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翌日、村はパニックに

※本日2度目の投稿です

 朝日が差し込み、僕は冷たい空気を吸って薄く目を開ける。身じろぎすると馬車が僅かに軋む音がした。


 朝日は顔を出しているが、空はまだ朝焼けの真っ只中である。深い青と藤色、そして地表を染めるオレンジ色が目に眩しい。


「あ、ヴァン様。おはようございます」


 身を起こすと、先に起きて馬車の掃除をしてくれていたティルが挨拶してくれた。


「おはよう、ティル」


 返事をして馬車の窓から顔を出すと、馬車の周りを掃き掃除しているカムシンがこちらに顔を向ける。


「おはようございます、ヴァン様」


「おはよう、カムシン」


 挨拶を返しつつ、土の地面を掃き続けても意味がなさそうだな、などと考えて周りを見回し、自分の考えが早計であったと知る。


 馬車の周りだけよく整備されたグラウンドのように綺麗だった。


「二人とも、掃除お疲れ様」


 労うと、二人は照れ笑いをしつつ返事をしたのだった。


 馬車から降りて背伸びをする。服は着替えたが、水浴びが出来ていないので気持ち悪い。後、馬車の中は広いが寝具が寝袋とかしかないから身体が痛い。


 あ、馬車を改造すれば良かったのか。忘れてた。まぁ、良いか。とりあえず、もう狭い場所で寝起きは嫌だ。


 結論、村の防衛を固める前に、衣食住を整えねばならない。


「家、作るぞ」


 僕は決意と共にそう呟いた。長いこと野営やら夜営やら馬車移動やらを繰り返し、領地である村に着いても馬車で寝泊まりしているのだ。


 あれ、僕貴族だよね?


 思わず、自分が冒険者だったかと錯覚してしまう日々だ。パピー、覚えてろよ。


 やる気を再燃させ、僕は両手を顔の前で叩く。


「カムシン! ウッドブロックを持って参れ!」


「へ? あ、は、はい!」


 慌ててウッドブロックを両手に抱えて走ってくるカムシン。忠犬みたいで和む。


 遅れて、ティルがウッドブロックを持ってきた。


 瞬く間に、僕の前にウッドブロックが積み上がっていく。


「な、何かありましたかな? あの、それは……?」


 と、気が付けば側にロンダがいた。ロンダはウッドブロックを眺めて唖然としている。まさか、材料が木だとは思うまい。


「この広いところに僕達の家を建てようかと……あ、建てて大丈夫かな? この場所、広場とかで使ってたり?」


 僕が尋ねると、ロンダは頷く。


「村の中央ですからな。領主であるヴァン様の屋敷を建てるならちょうど良いと思いますぞ。広場として村で使うことも減りましたからな」


 そう言うロンダには、どこか自虐的な雰囲気があった。恐らく、村の余裕が無いために祭りなども開催できないのだろう。


 ならば、ある程度余裕ができたら、豊穣祭と謝肉祭を開催できるように頑張ろう。


 そんなことを考えながら、僕はウッドブロックに手を添えた。家みたいな大きな物、果たして僕に作れるだろうか。まぁ、扉は作れたのだから、何とかなるか。


 魔力を集中して、まずは柱を作る。僕とティル、カムシンとエスパーダが住めれば良いか。ディーと他二名は別に家を作ろう。


 柱は一先ず四方を先に準備して大きさを決める。自分が寝起きしていた部屋を思い出しながら柱と柱の間隔を定め、地面に突き刺す。


 ここで良い誤算があった。柱を作る際、死ぬほど細い針金のような感じをイメージして地面の奥深くに差し込む。その状態で柱を太くしていけば、なんと地面にしっかりと突き立った立派な柱が出来るではないか。


 押しても引いてもビクともしない、見事な柱である。後は、それに接合して床、壁を作っていき、最後に屋根を作る。


 ウニョウニョと伸びていくウッドブロックが気持ち悪いが、見ながら作っていく方が出来上がるのが早い。頭の中に設計図はあるが、実際に出来ていくと大きく感じるな。


 外壁と屋根まで出来たら、内側の仕切りの壁を作っていく。


 ウッドブロックは全て消費したが、とりあえず家の形は出来上がる。共同設備として食堂やトイレ、寝室として大きめの個室が一部屋と中ぐらいの個室が一部屋。後は小さな個室が二つ。一応、その辺りの差をつけておかないとエスパーダに怒られるのだ。


 窓は無いので戸板で代用する。硅砂とか何処にあるのかも知らないし、今度行商人が来たら聞いてみよう。


 そんなことを思いつつ、僕は出来上がった家を見上げる。


「ちょっと大き過ぎたかな?」


 そう呟くと、途中から無言で見ていたエスパーダが口を開く。


「いいえ、まだまだ小さいくらいでしょう。とはいえ、現在の村の中では最大の邸宅です。それに、見たことのない様式のようですが、作りも立派なものです」


 エスパーダの顔はいつも通りだったが、その声には明らかに喜びの色があった。ティルとカムシンも嬉しそうである。


「凄いです! あっという間に家が!」


「ヴァン様の魔術は四元素魔術よりも余程領主様に向いてますね!」


 ティルの後にカムシンがそんなことを言い、ティルとエスパーダの表情が強張る。


 僕は苦笑して首を左右に振った。


「面白い魔術だけど、やっぱり領民を守れる強い攻撃魔術が一番良いとは思うよ。ほら、そんな領主の方が住む人は安心でしょ?」


 そう言うと、ティルが悲しそうに否定する。


「そんなことはありません。私なら、ジャルパ様の街よりも、ヴァン様の街に住みたいと思います」


 と、私情百パーセントのティルの励ましに笑って頷いていると、今度はエスパーダが口を開く。


「ヴァン様。戦乱の時ならば、たしかにヴァン様の言う通りかもしれません。しかし、戦の脅威が無い時ならば、領民が求めるのは暮らしを良くしてくれる領主なのです。その意味では、ヴァン様ほど民の目線に立てる方はいないでしょう」


「ぼ、僕はヴァン様に付いていきます!」


 エスパーダ、カムシンと揃ってフォローに入る。いやいや、僕はそこまで気にしてないってば。


「ぅおっ!? なんだこりゃあ!?」


 今度はオルトの驚愕する声が響いた。振り向くと、オルト達冒険者の他にディー達も来ていた。


 皆が僅か一時間程度で出来上がった家を見上げて唖然としている。


「僕の家」


 そう教えると、ディー達が期待のこもった目を向けてくる。


「……木材を持ってきたら、皆の家も建てようか?」


 思わず余計な事を口走ってしまった。


 直後、真っ先にディーが部下二名を振り向き叫ぶ。


「木々を集めろ! 馬車を使え! 昼までに持ってくるのだ!」


「はっ!」


 騎士三名がこれまでに見たことの無い緊迫感を持って動き出した。いや、いつもの緩い空気は何処にいったんだよ。


「お前ら、森に向かうぞ。即行だ。いいか、俺が伐り出す。お前らは二台馬車を使って往復しろ。騎士どもに負けるなよ!」


「おうっ!」


 と、何故か今度はオルトが鬼気迫る表情で指示を出し、皆が一斉に走り出した。


 ディー達を追い抜かんと走り出したオルト達に、僕は思わず目を瞬かせる。


 いや、お前らは村に住むのか? 住まないなら家作らないぞ、こら。


 というか、あいつらは領主をなんだと思ってるんだ。


 僕が腕を組んで土埃を上げて走る馬車三台を眺めていると、後ろからロンダが村人を引き連れて現れる。


「……あ、あの、聞くところによると、家を建てて下さると聞いたのですが……」


「え?」


 聞き間違いかな。そう思って首を傾げたのだが、村人達の目はマジだった。


「わ、我が家も雨風が降り込んで……」


「私の家は床が抜けてしまって……」


「玄関の扉が朽ちて無くなりました」


 次々にリフォーム依頼が舞い込んできた。そんなもん、建てたハウスメーカーか工務店に言え。家だけに。


 そう思ったが、彼らの家は僕から見ても酷い。多分、地球なら農家の倉庫の方が遥かに住み心地が良さそうだ。


 故に、僕はこう言うしかなかった。


「……家の状態で優先順位をつけてください。順番に建てましょう」


 村は喜びの歓声に包まれた。


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