られる広い部屋が幾つかあり、更に大きな食堂と多人数用トイレなどがある。そして、僕やアルテ、ディーの個室があるのだが、まず、入口には中から頑丈な閂を掛けることが出来る。地下という性質上、扉を壊すような重量物は持ってこられず、魔術を使って壊す以外に方法は無いだろう。


 だが、そう簡単にはいかない。


 何故なら、扉の厚さは十センチ以上。ウッドブロック製で重さはそこまでないが、十二分の頑強さを有している。


 何度か防犯装置が作動して金属音が鳴り響いたが、いまだにこの部屋まで辿り着いた者はいない。早く防衛能力を見てみたいのだが、侵入者の頑張りが足りないようだ。


「……もう、三人目でしょうか?」


「一回で何人か分からないからね。もしかしたら十人くらい来てたりするかもしれないよ?」


 そんな会話をして、ティルが持ってきた淹れたての紅茶を堪能する。


 うん、美味しい。デザートにカップケーキが欲しいところである。


「ヴァン様、敵が扉の向こうまで来たようです」


「お、ようやく来た?」


 ゆったりくつろいでいると、部屋の入口の方からロウが報告に来た。その報告に、カムシンが真剣な顔で「様子を見てきます」と言って来た道を戻っていく。


「さて、扉を開けることが出来るかな?」


 そう言って笑いつつ、僕はアルテを見る。だいぶ目が覚めたのか、アルテは無言で頷いて二体の人形を動かしたのだった。





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