山の中とは思えないね
砦の方からパナメラが歩いてきたのが見えて、片手を振りながら口を開く。
「パナメラさん」
名を呼ぶと、パナメラはこちらに一直線に歩いてきて、力強く僕の肩に手を置いた。ちょっと痛い。
「少年……これはなんだ?」
「え?」
パナメラの突然の質問に、思わず首を傾げて生返事をした。それが気に入らなかったのか、パナメラは真顔で斜め上を指さす。
「これだ。この建物はなんだ?」
そう言われて、今しがた建てたばかりの建築物を見上げる。街道の部分を空けて左右に建物を造り、アーチを描きながら空中で一体化した建物。鳥居のような形状の建物だが、豪華絢爛な装飾と、上部に向かって広がる独特な屋根が芸術的な美しさとなっている。
「えっと、陽明門……じゃなくて、城門の一種ですね。今日の仕事はこれで最後だと思って張り切ってしまいましたが、高さは四十メートルくらいに抑えました。その分、外装をしっかり拘って……」
「ちょ、ちょっと待て。頭が追い付かん……城門? 何故これを建てたんだ?」
珍しく困惑するパナメラが質問をしてくる。いや、一切なにも考えていなかったのだが、思いつきで造ったとは言えない。一瞬、出来たばかりの見事な陽明門を見上げて、すぐにパナメラを振り返る。
「今回の戦いは必ず陛下が勝つと思っています。なので、勝ってすぐに陛下が見て楽しめるように、豪華な城門を造りました。ちなみに、この門は二階から上が居住部分となっているので、今晩はそこに泊まらせていただきます」
笑いながらそう告げると、パナメラは呆れたような顔のまま陽明門を見上げて、溜め息を吐いた。
「はぁ……よくこんな物を思いつくものだな。それに、これだけ派手に彫刻や装飾が施されているのに、一種神々しさすら感じさせる。中も見て良いか?」
「え? い、いや、それはちょっと……」
「ん?」
パナメラの言葉に反射的に否定の言葉を口にしてしまった。敏感にそれに反応すると、パナメラは目を細める。
「……また何か作ったな? 見せてもらうぞ?」
「ちょ、ちょっとそれは……あ、パナメラさん!?」
突然刑事のガサ入れみたいな流れになり、慌ててパナメラを止めに行く。まさか、こちらの了承前に自宅に押し入るとは思わなかったため、本気で焦った。
あ、自宅はセアト村にあるから、ここは別荘というべきか。別荘という響き……ちょっとセレブになったような気になり、気分が良くなった。
いや、違う違う。今は扉を開けて勝手に中に入って行くパナメラをどうにかせねばならない。
「パ、パナメラさん! 待ってください!」
急いで後を追うが、階段を勢いよく上がって行くパナメラはすぐに二階に着いてしまった。
そして、ぴたりと動きを止める。
「……少年、これは……」
咎めるような目でこちらを見るパナメラ。完全にバレてしまった。諦めて、溜め息を吐き答える。
「……はい。僕たちが泊まる予定の部屋です」
そう言って、部屋の説明をする。まずは、近くのソファー席だ。
「これは希少な魔獣の革で作ったソファーです。テーブル、棚にも拘りました。さらに、窓は外からの攻撃を防ぎつつ採光がとれるように厚みのあるガラスの二枚張りです。トイレ、お風呂もあり、寝室は十人がゆっくり寝られるようにしています。三階はさらに豪華な寝室とリビングになっています。この部屋でも十分豪華な造形の壁や柱、天井ですが、三階はもっと豪華絢爛に……」
段々と調子に乗りながら説明をしていたのだが、パナメラが低い声で喋り出したので、僕は素直に口を噤む。
「……これは、陛下が宿泊される建物だな?」
確認するように聞いてくるパナメラ。
「いや、これは僕達が……」
「陛下が、宿泊される建物で間違いないな?」
「……はい、そうです」
渋々、パナメラの言葉に同意を示す。そこでようやく満足したように息を吐いた。
「……恐ろしい奴だな。恐れを知らないというか……ただの子供がしたことならそれだけで終わるが、ヴァン男爵の場合はそんな言い訳はできないぞ」
パナメラはちょっと怒ったようにそう言って部屋の中を物色し始める。
まぁ、パナメラの言いたいことは理解している。陛下よりも良い場所で寝ていては、様々な問題が生じるだろう。それこそ、陛下が悪く思わなくても他の貴族の手前、それなりに罰を与えないといけなくなるかもしれない。
パナメラはこちらの身を案じて一番良い建物を陛下に、と言ったのだ。とはいえ、せっかく凝って作っただけに少し悲しい。
「……仕方ない。別のものを作ろうか」
僕は一人呟き、陽明門を後にしたのだった。
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