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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】突然の訪問者

【イェリネッタ兵】


 丘の上に変な二人組が現れた。その報告を受けて、見張りを担当していた第二騎士団は大慌てで城壁を登った。


「まさか、ウルフスブルク山脈を抜けてきたのか?」


 召集場所を聞いて、真っ先にその言葉が口から出た。周りの奴らも同じことを思っていたのか、真剣な顔で頷く。


「うちの騎士団が帰ってきたわけじゃないんだろう?」


「ワイバーンは見当たらないらしいが、その二人はどうやって山を抜けてきたんだ?」


「凄腕の冒険者か? しかし、それにしても二人ってのは……」


 仲間たちが口々にそんなことを言いながら城壁を登り、状況の確認に向かう。現場に辿り着くと、既に騎士団の大半が揃っていた。城壁の上部は広く設計されており、兵士が三列に並んで弓を構えることが出来る幅になっている。そこが埋まるほど多くの兵士が状況確認のために殺到していた。


「おいおい、隊列はどうした。持ち場も何も考えずに集まっていたら兵長にぶっ飛ばされるぞ」


 思わず呆れてしまったが、結局自分もその集団の一人となる。前の兵士の頭と頭の間から外の景色を見ようと背伸びをした。


 確かに、丘の上に二人の人影があった。大柄な男と子供の姿だ。鎧こそ着ているが、どう見ても冒険者には見えない。かといって騎士団の斥候というわけでもないだろう。あんな子供がウルフスブルク山脈を通過することなど出来ない筈だ。


 だが、そうなるとあいつらは何者なのか。まるでゴーストでも見てしまったかのような気分になる。誰もが同じような不安を感じていたのか、大勢集まっているというのにしわぶき一つ聞こえない。


 そこへ、金属を打ち合わせるような音を立てて走ってくる足音が聞こえてきた。


「貴様ら、何をぼんやり突っ立っている!? 怪しい輩が現れたというのに……!」


 兜を脇に抱えたまま必死の形相で走ってくる第二騎士団の騎士団長、シュタイアが怒鳴る。腹に響くようなその怒声に皆の背筋が伸びた気がした。シュタイアは豊かに蓄えた髭を揺らしながら兜を被り、前列の兵士を掻き分けて城壁の縁に立った。


 そして、丘の上に立つ二人の人影を見て目を瞬かせる。だが、流石は騎士団長というべきか。すぐに冷静さを取り戻し、丘の二人に向かって口を開いた。


「……貴殿らに問う! ここはイェリネッタ王国最西端の重要拠点である! 何用で立ち寄ったのか、お聞かせ願いたい!」


 よく通る声で問いただす。丘の上の二人はそれを聞いて顔を上げた。そして、子供の方が口を開く。


「えー、僕はスクーデリア王国のヴァン・ネイ・フェルティオ男爵です! 今日はちょっと砦を造りに……あ、名乗らない方が良かった? これ、後で恨まれる流れ?」


 まさかの貴族の当主だったらしい。その男爵を名乗る子供は、名乗った後に隣に立つ男を見上げて不安そうな顔をした。それに男が首を軽く左右に振って否定する。


「いえ、どうせすぐにヴァン様の名はイェリネッタに知れ渡りましょう。遅かれ早かれ、という違いですな」


 男がそう言って笑うと、ヴァンと名乗った子供は肩を落として溜め息を吐いた。


「仕方が無い……開き直ろう」


 ヴァンは溜め息混じりにそれだけ言って、再度顔を上げる。敵国の巨大な要塞や大勢の騎士団を目の前にして、まったく臆した様子もない。なんなんだ、あの子供は。


 正体を知ってなお、不安は増した気がした。


 ヴァンはこちらの心情など気にした素振りも無く、口を開いた。


「えー、挨拶をやり直します! 僕はヴァン・ネイ・フェルティオ! スクーデリア王国の男爵です! 今日は、丘の上に砦を造りに参りました! 造ったら帰ります! すぐに帰ります! 何か質問がありましたら、後日スクーデリア王国のセアト村を訪ねてください! それでは、建築を始めます!」


 ヴァンがそう言った途端、地面に広がる振動が地鳴りとともに発生する。ざわざわと兵士たちが混乱する中、重量のある岩を地面に落とすような音を立てて、巨大な壁が地面から突き立った。地鳴りが激しくなり、何が起きたか理解も出来ない間に丘の上には岩の壁が幾つも現れる。


「……っ! 土の魔術だ! 弓矢隊! 弧を描くように上空から矢を降らせろ!」


 状況に気が付いたシュタイアがすぐさま指示を出し、弓矢隊はそれに即座に反応した。だが、誰の目から見ても普通の弓矢など効果はないだろうことは理解出来た。


 なにせ、丘の上はそれなりに距離が離れている上、すでに巨大な土の壁が見上げるような高さで聳え立っているのだ。明らかに城壁の高さを超えてしまっている。


 予想通り、上空に向けて飛ばした弓矢は壁を越えることが出来ず、弾かれて地面に落下していた。


「くっ! 入念に準備してきたな……! ならば黒色玉だ、黒色玉を用意しろ! あれだけ大きな壁を作ったからには、こちらの動きなぞ見えていない! すぐに破壊に行くぞ!」


 シュタイアは怒鳴りながら指示を飛ばし、城壁を駆け下りていく。


「おお、団長が焦ってるぞ」


「そりゃそうだろ。よりによって自分が周囲警戒の任についている時に砦なんて建設されてるんだぞ。お相手さんが長期間守れるような砦が完成してしまったら、下手したら首が飛ぶぜ?」


「馬鹿言ってる場合か。あの距離で砦なんか建てられたら俺たちだって危ないんだ。それこそ夜中に魔術が雨霰のように飛んでくるぞ」


 気が抜けるような会話を聞きながら、俺は城壁の上から様子を確認する。焦るのは分かるが、土の魔術ならせいぜい五分か十分もすれば崩れていくだろう。その間に壁を作っていたとしても、すぐに崩せるような簡単なものだ。


 ならば、土の魔術が効果を失った時に素早く火の魔術か何かを放った方が良い気がするが。


 そんなことを思いながら、城門から馬に乗って駆けていく騎兵達の姿を城壁の上から眺める。





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デコードしてくださった方、ありがとうございます(=´∀`)人(´∀`=)

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