戦争準備
さっそく、ディーに頼んで各騎士団を調査する。そして、それとなく陛下やパナメラにも拠点を襲撃されたことを報告しておく。もちろん、二人は怒り心頭の様子だった。だが、今から戦争を行うというのに仲間割れも出来ないし、疑惑だけで貴族の私兵ともいえる騎士団を一つずつチェックしていくわけにもいかない。
たとえ陛下であろうとも、士気に影響を与えないように各騎士団のトップである貴族たちに注意を促すようにすることで精いっぱいだ。だが、陛下が不機嫌そうに「昨夜、ヴァン男爵の拠点が襲われるという事態が起きた」と告げるだけで、大いに抑止となるだろう。
行軍の間に再び襲ってくるようなことは起こりえないはずだ。
そんなこんなで更に二日間。僕は山道の舗装工事に従事した。
「ヴァン様! 山が低くなりましたよ!」
カムシンの言葉に首肯を返す。空を削り取るように高い山々が並んでいたのが、今ではすっかり大空を一望できるほどになっている。それに、山道の奥は陽が差し込んで明るくなり、道も広くなった。もうすぐ目的地に到着するのだろう。
そして、予想通り黒幕と思わしき貴族も全く動きを見せなくなり、平和に行軍が出来るようになった。良かった良かったと安心していると、周囲の偵察に出ていた冒険者たちが戻ってきた。
「……ヴァン様、すみません。危ない思いをさせてしまって」
と、帰って早々に、オルトが謝罪する。拠点が襲われたと知ってから、オルト達がやたらと僕のことを気にしていた。まぁ、そもそも騎士団とオルト達が揉めてしまったのにも理由がある。そんなに気にしなくて良いと伝えたのだが、それでも申し訳ないと謝罪されている状況だ。
「いやいや、本当に大丈夫だから。気にし過ぎだよ。それより、この魔獣がいっぱいいる山の中を冒険者の皆が警戒してくれるおかげで順調に進めたんだから、すごく助かっているくらいだよ」
そう答えると、オルトは深く頭を下げた。
「そう言ってもらえると助かります。それで、ようやく目的地が見えたと連絡が……」
「え!? 本当!? それを早く教えてよー!」
オルトの報告に思わず大声を出す。早く目的地まで道を作って、さっさとセアト村に帰りたい。その思いが伝わったのか、オルトは苦笑しながら大きく頷いた。
「はい。この調子なら半日もしない内に到着するでしょう」
「うわぁ、嬉しいな。すぐに到着できるよう頑張ろう! セアト村に帰ったらバーベキュー大会をしようかな」
「良いですね。楽しみです」
そんなやり取りをして笑い合う。とはいえ、オルト達は帰り道も警戒と護衛役を頼まれているはずだ。僕が帰ったタイミングでのバーベキュー大会には参加できないだろう。可哀想だから、オルト達が帰った時も思い切り豪華なバーベキュー大会を開いてあげよう。
そんなことを思いながら作業すること約三時間。ついに、その時はやってきた。
山が左右に分かれたかのように視界が広がり、かわりに小高い丘に向かう山道が続いている。
「あの丘の向こうはもうイェリネッタ王国です。すぐ目の前に要塞があったので、下手に丘を越えようとしたら危険です」
「え? そうなの? 陛下はどうするつもりだったんだろう?」
そう尋ねると、馬車の後ろの方から騎士達が歩いてくるのが見えた。そして、王家の紋章が刻印された豪華な馬車の姿もある。
馬車がこちらに来る前に、皆がその場で地面に片膝を突いて頭を下げる。
「良い。面を上げよ」
そう言って、陛下が馬車から降りてきた。とはいえ、中々皆も顔を上げられないでいるが。
「この場に拠点を作る予定である。要塞の城壁よりは低いが、それなりに高い場所から弓矢を射ることが出来、丘を越えて戻れば負傷者の治療もやりやすい。ただ、丘を下った後川を渡り、要塞を攻略しなくてはならんのでな。相当な時間を取られてしまうのは間違いない」
陛下は丘を指差しながらそんな説明をする。それに頷き、陛下と同じ方向を振り返った。
「なるほど。相手からすれば攻城兵器を使いにくくしてくれる丘が、こちらからすれば簡易的な壁代わりに使える、ということですね。しかし、距離にもよるとは思いますが、城壁よりも丘の方が低いなら弧を描くように弓矢を使われては危険なような……」
「もちろん、丸太によって矢を防ぐための壁は作る予定だ。まぁ、もしヴァン男爵が手を貸してくれたなら、予定していたものより遥かに強靭な拠点にできたのだろうが……戦争には参加させないという男爵との取り決めを忘れたわけではないぞ」
質問すると、陛下はそう答えてニヤリと笑った。含みのあるその笑みに、僕は乾いた笑い声をあげる。
「……あはは。まぁ、戦争前の準備まではお手伝いさせていただきます。簡単ではありますが、丘の上に砦を作りますよ」
そう答えると、陛下は満足そうに頷いた。
「流石はヴァン男爵だ。相手が望むものを言われずとも用意してみせるとは」
「……お褒めいただき、光栄の極みでございます」
「わっはっは! また随分と子供らしからぬ言葉を使いおって!」
上機嫌な陛下は僕のチクリにも満たぬ嫌味を物ともせず呵々大笑したのだった。
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デコードしてくださった方、ありがとうございます(=´∀`)人(´∀`=)




