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僕はいかないからね?

「え? ヴァン様は行かなくても良いのですか?」


 軍議終了後、皆が出ていった領主の館の執務室で、アルテがそう聞き返した。それに笑いながら、僕はウッドブロックを一つ手に持って頷く。


「前回、陛下に言っておいたからさ。僕の領地はまだまだ発展途上で戦に回せるような騎士はいませんってね。だから、今回はイェリネッタ王国へ侵攻するための中継基地として協力するんだよ」


「そうなのですか。あの武力を重んじる陛下が良くお認めになりましたね」


 驚くアルテに、地図を見せる。その地図には曲がりくねった山道と、少し離れた場所にあるイェリネッタ王国側の砦の位置が描かれている。


「その代わり、万全の状態で攻め込むためのお手伝いをしないといけないんだ。バリスタ付きの装甲馬車は何台か作ってたから良いけど、問題は拠点作りかな。まぁ、折りたたみ式のコンテナみたいなのを考えてるんだけど」


「コンテナ……?」


 自問自答のように呟きながら自身の考えを呟くと、アルテが難しい顔で首を傾げる。


 そこへ、扉をノックしてティルとカムシンが入ってきた。


「ヴァン様、皆さまのセアト村の見学が終わりました」


「ありがとう。お疲れ様だったね」


 軍議に参加した人を案内してきたティルとカムシンに労いの言葉をかけると「疲れましたぁ……」と疲労感の滲む声が返ってくる。まぁ、中々あんなにお偉いさんと接する機会はないから、緊張もするだろう。


 苦笑しつつそんなことを考えていると、カムシンが口を開く。


「国王陛下とジャルパ様はドワーフの炉を見学に、ベンチュリー様はバリスタを見に行かれました。それ以外の方々は各騎士団の野営の状況確認と、物資の調達に動いています」


「ほうほう」


 カムシンの報告を聞きながら、ウッドブロックを手の中で粘土のように操作する。イメージは折りたたみ式のコンテナだ。壁面部分が箱の内側に倒れるようになっており、全ての壁を順番に倒すと箱は折り畳まれて板になる。


 逆に壁面になる板を順番に起こしていくと箱になる代物だ。箱は長方形で、短辺にあたる壁面には扉が付いている。


 簡単な作りだが、僕が何度か折りたたんだり組み立てたりしていると、アルテ達は「面白いですね」と喜んだ。


「壊れないんですか?」


 カムシンにそう聞かれて、箱の内側を指差す。


「天板と底板に溝があって一度カチッとはまり込めばかなり頑丈だよ」


 答えると、カムシンは素直に感心しながら頷く。


「ただ、これだと重くなり過ぎるから、必然的に馬車のサイズの拠点しか作れないよね。横の壁を一部無くして連結出来るようにするか、それとも骨組みと板で分けて、現地で組み立てをお願いするか……」


 唸りながら、もう一種類組み立て型の箱を作る。骨組みを連結させていき、周りにパネル板をはめ込んでいくタイプだ。


 折りたたみの方が簡単だが、骨組みを連結するタイプの方が自由度は高い。悩みどころだ。


「よし、実際にやってみよう」


 そう言って、箱を手に立ち上がる。


「やってみる?」


「もう拠点を作るんですか?」


 驚く皆に頷き、箱を見せるように持ち上げた。


「実際に作ってもらって判断した方が良いと思ってね」


 そう答えると、アルテは目を瞬かせ、ティルとカムシンは顔を見合わせたのだった。





 皆に協力してもらってウッドブロックを運んでもらったため、街道に堆く積まれている。周りには各騎士団の野営用のテントが地面を埋め尽くす勢いで並んでいた。


「よし! では、まずは第一候補、折りたたみコンテナタイプ!」


「おっしゃあ!」


 僕の台詞にオルト達が大きな返事をして腕を振り上げる。今回は王家や各騎士団から直接依頼を受けて、山道の案内や魔獣の警戒、斥候までやってくれる冒険者達だが、なんと追加依頼で拠点の設営までやってくれることになった。


 流石に運搬については各騎士団が行うが、それにしても凄い働きである。


 ただ、その分報酬は破格なので、皆とても気合い十分な様子だった。


 オルトを含め三十人ほどの冒険者が集まって騒いでいるため、テントの周りにいた兵士達も何事かとこちらを振り向く。


 その視線を受けても気にする素振りもなく、冒険者達は僕が作った試作品に群がった。


「両端の人は一番上の板を持ち上げてー! そうそう! 次の人は二番目の板を持ち上げながら右側に……あ、僕から見て右側ね! そのまま押しつけてー! あ、一番上の板を持ってる人はそのままー! はい! 次は三番目の板を持ち上げて、反対側へ押しつけて! ガチッとはまったら手を離してみてくださーい!」


 大きな声で指示を出すと、それぞれコンテナを組み立てていき、ほぼ同時に自立するトンネルのような箱ができた。それを見て、ギャラリーと化した兵士達も感心したような声を発する。


「おー!」


「簡単だな」


「これで頑丈ならテントいらないじゃないか」


 色々と感想が聞こえてくるが、それは無視して組み立てを続ける。


「はい! では、残りの壁を起こしてください! 順番ですよー!」


「おりゃあっ!」


 指示に従い、冒険者達が声を振り絞る。拠点にするなら広くないといけないと思ってそれなりの大きさの試作品を作ったため、壁や天井となる板はかなり重い。しかし、力持ちの冒険者達はものともせずコンテナハウスを作り上げていく。


 最後の板には予め片開きの扉を設置していたので、コンテナハウスが完成したと同時に扉も付いている。その扉を開けて、中から冒険者が顔を出した。


「おぉ!? もう家が建っちまった!」


 まるでコマーシャルの一シーンのような表情と台詞である。それに他の冒険者も大興奮で歓声を上げる。


「まじかよ!」


「これは俺たちも欲しいぞ!」


 と、想像以上に簡単に出来上がったためか、思った以上に感動されてしまった。報酬を金貨からコンテナハウスに変えた方が喜ぶかもしれない。


 その後、これは中々良い感じだと喜び、組み立て式のプレハブ風拠点の設置をさせてみたところ、大不評だった。


 難しい。間違える。苦労の割に小さい等、散々な言われようである。


 仕方ないので、コンテナハウスの発展にのみ注力することにしたのだった。




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