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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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作ってみよう

 魔術が意外と使える。


 そう思ったら最後、やってみたいことはいくらでも思いつく。


 装飾がいっぱいの派手な剣とかも面白そうだし、出来たら銃も作りたい。武器は浪漫である。


「……ヴァン様、魔力は尽きないのですか?」


 そう言われて、僕はハッとした。自分の手の中には人形に持たせるようなサイズの剣や槍、銃っぽい物まで出来上がっていた。


「すっごい細かいです……っ!」


「これ、高く売れますよ!」


 目を輝かせて僕の手の中にあるオモチャを見る二人。木が材料なのに、色はともかく見た目だけなら本物そっくりだ。質感はやはりプラスチックに近いが、まさか木とは思わないだろう。


「魔力か……普通はどうなんだろうね?」


 そう言いつつ、試しに一メートルほどの長さの刀を作ってみる。


 金属ではないが、刃はどこまでも鋭く、反りは少なめだが、日本刀らしい形に……。


「うわぁ……!」


 刀が出来上がる頃には、カムシンが少年のような顔でそれを見ていた。いや、少年だけども。


「あげる」


 そう言って渡すと、カムシンが死ぬほど喜んだ。家宝にします、なんて言いながら刀を両手に持ってニヤニヤしている。


 それを見て、ティルが期待のこもった目でこちらを見てきた。


 しばらく見つめ合っていたが、やがて僕は根負けする。ウッドブロック一つを手に取り、イメージを固めながら魔力を注ぎ込んでいく。


「……はい、あげる」


 出来立てを手渡すと、ティルは嬉しそうな悲しそうな、何とも複雑な顔をした。


「あ、ありがとう、ございます」


「え? 斧嫌い? すごく強そうに作ったのに……刺せば槍、反対側ならハンマーにもなる最強の武器の一つなのに……」


 涙を浮かべて見返すと、哀れなほど狼狽したティルの姿があった。


「あ、い、いえいえいえ! じ、実は斧が好きなんです! あ、あまりに素晴らしい斧なので、思わず見惚れてしまって……!」


 そう言って、ティルがあまりに嬉しそうに斧に頬ずりしているので、僕は笑顔で頷く。


「そうか。気に入ってくれて嬉しいよ」


「は、はい!」


 健気なティルである。可哀想なので、後で可愛い装飾品でも作ってやろう。木材だけど。


 そんなこんなで遊びつつ村に戻ったら、村は正面から順にかなり大きな塀が出来つつあった。門はそのままだが、左右に伸びる塀は高さ四メートルはあるだろう。


「すごいなぁ。半日くらいで形になってきてる」


 馬車から降りてそう呟くと、オルトが腕を組んで唖然とする。


「ヴァン様もあれだが、あの執事も大概おかしいです。あれだけの魔術を連続で発動出来るなんて、かなりの腕ですよ」


 言外に非常識扱いされた気がするが、魔術的才能無し扱いされた僕がエスパーダと同等に見られるのは嬉しい。


「エスパーダは有能な執事だからね。陰で侯爵家を支えてきた凄い人だよ」


 胸を張ってそう言うと、プルリエルが真剣な顔でこちらを見た。


「それも変な気がします。あれだけの魔術師なら、軍に引っ張られるのが普通です。冒険者ならトップランクになるでしょうし……」


「まぁ、そんなことはどうでも良いよ。エスパーダが隠居生活を送ると言ってまで僕のところに来てくれたのが嬉しい。だから、僕は過去よりも未来を大事にしたいんだ。エスパーダが楽しい老後を過ごしてくれたなら嬉しいよ」


 と、偉そうなことを言って詮索を止めてみる。すると、背後から声が聞こえた。


「私にとっての喜びはヴァン様のご成長を実感することでしょうな」


 振り向くと、そこには微笑を浮かべたエスパーダの姿があった。手には何やら勉強道具らしき一式が持たれている。


「え、今日? ちょ、ちょっと待ってよ。先に村の防衛力を強化する方が先決な気がするなー。あ、あの門を強化しないとせっかくの塀が……」


「もし今日にでも襲撃がありましたら、あの門は私が埋めて防壁を作りましょう。さ、何を言っても逃しませんぞ。こちらへ」


 がっしりと手を取られ、エスパーダに連行される。この問答無用さがディーとの違いだろう。僕は肩を落として項垂れたのだった。


 ちなみに、僕が勉強している間、外ではオルト達冒険者がティルとカムシンの武器に気付いて盛り上がっていた。なんだ、この温度差は。






 夕食後、勉強を二時間して解放された。幸運である。通常なら半日やるが、時間が無いからだろう。日も落ちて暗くなったし、オイルランプを灯すと貴重な燃料が無くなるということも考慮したのかもしれない。


「ふふふん。ふふふん。ふふふふーん」


 鼻歌交じりに、僕はティルとカムシンを引き連れて村の中を歩いていく。


 ほぼ全ての村人が寝入っているらしく、静かだ。


「おや、坊ちゃん。どちらへ?」


 冒険者の一人が夜番をしていたらしく、声を掛けてくる。


「こんばんは。ちょっと防壁と扉の強化に」


「え!? 今からですかい? そりゃあ危ない。あっしが付いていきますぜ」


 と、男が言った。この小太りの男は体型に似合わず、斥候や罠解除担当のクサラだ。お調子者で肉が大好きなクサラだが、意外にも気がきく。


「松明足りますかい? 扉の強化なんてのは簡単じゃないと思いますがねぇ」


 屈託無く笑いながらそう忠告するクサラに、嫌味な部分などは一切ない。


「僕、生産系魔術師だからね」


 そう告げると、クサラは目を瞬かせる。


「……良いんですかい? それ、内緒のやつでしょうに」


「皆知ってるから内緒も何もないよ。それに、木のブロックとティル達の武器も見たでしょ?」


 笑いながら答えると、クサラも吹き出す。


「ああ、それですかい。いや、お二人に愛されてますねぇ。試し斬りしたらって言っても、二人とも汚したくない壊したくないって言うんでさぁ。簡単に壊れそうには見えませんがね」


 軽快に笑うクサラに、ティルとカムシンが武器を手にして視線を逸らした。僕はそれを見て眉根を寄せる。


「武器だから試し斬りくらいしとかないと。実際に使う時に使えなかったら最悪じゃないか」


 そう言うと、二人はこの世の終わりのような顔で自らの武器を見た。


「で、でも……」


「しかし……」


 躊躇う二人に、クサラは笑いながら革の盾を出した。


「これなら大丈夫ですぜ。オークナイトの肩と背中の皮ですからね。頑丈で柔軟性もある優れもんなんすわ」


 自慢げに取り出した青い革の盾を見て、カムシンは渋々刀を構える。


「え、えいっ!」


 と、気合いを入れて軽く刀を振った。刀が傷つかないように細心の注意を払った、腰の引けた打ち下ろしだ。


 それを見て苦笑していたクサラだが、刀は吸い込まれるように革の盾に触れ、通り過ぎた。


「ん?」


 クサラが首を傾げる中、三分の一ほど切り取られた革の盾の一部が地面に転がる。


「ん?」


 僕が首を傾げると、目を皿のように丸くしたカムシンが刀を持ち上げた。


「え?」


 ティルが疑問符をあげ、自分の持つ斧に視線を落とす。


「お、オークナイトの革の盾がぁあああっ!? 買ったばかりなのにぃいいい!?」


 夜の村の空に、クサラの絶叫が響き渡る。


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