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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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戦祈儀

 翌日、戦いに赴く前に兵士の士気を上げるとのことで、陛下よりお言葉があった。


 勇敢なる王国の騎士達よ、みたいな感じで陛下が演説すると、特に末端の兵達がどんどんやる気になっていくのを見て、カリスマとはこういうことかと納得する。


 まぁ、領地に引き篭もりたい僕には響かなかったが。


「今日中に全ての準備が整う! 精鋭達よ! 今日は鋭気を養い、出立に備えよ! 明日はイェリネッタの横っ面をぶん殴ってやるぞ!」


 最後の最後に、陛下はわざと野蛮な言い方で激励し、歯を見せて獰猛な笑みを見せた。それには兵士たちも大声を出して応じる。戦で領土を広げてきただけに、兵士達の扱いも慣れたものだ。


「よし! じゃあ、ティル。お願いね」


「はい!」


 タイミングを見計らって合図をすると、ティルは大きな返事をして前に出る。ティルの背後には同じメイド服を着た少女達が並んでおり、二人一組でバラバラに動いていく。


 街道には事前に並べておいた点火台があり、次々に火が灯っていく。日が落ちかけた夕方の街道を赤い火が等間隔に照らし出し、何処か幻想的な風景を作り出した。


 何を行うか知っている陛下や貴族は無言で眺めているが、何も知らされていない兵士達は困惑顔である。


 スクーデリア王国では、戦いに出る前に豪勢な食事をする戦祈儀という名の慣習がある。だいぶやり方は違うが、出陣式の一環のようなものだろうか。


 とはいえ、戦いに出る直前に行うため、普段は砦や野営地で出来るような簡単な食事に酒が一人コップ一杯出る程度らしい。


 ならば、せっかくセアト村に来たのだから、思い出作りにヴァン君が協力してやろうじゃないか。そう思い、陛下に自ら戦祈儀の食事提供を進言した。


「……このような小さな領地で何万もの兵達の食事を満足に準備できるのか」


 ジャルパからそんなことを言われたが、僕は「任せてください」とだけ答える。


 なにせ、廃棄処分しなくてはならない程魔獣の肉が余っているのだ。干して長期保存するにも限度がある。今回は思い切って在庫一掃出来るチャンスともいえる。


 何十回とやってきたため、バーベキューの準備は滞りなく完成した。それを確認して、次はカムシンに指示を出す。


「お肉準備!」


「はい!」


 ティル同様、カムシンも良い返事をして前に出た。その後ろには魔獣の肉を山盛りにした台車を引っ張るセアト村騎士団の面々がいる。


 街道の両サイドを肉の載った台車が次々に駆けていく。その様子を、兵士達は目を丸くして眺めていた。


 全員が配置につくと、バーベキュー台に肉が次々と置かれていき、あたりに良い匂いが漂い始める。


 これには兵士達だけでなく、貴族の者ですら涎を我慢するのに苦労するだろう。なにせ、焼いているのは王都でも食べることのできない希少な大型魔獣の肉ばかりだ。


 さらに、味付けには高価な塩胡椒、ヴァン君特製の焼肉のタレまである。ご飯ではなくパンなのが残念だが、酒精もあるので問題ないだろう。開発中のウィスキー、葡萄酒、麦酒を大量に提供している。メアリ商会と商業ギルドにお願いした分の酒類も十分にある。


 ちなみにヴァン君の焼肉のタレは元の肉用ソースに葡萄酒、にんにく、林檎的果物、黒胡椒、玉ねぎ的野菜、塩などを使って味を整えたものである。自分なりにかなり良い焼肉のタレになったと思っている。


 皆が着々と準備していくバーベキューに釘付けになる中、ティルとカムシンより準備完了の報告を受けた。


「陛下、準備が出来ました」


 そう声を掛けると、陛下は深く頷き、皆に向けて口を開く。


「我が騎士達よ! 本日はいつもより特別な戦祈儀である! 通常なら保存食を多めに配ることしか出来ないが、今日はヴァン男爵から希少な食料を提供してもらった! 存分に食べてもらいたい!」


 陛下がそう声を掛けると、他の貴族達が各騎士団に晩餐を始めると言った。


 直後、何万という兵士達が殺到する。


 これが正に戦争かと思うような勢いで、肉に齧り付いていく兵士達。


「ゆっくり食べてくださいね!」


「こちらのヴァン様のタレもどうぞ!」


「うまいぞ、このヴァン様のタレ!?」


「いや、肉自体もすげぇ美味い!」


 と、皆が大騒ぎしながら肉を平らげていく。まぁ、美味しい魔獣の肉を残しておいたからね。在庫の一掃にもなって良かった。


「さて、我々も美味しいお肉を食べましょうか」


 そう言いつつ振り返ると、陛下が不思議そうに兵士達の様子を見ている。


「ヴァン男爵。この肉は何の魔獣だ? あの兵士達の喜び様は異常だぞ」


 その言葉に、陛下の後ろに並ぶジャルパ達も同意するような態度をとった。


「えっと、確か……鱗狼(スケイルウルフ)甲殻亜竜(アーマードリザード)黒魔猪(ブラックボア)……あ、朱魔虎(レッドデビルタイガー)も数体いましたね」


 思い出しながら答える。それに貴族達から驚きの声が上がった。


「朱魔虎だと……!」


「馬鹿な。王国全体でも二十年に一度現れるか……」


「ドラゴンに匹敵する強大な魔獣と言われているが……」


 そんな声を聞いて成る程と頷く。


「確かに、朱魔虎は珍しいみたいです。これまでに五体くらいしか討伐してませんね。ただ、大きさが十メートルはあったので、バリスタで狙うのは楽でした。最初見た時は驚きましたけど」


 苦笑しつつ、そんな返事をした。僕の回答に何を思ったのか、後ろの貴族達だけでなく陛下ですら唖然としてしまった。


「……朱魔虎は一つの街を半壊させるほどの被害を出し、王都騎士団の精鋭千人と一流の四元素魔術師二人がかりでようやく討伐したのだがな」


 陛下はそう口にすると、呆れたように笑ったのだった。






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