【別視点】驚きの建築術
「投げたら素早く反転しろ! 馬が驚くと制御が難しくなる! 気を付けろよ!」
騎兵隊の隊長が叫ぶ声がした。数秒後、丘の上で地響きを伴う爆発が連続して起きる。普通の城壁ならば必ず亀裂が入る。厚み次第では一撃で破壊することも可能だ。
それは土の魔術で出来た壁であっても同様である。
「一度距離をとれ! 二回目に備えろ!」
命令を発しながら騎兵達がこちらに戻ってくる。数は二十ほどか。機動力を重視したにしても数が少ない。恐らく、最も早く出られる者を集めて奇襲を行ったのだろう。
「隊長! 北側の一部が崩れています!」
「よし! そこを集中的に狙え! 意識を散らすためにも二人は反対側に投擲しろ!」
「はっ!」
騎兵達は状況を確認してすぐに次の行動に移る。素早い判断と的確な攻撃だ。壁に穴が空けば、そこに黒色玉を投げ込んでしまえば勝利は確実といえる。
「どうなるかと思ったが、これなら安心だな」
近くでそんな声がした。別にこちらにかけられた声ではなかったが、何となくそれに頷いて戦況を見守る。
しかし、予想外の事態が起きた。
「ディー! 守って!」
「承知!」
そんな声が聞こえたと思ったら、土の魔術で出来た壁が徐々に形を変えていくではないか。まさか、あの子供がこれだけの土の魔術を行使しているのか? しかし、それにしても一度発動した後の魔術を後から修復など可能なのだろうか。
驚きながらその光景を見ていると、城壁の上に別の一団が現れた。黒いローブにミスリルの盾。ようやく、我が要塞の最高戦力がお出ましである。
「魔術師隊! あの壁を粉砕せよ!」
「はっ! それぞれ攻城に適した魔術を使用しろ! 同時ではなく、順番に発動する! 詠唱開始!」
いつの間にか第一騎士団の騎士団長であるヘレニックも来ていたようだ。ヘレニックは魔術師隊に号令を発し、魔術師隊の隊長が更に細かく部下に指示を出している。
魔術師達が一斉に詠唱を開始するその間にも、地上では騎兵達が再度敵の魔術を打ち破ろうと駆け出していた。これは、最高のタイミングだ。
「投げろ!」
その声と同時に騎兵達が黒色玉を投擲し、素早く反転。こちらに戻ってくる騎兵達の後方で、激しい爆発音が連続して空気を震わせた。今度は集中して一か所を狙ったのか、壁の中心に大きな亀裂が入った。そこへ、ヘレニックが口を開く。
「今だ! あそこを狙え!」
声を上げた次の瞬間、魔術師隊は次々に魔術を放っていった。炎、石、氷、風などの魔術が怒涛の勢いで打ち込まれていく。その恐ろしい光景に、味方の攻撃ながら戦慄が走る。
「う、お……」
「なんて魔術だ……!」
「……あんなものを食らったら、跡形も残らんぞ」
一般の歩兵達は目の前で起きている魔術の嵐を見て、もしそれが自分たちに向いたらと思って震え上がっている。戦場に出たことのある兵士は皆同じ気持ちだろう。あの黒色玉も恐ろしいとは思うが、やはり魔術への恐怖感はそれ以上である。隊列や装備次第ではあの中の一つがこちらに飛んでくるだけで死ぬこともあり得るのだ。
背筋が寒くなる思いをしながら、土埃が舞う丘の上を眺める。あまりにも多くの魔術を連続して行使したせいで、なかなか視界は晴れなかった。
だが、徐々に土埃が収まっていくと、城壁のいたるところから驚きの声が上がった。かく言う自分もその一人であり、驚愕して目の前の光景を見ていた。
視界が開けたと同時に、丘の上に巨大な砦が出現していたのだ。中心と左右に塔と櫓らしき部分まである。建てられる範囲が狭いから流石にこちらの要塞ほど大きくはないが、それでもかなりの大きさだ。
「……今の魔術の集中攻撃を食らいながら、どうやってあんなものを……」
思わず、そんな言葉が口から出る。何の魔術か分からないが、あれだけの衝撃を受ければ普通はどんな城壁でも崩れてしまうだろう。だが、それで突破できないとなると、対処法は物量による占領か、補給を絶っての兵糧攻めなどしかない。
「これは長期戦になるぞ」
俺がそう呟くと、まるでそれを合図にしたかのように騎兵達が要塞へ戻って来た。門が開き、騎兵達が素早く要塞内に入る。
「くそ! なんなのだ、あの砦は!? どうやってこんな短時間で……!」
シュタイアが怒鳴りながら城壁を上がってくる。怒りつつも焦燥感が隠せず顔に滲んでいた。そこへ魔術師隊を指揮していたヘレニックが歩いていく。
「シュタイア団長! 何故あんなものが出来ている!? 何故、建設を阻止出来なかった!?」
ヘレニックがそう怒鳴ると、シュタイアは苦虫を嚙み潰したような顔で唸る。
「貴公も見ていたでしょう、ヘレニック団長!? つい先ほど二人組が現れ、砦建設を宣言した! そして、気が付けばあの有様です! 誰があの建設を止められると言うのですか!?」
シュタイアがそう怒鳴り返すとヘレニックも流石に何も言えず押し黙った。
そこへ、ダメ押しのように砦からあの子供の声が聞こえた。
「試し射ちするよー! あ、イェリネッタの人達も気を付けてー! 良いかな? よし、いきまーす!」
その声に何事かと皆が振り向く。またもいつの間に出来上がったのか。砦の上には大型の兵器のようなものが二つも設置されていた。
「……おいおい、あれは何だ? 嫌な予感がするぞ……」
俺はそう呟き、腰を落として姿勢を低くする。もしあれが投石器のようなものなのであれば、城壁の上とて安全ではない。
そう思って身構えていたのだが、現実はもっと残酷だった。空気を震わせて腹に響く轟音が鳴ったと思った瞬間、地震のような揺れが城壁を揺らした。あの大型のなにかが効果を発揮したに違いない。だが、何が起きたのかは分からない。
「……なんだ? 不発か?」
そう呟いた瞬間、城壁の下から悲鳴のような声が響き渡った。
「や、槍が城壁を貫通! 人には当たっていませんが、櫓の柱部分が破断! 倒壊するかもしれません!」
「なんだと!?」
要塞内からの報告に場は騒然となる。これから長期間の籠城戦となると思った矢先にこれだ。まさか、砦に籠ったままでこちらを攻撃できるというのか。
「くそ、どうなっている!?」
混乱するヘレニックの叫び声が虚しく響く中、丘の上に出来た砦からは再度空気を震わせる轟音が鳴り響いたのだった。
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