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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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出陣

 出陣式の前に、アルテとフェルディナットが少しぎこちなくだが視線を交わし、笑い合った。


 二人はバーベキューの後も、まるで失われた親子の時間を取り戻すように会話をし、最後には多少笑い合うことも出来るようになっていた。


 簡易的に作った壇上には陛下やジャルパ、ベンチュリー、フェルディナットなどの上級貴族と、パナメラなどの一部指揮を任されている下級貴族。そして何故か僕も壇上にいる。


 陛下は集まった騎士団の面々を眺め、それぞれの騎士団の武勇を称えた。また、ジャルパ達上級貴族も同じように各騎士団の練度や面構えを褒める。ぶっちゃけると、兵士たち一人ひとりの気分を上げて自信を持たせ、やる気にさせようという式典である。


 前日には大宴会のようなノリで腹いっぱい食事をし、酒も口にしている。兵士たちのモチベーションは否が応でも高まるだろう。


 そんなことを思いながら陛下の背中を見ていると、式もそろそろ終わる頃かというタイミングで陛下が口を開いた。


「我が王国の精鋭達よ! 昨晩の晩餐を再び行いたかったら、イェリネッタを打ち砕き、生きて帰るのだ!」


 と、聞いたことも無い檄を飛ばす。しかし、それが一番兵士たちのテンションを上げたらしく、物凄い歓声が返ってきた。


 陛下がこちらを見てニヤリと笑う。


 これは、また魔獣を狩って食料を準備しておけということか。どちらにせよ一、二週間で相当な量が貯蔵されるのだ。問題ないと判断し、笑みを返しておく。


 陛下は意外そうに笑いながらも、軽く頷いて剣を抜いた。


「いざ、出陣!」


 その声に、兵士達は地鳴りのような雄々しい声を返す。そして、打ち合わせどおり、ベンチュリー伯爵家騎士団が先行して進軍を開始した。


 すると、壇上に冒険者達の一団が近づいてくる。オルトやプルリエル、クサラ達だ。


「じゃあ、行ってきますぜ」


「頼むよ、オルトさん」


 陛下からの依頼で山道の警戒と護衛を任されたオルト達は、余裕を感じさせるような自然体で笑っていた。


 もうセアト村に来て長いため、オルト達は僕の作った武器や鎧、盾などをきっちり揃えている。その上、ダンジョンやウルフスブルグ山脈といった強大な魔獣が多数棲まう場所で戦ってきたのだから、余裕もあるのだろう。


「まぁ、あっしが先頭で警戒しやすんでね。大船に乗った気でいてくだせぇ」


 クサラがそう言うと、オルト達が白い目を向けた。


「依頼報酬が高いからって、宿屋の店主が何言ってるんだ」


「元々太りやすかったのに、最近は更に丸くなってるわよ」


「いやいやいや、皆さん当たりがキツくねぇですかい? 今回の貴族様方の宿泊で借金を一気に減らしたんで、あっしに嫉妬してませんかね?」


 オルトやプルリエル達の野次に、クサラは丸い腹を揺らして笑う。調子に乗っているな、これは。


 クサラなら仕事はきちんとするだろうが、油断や慢心は危険である。


「クサラさん。命の危険がある現場に向かう時に将来の話をすると、ドラゴンに丸呑みにされてしまったりするんだって……気を付けてね?」


 ボソリとそう呟くと、皆の目がクサラに向いた。


「そういやぁ、この依頼を達成したら結婚するとか、生き残れたら店を開くんだ、なんてことを言った奴らは、よく依頼中に死んでるな……」


「本当ね……」


 オルトやプルリエルが神妙な顔で同意を示す。それにクサラは身震いして笑みを引き攣らせた。


「ま、まままま、まさかぁ……!? は、はっははっ! 冗談がキツいっすよ、坊ちゃん!」


 怯えるクサラを可哀想なモノを見る目で眺めていると、息を呑んで押し黙った。


 よし、これで緊張感を取り戻すだろう。僕は頷きながらオルト達を送り出した。


 ふと隣を見ると、壇上から下りて騎士団の下へ行こうとするフェルディナット伯爵に、アルテが声をかけているのが見えた。


「……あ、あの、お気を付けて……」


 父の身を心配する言葉に、フェルディナットは一瞬驚きながらも、すぐに優しい微笑を浮かべる。


「……行ってくるよ、アルテ」


 まだまだ自然とは言えないが、確かに二人は親子としてお互いを気遣っているように感じた。


 ホッとしながらその様子を眺めていると、パナメラが隣にきて口を開く。


「……また何かやったのか、少年。あの二人があんな会話をするなんて、以前を知っている者なら到底信じられない光景だ」


 パナメラにそう言われて、首を左右に振る。


「いいえ。アルテが、自分の力でフェルディナット伯爵の意識を変えたんだと思います。アルテは凄く頑張りましたよ。僕の力を借りずに伯爵領に戻り、イェリネッタ王国の軍を撃退したのですから」


 そう答えると、パナメラはフッと息を漏らすように笑った。


「成る程。変わったのはフェルディナット卿だけではない、ということか」


 呟き、僕の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。


「まったく……少年と一緒にいると本当に飽きないな」


 パナメラは上機嫌に笑って、そんなことを言ったのだった。





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