不審者?
五日目。進めど進めど山と崖と川しか見えなかったウルフスブルグ山脈の行軍に変化が訪れた。
明らかに空の面積が増えたのだ。つまり、背の高い山々が減ってきて、空が広く見えるようになってきたということである。
ウルフスブルグ山脈は中心に行けば行くほど山が高い。そして、山の高さや過酷な環境に合わせて強大な魔獣が生息すると言われている。その広大な山岳地帯を真っすぐに通過するのは不可能とされるが、端の方をこっそり抜けるのは意外と何とかなるのだ。
と、そんな事情もあり、山が低くなってきたと実感できたらウルフスブルク山脈を抜けるのはすぐ、という判断が出来る。
「頑張ったら明日にでも目的地に着くかな?」
夜、出来たばかりの拠点の中でそう呟くと、カムシンが深く頷いた。
「はい。明日、明後日にも到着するんじゃないでしょうか。これも全てヴァン様のお陰ですね」
「あはは。頑張ったからね。まぁ、自分のお尻の痛みが限界に来たから道造りを始めただけなんだけど」
苦笑しつつそんな会話をしていると、隣に作った女子用の部屋からティルが顔を出した。
「あ、ヴァン様。まだ起きてるんですか? お疲れなんですから、早く寝ないと」
僕が作った寝間着姿で現れたティル。丈の長いワンピースタイプの寝間着だが、サラサラの着心地を実現するために物凄く苦労した逸品である。我ながら良く出来ている。
そして、更に後ろから同じ寝間着を来たアルテも顔を出した。可愛らしい。
「そうだね。二人もそろそろ寝ないとダメだよ? あ、寝具で必要なものがあったら言ってね」
そう告げると、アルテが目を細める。
「はい。ありがとうございます」
「大丈夫ですよ! ベッドもあるし、快適過ぎるくらいです!」
ティルも笑顔でそんなことを言ってくれた。とはいえ、ベッドは即席な分、寝心地は良くない。布団や枕は魔獣の皮を加工している為なかなか良い感じだが、全体的にみると微妙なところだろう。
「二人ともごめんね。セアト村に戻ったらちゃんとしたベッドがあるから、もう少しの辛抱だよ」
そう言って安心させようとしたのだが、二人は顔を見合わせて苦笑した。
「十分立派なベッドです」
「むしろ、セアト村にあるベッドが良過ぎるんですから。多分、陛下も拠点で驚かれてますよ」
「え? そう?」
二人の反応に思わず首を傾げる。素材に拘れず、簡易的に作ったから安物のソファーベッドのような寝心地なのだが、意外にも問題はないと言われてしまった。
最近、衣食住を整えようと躍起になっていたが、気付かない内にかなりの水準に達していたのだろうか。
「そういえば最初は藁のベッドだったなぁ。懐かしい」
思い出して呟くと、カムシンが頷く。
「そうですね。最初はあまりにもボロボロな村に驚きました。でも、ヴァン様があっという間に凄い村に……多分、もう王都よりも良い場所になってますね」
何故かドヤ顔のカムシンがそんなことを言う。
「ははは。不敬罪で処罰されるよ、カムシン」
別の拠点ではあるが近くに陛下や他の貴族がいるというのに、まさかの王都を下に見るような発言。度胸があるなと感心してしまった。しかし、すぐに顔色を青くしていたので度胸があるわけでは無いようだ。
そんなたわいのないやりとりをして、僕達はそれぞれの寝室で就寝する。
今日も土木建築業務を頑張った。ヴァン君、偉い。そんなことを思いながら目を閉じた。
ふと、何かが僕の体を揺すっていることに気が付き、目を開く。
「ん……何?」
生返事をしながら、顔を横に向ける。
目の前には、真剣な顔でこちらを見るカムシンの姿があった。驚いた僕は上半身を跳ねさせるように起こしながら、素早くカムシンから離れるように態勢を変える。
「え!? カムシン、そっち……? いや、それならそれで応援はするけれど、僕はあまりそっちに興味は無くてさ……」
「ヴァン様、様子がおかしいです」
「え? いや、どちらかというとカムシンの方が唐突というかなんというか……」
混乱する頭でカムシンと微妙に嚙み合わない会話をする。それに、カムシンは表情を変えずに静かにするようにとジェスチャーを送ってきた。
素直に黙る。
ここまできて、ようやく寝起きの頭が働きだした。確かに、外で何か物音がしているし、その割に人の声が聞こえてこない。まるで、泥棒が家屋への侵入を試みているかのようではないか。
「……え? 泥棒? こんな無数の騎士団の行軍の中で?」
小さくそう呟くと、カムシンは腰に差したヴァン君印の刀を手にして、拠点の出入り口の方へと向き直った。
「……まだ、拠点の外のようです。そのままお待ち下さい」
カムシンが小さくそう呟いて奥に行く姿を見て、慌てて服を着替える。着心地の良い寝間着から、軽いウッドブロック製の鎧に着替え、更にオリハルコンの双剣を手に持った。現在の僕の最強装備である。もう少し体格が良くなって筋肉が付いたらミスリルの鎧を着られるだろうが、現在はウッドブロックか魔獣の鱗の鎧が精々である。
装備を整えると何となく心にゆとりが生まれた気がした。
「……それにしても、騎士団が列を作って行軍をしている中で、どうして泥棒なんか……」
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