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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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なんで整備しないのさ

 山に入って早々に文句がいっぱいあった。


 まず、デコボコの山道である。獣道に毛が生えたような山道を進み、更には崖のすぐ脇などを歩く場所もあった。道自体も狭く、馬車の幅ギリギリの部分ばかりである。


 これまでも魔獣の多い山道ということから、騎士団が移動するようなことは少なかったため仕方ないといえば仕方ない。


 無言でお尻の痛さを我慢していたのだが、一、二時間して、ふと重大なことに気が付く。


「……これ、帰り道もこんな思いをしないといけないってこと?」


 一言呟くと、一緒に馬車に乗っていたティルとカムシン、アルテが曖昧な顔で苦笑する。


「街道の有難さを痛感しますね……」


「デコボコな道のせいで行軍が遅くなるのが困りますね」


「お尻が痛いです……」


 三人の意見を聞き、僕は深く頷く。


「よし。街道を作ろう。最低限、馬車2台が横並びで通る大きさにするよ」


「え? 今からですか?」


 僕が宣言すると、ティルが目をぱちぱちと瞬かせた。カムシンは不安そうに眉根を寄せる。


「だ、大丈夫ですか? わざわざ早馬で陛下がヴァン様に来てほしい、と……」


「ただでさえ二日、三日はかかりそうですよね」


 カムシンの言葉にアルテも同意を示した。


 だが、僕のお尻は限界である。


「大丈夫! 今より遅くなることはないように急いで作るから!」


 そう言って僕は立ち上がり、馬車から顔を出した。


「ちょっと止まってー!」


「は、はい!」


「全体、止まれー!」


 指示を出すと、素早く騎士団の歩みが止まる。戸惑いも感じられるが、すぐに指令の通りに動くあたり、とても良い騎士団になってきていると思う。元が村人や狩人だった者が大半だとは思えない動きだ。


 感慨深く頷いたりしていると、一つ前の馬車にいたディーがすぐにこちらに向かってきた。


「何事ですか、ヴァン様」


 周囲を警戒しつつ、ディーが何故行軍を止めたか確認をする。それに頷きつつ、馬車から降りた。


「あまりにも道が悪いから、これから山道を舗装して綺麗な道を作ろうと思って」


「え? 今からですか?」


 驚いた顔をするディー。ティル達も心配そうに馬車から顔を出している。


「大丈夫! 遅くならないように大急ぎで作るから! 悪いけど、手分けして山道の左右に生えた木々を切り倒してくれる?」


「むむむ! 何が何だか分かりませんが、承知しました! すぐに任務を遂行しましょうぞ!」


「ありがとう。それじゃ、最前列の人たちのいる場所から先の木々を切り倒しておいてね。木を切る人以外は周囲の警戒をお願い」


「分かりました! 早速行って参ります!」


 そう言って走り去るディーの後ろ姿を見送ってから、カムシンを見る。


「カムシンは僕と一緒に行こうか。ティルとアルテは馬車で待っていてね。アルテは申し訳ないけど、困った時は人形を使ってもらうかも」


「はい!」


「お任せください」


 二人も素直に指示を受け入れてくれた。アルテも自らの魔術に自信を持ってきたようで、しっかりと僕の目を見返して頷く。


 そんな面々に思わず微笑みながら、僕は最前列へと向かう。


「ヴァン様、何をするんです?」


「何かあったんですか?」


 たまにそんな声を掛けられて、「道を作るんだよー」と軽い返答をしながら通り過ぎる。皆キョトンとしているが、最前列に辿り着くと、もう木の切り出しを行う姿が見られた。どうやら、騎士団の中から元木こりや石切などをやっていた男たちを選抜したようだ。屈強な男たちが木を切り倒して道の脇に並べている。


「どうですか、ヴァン様! こんな感じで良いですかな!?」


 と、いつの間に準備をしたのか、上半身裸になったディーが大剣を持って大きな木を切り倒してこちらを見た。木を切る為のものではないのだが、ヴァン君印の大剣ならば楽々伐採が可能であろう。


 とはいえ、騎士団の全員の装備が木を切るのに向いているかというとそうではない。それを確認して、すぐさま材料を集める。


「やり方に問題はないけど、それ用の準備をしようか。皆、ちょっと盾を貸してー」


「は、はい!」


 お願いすると、近くにいた騎士達がバタバタと足元に盾を置いていく。武器や鎧は殆どヴァン君特製だが、盾は一部の騎士だけ特製で、残りは既製品をベルランゴ商会より買い求めている。なにしろいきなり騎士団の人数が増えてきているのだ。全ての装備を揃えることまでは出来ていない。


「かなり高級品だけど、後でもっと良い盾に作り直せば良いよね」


 そんな言い訳をしつつ、どんどん盾を斧に変えていく。研ぎ澄まされた切れ味と上部に重心を置いた独特のバランス。動かない木を切るためのものだから、単純に力を篭めて振りやすい刃物が求められる。後は木を切り倒すための幅、頑丈さ、そしてヴァン君が満足するような装飾過多のデザイン。


「少しやり過ぎたかな」


 そう言いつつ、斧を二十本準備する。カムシンは素直に拍手してくれていたが、ディーは眉間に皺をよせていた。


「……むむ。今回も素晴らしい意匠。しかし、少々禍々しい気がしますな」


「ちょっと怖いです……」


 二人からは微妙な感想をいただいた。確かに、何となく思い浮かばなくてミノタウロスの斧とか名付けられそうなゴツイ斧を作ってしまったが、そんなに怖がらなくても良いだろうに。


「おお、見た目より軽いですな」


「え? そう?」


 斧を手にしたディーは笑いながら斧を片手で振り、すぐに木を切り倒しに向かった。何となく、皆がディーの動向を窺い、動きを止める。


「ぬんっ!」


 風切り音を響かせて、ディーが木を切った。切ったというか、斬った。まさに斬撃ともいうべき鋭い一撃だ。斧はまるで空を切るかのように木の胴をすり抜ける。


 一瞬の間を空けて木が滑るようにしてズレていき、やがて倒れた。断面は遠目から見ても綺麗に一直線だった。


「良い切れ味ですな! ただ、やはり大剣の方が扱いやすい!」


「いやいや、ディーの場合は人間相手ならもう丸太でも良いんじゃないかな。武器の良し悪しは関係ない気がしてきたよ」


 そう告げるが、ディーは斧を肩に載せたまま呵々大笑しており、聞こえていない。


 とはいえ、斧の切れ味は中々良かったらしく、他の騎士達も二、三回振ったら木を切断することが出来た。


 瞬く間に木を切り倒していく騎士団員達を労いつつ、僕はさっそく道を作ることにしたのだった。






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