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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】評価されること

【ジャルパ】


 お互い、魔術だけでは決定打に欠けていると実感していた。なにせ、こちらが魔術を用いて城壁の一部を崩しても、向こうはすぐにそれを土嚢で埋めていき、反撃の魔術をこちらに向かって放ってくる。


 城壁よりも低かった丘の上は、砦のおかげで対等の位置にすることが出来た。地形の条件は五分となり、建物の耐久力の差で若干こちらが有利かと思われたのだ。


 しかし、もう一つ重要な点があった。


 こちらは狭い山道に作られた砦一つであるのに対して、相手は平地に作られた大要塞だ。城壁も広く、こちらに対して集中攻撃が出来るような造りになっている。


 つまり、我が軍は少数でしか攻撃をすることが出来ないが、相手は大量の人員を攻撃に回すことが出来るのだ。


「……陛下もお気づきだろうが、やはり歩兵や騎馬兵を展開出来なければ攻城戦は難しいな」


 魔力切れを起こしてからは騎士団の者を入れ替えながら攻撃の継続を行っているが、城壁を攻撃できるような魔術師の人数が少ない。癪なことに、ヴァンの作ったバリスタは有効な攻撃手段だが、矢の数に限りがある。陛下はあの矢を最大級に評価しつつ、冷静に城壁を崩すことには向かないと判断した。


 つまり、イェリネッタ王国で脅威となる魔術師を射抜くために使用すると判断したのだ。


 これは難しい判断である。本来なら、相手の領地で行う戦いは速度が命だ。補給も増援も相手方の方が有利になるのだから当たり前である。その常識を念頭に置けば、この要塞は出来るだけ早く陥落させたい。


 なにせ、イェリネッタ側の視点で考えるなら全力で挑んだ大侵攻が失敗に終わり、反撃として予想外の拠点が襲撃されている状況だ。下手をしたら他国に助力を求めることも考えられる。


 陛下はイェリネッタの内部に情報網を持っているのか。それとも、隣国が動かないという確信があるのか。


 なんにしても、何か考えがあるのは確かだ。


「ストラダーレ! 後は頼むぞ!」


「はっ!」


 魔力の使い過ぎで頭が回らん。一旦、ストラダーレに後を任せて前線から下がることにする。


「侯爵。卿も一旦休憩か」


 後方に下がろうとすると、ちょうど陛下も屋上から降りようとしているところだった。近衛兵十数名を引き連れて戻るようだ。正直、交代出来る騎士団が増える為陛下が下がってくれた方が効率が良い。


「相手がまた亜竜の類を連れてくることも考えられるからな。戦力は四つに分けて交代しながら連続して攻め続けるぞ。この砦の規模なら二つの騎士団までかもしれんが、すぐ外に夜営を行って適度に休憩をしていけば問題ないだろう。それに、もしかしたらヴァン男爵がもう少し砦を拡張してくれているかもしれん」


 そう言って、陛下は含みのある笑みを浮かべて私を見る。一種の脅しに近い響きを感じる。ヴァンから聞いたのか。それとも、陛下が自ら推測をしての言葉なのか。


 どちらにしても、やはり下手な動きは出来ないだろう。動いたのは私の息のかかったヌーボ男爵とトロン子爵だ。この二人にも今は動くなと厳命しておかなければならない。二人が犯人だと分かれば、必然的に私にまで累が及んでしまう。


「……聞いておるのか、フェルティオ侯爵」


「は……はっ! 申し訳ございません!」


 少し思案することに集中し過ぎていたようだ。眉根を寄せてこちらを振り返る陛下に、慌てて謝罪の言葉を口にする。


 すると、陛下は軽く溜め息を吐きながら、階段を下りていった。後に続いていくと、開け放たれた扉の前で陛下が立ち尽くしていた。周りの近衛兵も同様である。


 何があったのかと近衛兵を押しのけて陛下の斜め後ろにまで行くと、思わず私も足を止めてしまった。


 何故なら、目の前には通った時にはなかった長い廊下が続いていたからだ。


「……砦と宿舎を併設させたのか? 流石はヴァン男爵だ。予想外な作り方をしたな」


 苦笑しながら、陛下は廊下を奥へと進んでいく。面白がって幾つか扉を開けたが、同じ部屋が並んでいると気が付いて興味を別の階に移した。


「途中で階段があったが、これまでの傾向上、恐らく上は個室であろうな。下はまさか例の大浴場か? 気になるな」


 そう言って、陛下は下の階へと降りていく。


 なるほど。確かに、これまでヴァンは上に行けば行くほど位の高い人物用の部屋を作ってきた。ならば、下の階の方が気になるというのも分かる。


 そう思って付いていったのだが、まさかの光景が広がっていた。奥まで行って階段を下りたのもあるが、一階の部屋は殆ど見ることなく、誤って外へと出てしまった。すると、そこには謎の門があったのだ。


「……こ、これはなんと見事な……」


 さしもの陛下も言葉はその程度しか発せなかった。他の近衛兵達は絶句したまま硬直しているくらいである。


 それほど、目の前に現れた大きな門は見事だった。


「……これは、どこの国の様式だ? 随分と洗練されているが……卿は知っているか?」


「い、いえ……どうも見たことも無い装飾、形で……」


 不意に尋ねられたが、答えることは出来なかった。


 その間も、門の造形美から視線を外すことが出来ないでいる。誰もが無視できないほど派手な彫刻と装飾が施されているというのに、それが自然な姿だとでもいうかのように特殊な形の門と調和している。ただただ美しいとしか言えない。


「剣にしてもそうだが、ヴァン男爵は芸術の面で秀でているようだな。これほど見事な門を作るとは……しかし、何故こんな場所に? 門を閉めることで、反対側からの奇襲に備えるつもりか? しかし、まだ門の左右に城壁などは見当たらないが……」


「この門は見事ですが、戦闘に適したようには見えません。扉もまだ取り付けられていないようですし……」


 陛下の疑問に対して答えることが出来ず、同じような疑問を口にすることしかできなかった。そうこうしていると、門の内側からパナメラが姿を現し、こちらに気が付いて歩いてくる。


「陛下、お休みされますか?」


 パナメラが何事も無かったようにそんな質問をしてきたが、陛下はそれには答えず門を指さした。


「パナメラ子爵。この門はなんだ? ヴァン男爵はここにいるのか?」


 そう尋ねると、パナメラは苦笑しつつ頷く。


「先ほどまでこちらにおりましたが、今は自分用の宿舎を作っているようです。こちらの門はどうやら陛下がお休みできるように作った特別な物とのことでした。どうでしょう。早速、中をご覧になりますか?」


 パナメラの言葉に、陛下は戸惑いつつも首肯した。案内してもらい、陛下と私だけが門の中へと入っていく。階段を上がり、最初の扉を開けた。途端、世界が変わったように華やかな光景が目の前に広がる。


「おお、これは……」


 王城に住まう陛下ですら、感嘆の声を上げることしか出来なかった。私に至っては唖然としてしまったほどだ。思わず、部屋の中をまじまじと見まわしてしまう。


 落ち着いた色合いの壁には美しい赤の絨毯か何かがかけられている。また、天井には細かな装飾の施された木が張られていた。それ以外にも柱や天井の梁も隠さずにあえて部屋の中に配置されているようだが、どれも不思議と全体の調和と美観に貢献している。


「……不思議だ。単なる木を削りだしたような柱が、どうしてこれほど存在感を放つのか」


 呟きながら、柱に手を触れる。どうも普通の木材ではなさそうだが、それがこの存在感を生み出しているのか。


「ふむ、確かにな。だが、それよりもこの光の方が気になるぞ。窓ではなさそうだが……」


「は、はい。確かに、これは……」


 陛下に言われて顔を上げて確認すると、確かに天井には四角いガラスのような物が幾つも取り付けられていた。天井に埋め込まれているように見えるが、そのガラスが発光している。これはどういう原理なのか。


「確認しましたが、ベッドもソファーも最上級の素材で出来ています。それに、執務室やシャワー室もありました。上の階も同様に豪華な寝室やシャワー室などがあります」


「それは有難いな。とはいえ、まさか敵地の目の前でこれだけ豪華な部屋で休めるとは、思いもよらなんだ」


 パナメラの説明に、陛下は上機嫌にそう言った。


「……くそ、ヴァンめ。また陛下に気に入られようと……あの年齢でよくもまぁ、世渡りが上手いことだ……」


 腹立たしい気持ちでそう呟くが、それすらも出来ない自分への歯がゆい気持ちが増しただけだった。







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