【別視点】セアト村の冒険者
【ベンチュリー】
冒険者達が時折魔獣を発見したと報告に来る。殆どは発見と同時に討伐の報告も入るため、行軍に支障は無い。
冒険者を雇うという陛下の案は名案だったというべきだろう。
しかし、それにしても、冒険者とはこれほど有能であっただろうか。
一般的に、戦闘に関しては騎士の方が優れているとされる。何故ならば、騎士は厳しい騎士選抜試験を突破し、常に戦闘訓練を繰り返しているからだ。元々の素養も高く、個人戦だけではなく集団戦においても過酷な訓練を強いられる。少人数、中人数、大人数訓練があり、想定は他国の軍から大型魔獣と多種多様である。対して冒険者は何かの捜索や探索、採取、調査などの依頼が多く、人数も四、五人で行動することが大半だ。戦闘に関しては魔獣や盗賊団などを想定しているため、トラップや神経毒なども使い、出来るだけ安全な任務達成が求められる。
つまるところ、魔獣や盗賊の集団と戦うといっても真正面から戦うことは少ないため、戦闘能力という面では騎士に劣るということだ。中には大型の魔獣を少数で討伐する冒険者もいるようだが、極めて稀であろう。
それが常識だと思っていたのだが、セアト村で陛下が雇った冒険者達はそれを覆すような働きをしていた。
数百メートル先で大型の魔獣が発見されたとなったら誘導したり追い払ったりと手を尽くして進路を確保し、中型以下の魔獣が発見されたら報告と同時に討伐してしまう。
恐ろしいことに、中型といっても赤眼熊や鱗狼の群れなど、騎士団でも平地で二十人以上という条件が揃わなければ戦わないような強大な魔獣ばかりである。
もし、赤眼熊が自領で出没したなら、数体の群れがいる可能性を考慮して騎士団百から二百名で討伐を行うだろう。
だが、セアト村の冒険者達は五名から十名で分かれて行動し、それぞれが中型の魔獣を討伐している。
「……いったい、この村で何が……」
私は頭を捻りながら考えるが、答えは出ない。費用面の問題もあるが、全員がドワーフの武具を持ったとしたら、戦力は大幅に高まるだろう。
しかし、実質的にそれだけの金が用意出来るかという問題もあるし、ドワーフが満足する純度の鉄鉱石を準備できるかも怪しい。
炉を見る限り建造されたばかりの新しいものだったため、長い年月をかけて作らせたわけでもない。
そこまで考えて、不意にヴァン男爵の魔術を思い出した。あの異常な魔術ならば、ドワーフの武具にも匹敵する武具が作れるのかもしれない。
「……上手く、あの小僧を取り込めば、我が騎士団の戦力増強も容易かもしれんな」
口の中で、小さくそう呟いた。
【ジャルパ】
まったく、ふざけた話だ。何故、よりにもよってヴァンにあのような魔術の才能が現れてしまったのか。
そのせいで私は、多くの貴族から才能ある息子を手放した無能と思われたことだろう。だが、事実はそうではない。
むしろ、有用な魔術の才が無いと判断された息子を、辺境とはいえ領主に据えたのだ。これは普通ならば過分な配置と言える。外部から見れば、結果どうなろうが批判するようなことにはならない。
しかし、今回の事態は少し違っている。
何もない寒村の領主となった筈の子供が、竜討伐を成したのだ。部下は護衛に付きたいと進言してきた騎士三名と老齢の魔術師一人のみ。あとは戦力にもならない奴隷の子とメイドだ。百人程度の村人などものの数にも入らない。
そのような状況で、どうやって大型の竜を討伐したというのか。
そう思ったからこそ、当初は嘘の情報であると判断した。フェルディナット伯爵が傀儡にしようと手を貸した可能性もあるにはあったが、あまりにもリターンが少な過ぎる。
だが、その判断は間違っていた。まさか、ヴァンの魔術があんなものだとは知らなかった私は、セアト村への調査を後回しにしたのだ。
結果として、気がつかぬ内にヴァンは手柄を認められて独立した領主となり、我が領地が一部失われてしまった。口惜しいのはその後、さらにダンジョンまで発見されたことだ。セアト村一つならば大した損失ではなかったが、ダンジョンが発見されたとなると話が別だ。その利用価値、経済的利点はとてつもない。
まさか、あのような子供がわざと報告を遅らせて手柄を取られないように工作したなどということはないだろうし、ダンジョンに関しても同様である。幸運にも緑森竜を討伐した後、防壁や建物の修復に追われている内に偶々パナメラ子爵がセアト村を訪れたのだろう。結果、私の耳に入る前に陛下が竜討伐の報告を受けることとなったに違いない。
ヴァンの能力が領地の防衛に向いていたこと。領主に協力的な村だったこと。防衛が可能な状況での陸上大型竜が現れたこと。そして、絶好のタイミングでパナメラ子爵がセアト村に現れたこと。
これらが奇跡的に合わさり、ヴァンは一気に爵位を得て独立という流れが出来上がったのだ。
フェルティオ侯爵家にとって、これほど不運なことは無いだろう。さらに、何よりも陛下がヴァンの力を知ってしまったことが問題だ。陛下は結果を重要視する。これまでの功績も考慮に入れているだろうが、有用であると判断する人材が頭角を現した時、すぐに重用してより広い範囲で能力を活かせるように手助けをするのである。
陛下がヴァンに注目した途端、アプカルルやダンジョンの発見。更にはドワーフの鍛冶師まで手に入れてしまった。これでは、さらにヴァンの立場や地位は向上してしまう。
「……どうにかして、これ以上ヴァンに手柄を立てさせないようにせねばならん」
地理的にも、褒賞として削り取られる領地はフェルディナット伯爵領と我がフェルティオ侯爵領しかないのだ。どうにかしてヴァンの行動を制限し、更には何かしらの失敗を陛下に見せねばならない。
「……今回の行軍はヴァンのコンテナとかいう拠点が肝となる。それに欠陥でもあれば……」
行軍の馬車の中、私は戦争後の侯爵家の地位を守るべく策を練るのだった。
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