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最強の砦、拡張

「……なんということか」


 砦の上まで上がってきて、陛下がそう呟いた。砦の中心にある塔を見上げつつ、呆れたような顔で口を開く。


「下で見ていたが、これだけの砦を魔術による集中攻撃を受けながら建てるとは……これが敵であったなら恐ろしい事態であったな。なにしろ、砦には男爵の作ったバリスタまで設置されているのだ。脅威という他ないな?」


 含みのある言い方をして、陛下は後方を振り返った。すると、真っ先にフェルディナット伯爵が深く頷いた。


「はい、陛下。ヴァン男爵が味方で良かったと心より思っております。この砦のお陰で死ぬはずだった兵士の数は激減することでしょう」


 フェルディナットの言葉に、ベンチュリーとパナメラも頷いている。そして、ジャルパや一部の貴族は面白くなさそうに僅かに顎を引くのみだった。


 その様子を横目に見ながら、僕は陛下に向き直る。


「それでは、陛下。僕はこれで……」


 曖昧に別れの言葉を告げて戦場を去ろうとした。しかし、陛下は笑顔で片手の手のひらをこちらに見せる。


「まぁ待て、ヴァン男爵。そう急ぐこともあるまい。なにしろ、今から出てもすぐに山中で夜となろう。ならば、騎士団の守りがあるこの砦で休んで翌日帰ればよかろう」


「……いえ、今からまさに戦闘が始まると思いますので……」


 戦いに混ぜられたらたまらない。思わず陛下の提案を拒絶した。流石に無礼だったかと思ったが、戦争には出たくないので仕方がない。


 片手を挙げて会釈をしながら遠慮がちにお断りさせてもらう。しかし、陛下は全く意に介していない。


「安心せよ。だれも戦争に参加しろとは言っておらん。まぁ、もし良かったらだが、砦の後ろにもう少し建物を作ってくれると嬉しいが……」


「……承知いたしました。陛下の温情に感謝いたします。それでは、さっそく砦を出て作業を行います」


 陛下から命令ではなく、お願いをされてしまった。他の貴族も見ているこの状況下で、流石にそれを断るのは気が引ける。大人しく頭を下げて従うほかないだろう。陛下は大喜びで「流石はヴァン男爵だ! 王国のことを一番に考えておるな!」などと言っている。


 仕方なく……もう本当に仕方なく従おう。ただし、砦の拡張工事は好きにさせてもらう。僕の夏休みの工作は砦の建築である。


 ディーやカムシン、セアト騎士団と冒険者たちを引きつれて砦の下に着くと、まるで狙ったかのように砦の向こう側で激しい爆発音が鳴り響き、衝撃が地面を伝ってきた。


 どうやら、本格的に戦いが始まったらしい。とりあえず、砦にバリスタは設置しているが、あの要塞の規模だとそう簡単に決着はつかないだろう。相手にも魔術師はいるだろうし、バリスタを破壊される可能性もある。


 まぁ、相当な実力の魔術師でないと僕のバリスタは壊せないけどね。


 密かに自画自賛しながら、砦の裏側周りを確認する。僕が作った街道と、木々が並ぶ山の斜面。あまり広くは作れないが、それも工夫次第か。


 どんな建物を建てようかな。


 そんなことを考えていると、僕の馬車からティルとアルテが出てきた。


「ヴァン様! ご無事で良かった!」


 ティルがホッとしたような顔でそう言い、アルテが微笑みながら口を開く。


「ティルさんがとても心配していました」


 アルテがそんなことを言い、ティルが涙目で何度も頷いた。それに笑いながら頷き、アルテを見る。


「アルテはあんまり心配じゃなかった?」


 悪戯心で尋ねると、アルテは目を瞬かせ、すぐに頬を赤く染めて俯きがちに口を開いた。


「わ、私も心配でした。でも、ヴァン様の魔術を知っていますから、必ず大丈夫と……」


 少し早口でそう言われて、苦笑しながら頷く。


「ディーのお陰かな。それにカムシンやセアト騎士団。オルトさん達もすごく働いてくれたからね。順調に築城出来たから最高の結果を出せたんだ」


 答えつつ、周りの状況を確認して再度口を開く。


「それじゃ、ちょっと砦の裏側を増築するよ。皆は……流石に一回休憩を挟もうか?」


 ウッドブロックを抱えて階段を上り下りした騎士団や冒険者の皆を見て、流石に連続での作業は無理かと思い直した。ブラック企業も真っ青な重労働を強いているのだ。僕なら文句を言ってシエスタの権利を主張するだろう。


 しかし、カムシンはウッドブロックを両手に持ったまま、力強い目つきで首を左右に振った。


「ヴァン様が働くのに休んでいられません」


「いやいや、皆疲れてるかもしれないから……ねぇ、皆?」


 誰にともなくそう言ってオルト達を振り向くと、すでに冒険者達は両肩にウッドブロックを担いで立っていた。


「何か言いました? あ、ウッドブロック、どこに置けば良いですか?」


「何でもやりますぜ! なんで、宿二軒目を建てる時はお願いしまさぁ!」


 オルトとクサラが不敵な笑みを浮かべてウッドブロックを掲げてみせる。このやる気には下心がありそうだが、今回はとてもよく働いてくれているので許してやろう。欲しいと言うならミスリルの武器くらいは作ってやらないでもない。


 と、そんなことを思っていると、セアト騎士団の超最強機械弓部隊のボーラもウッドブロックを抱えてこちらを見た。


「ヴァン様、騎士団もお手伝いをさせていただきます! 何でも言ってください!」


「おお、皆……そんなに社畜根性に溢れて……これでどんなブラック企業で働いても生きていけるね」


 皆の献身的な台詞に嬉しさ半分、照れ半分で冗談を口にする。そして、皆の目を見返して浅く顎を引いた。


「それじゃあ、改めて……皆! 砦の増築工事! よろしく!」




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