国王到着
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ダディが無言でドワーフの炉を睨んでいるのを一瞥して、ムルシア兄さんに話しかける。
「ムルシア兄さん。今回ここに来たってことは、フェルティオ侯爵家騎士団を二つに分けるってことですか?」
そう尋ねると、ムルシアは困ったように笑って僕を見た。
「ああ、実は……」
ムルシアが何か言いかかった時、城壁の方から馬に乗った団員が走ってくる。
「ヴァン様! 国王陛下がお着きです! 近衛騎士団を引き連れて先行してきたようです!」
「早っ!?」
王都は侯爵領第一都市よりも倍以上遠いというのに、何故こんなに早く着くというのか。
「さては、書状を各貴族に送付してすぐに王都を発ったな……急いで陛下を出迎えに行くよ! ディー、エスパーダは付いてきて! 父上、ムルシア兄さんはここに……」
「そんなわけにいくか、馬鹿者め。陛下が到着されたなら我らも出向くに決まっているだろうが」
「あ、そりゃそうですね。じゃあ、一先ずセアト村見学は置いておいて陛下を迎えに行きましょうか」
思わずノリで指示を出したところ、父上よりお叱りを受けてしまった。しかし、至極当然なお叱りだったため、すぐに同意して全員で城門を目指す。
城門まで行くと、僕の指示を待って待機している騎士団員の皆がこちらを見ていた。
「いいよ! 開門!」
本来なら一度僕かディー、エスパーダの誰かが相手を確認するのだが、騎士団員の半数は陛下の顔を見たことがあるので大丈夫だろう。そう思いながら待っていると、城門が開かれ、奥から四頭立ての馬車が現れた。周りには馬に乗った騎士の姿もある。
というか、奥からぞろぞろと入ってくる騎士の全てが馬に乗っているのだが、どれだけ急いできたというのか。
「おお、ヴァン男爵! 久しぶりだな!」
馬車の扉が開いたと思ったら、大声でそんな挨拶をしながら陛下が下りてきた。そのあまりのフランクさに周りの住民すら驚き、思わず跪くのを忘れてしまっている。陛下はそんなこと気にもせずにこちらに歩いてきた。
「また随分と面白いものを作っておるな! あの大浴場は驚いたぞ! それに街も随分と設備が充実してきてるな! この分だとセアト村も何処か変わっているのであろう?」
上機嫌に笑いながらこちらに歩いてきた陛下は、僕の後ろに並ぶ面々に気が付いて口を開いた。
「おお、侯爵! 外に卿の騎士団はいるのに、当の本人がおらぬから探してしまったぞ。もう村の見学は終わったのか?」
陛下がそう言うと、父上は深くうなずく。
「はい。あらかた……後は湖と呼ばれるところだけかと」
父上がそう答えると、陛下は大きな声を上げて返事をした。
「おお、そうであった! ここに来たからには彼らにも挨拶をせねばな! 侯爵、ちょうど良かった。まだ見ておらぬなら一緒に行こうではないか」
「も、もちろんです。お供いたしましょう」
陛下の勢いに押されつつ、父上は提案に賛同する。なぜか、二人の会話にサラリーマンの上司と部下の飲み会を思い起こされたが、ある意味貴族社会も似たようなものなのかもしれない。
そんな先入観を持ってしまうと、僕の前を陛下に付きしたがって歩く父上の背中は何処か疲れて見えた。いや、気のせいか。
「ヴァン男爵! 城門を開けてくれんか」
と、気が付けばセアト村の奥までたどり着いていた。陛下の言葉に慌てて頷き、城壁の上にいる団員に開門を指示する。返事をする団員の声の後に重々しい音が鳴り響き、やがてセアト村の裏口ともいうべき城門が開放された。
すると、これまで冷静な感じを保っていた父上が、さすがに目を剥いて驚きの声をあげる。
「あ、アプカルル……!?」
その声に、ムルシア兄さんも前に出て門の向こう側の光景を見た。貯水池でもある湖はかなり大きめに作っており、周りには舟屋もあり、湖面には幾つも船が浮かんでいる。更に、湖の周りにはゆったり休憩できるような椅子とテーブルもあり、そこでは村人らしき人間とアプカルルが談笑しながら飲食を共にしているような景色が広がっていた。
子供のアプカルルがボールで遊ぶ声が響く中、陛下が軽く周りを見回す。
「……アプカルルが増えたように見えるな。族長は変わっておらぬか? 確か、ラダヴェスタ殿だったか」
「よく覚えておいでですね。あそこに座っているアプカルルがラダヴェスタさんです」
陛下の記憶力に驚きつつそう言うと、浅く頷いてラダヴェスタのもとへ向かっていった。そして、椅子に座って湖の様子を見ていたラダヴェスタに声を掛ける。
「久方ぶりだ。元気だっただろうか」
陛下がそう挨拶をすると、ラダヴェスタは振り向いて顔を確認しすぐに頷いた。
「おお、人族の大族長、ディーノ殿か。我は健在だ。ディーノ殿も……少し疲労がみえるな」
「はっはっは! 今の今まで馬を走らせてきたのでな。いや、ラダヴェスタ殿を見て元気になった」
「そうか。それならばよかった」
そんなやり取りをして、陛下とラダヴェスタが雑談を始める。二人が一つのテーブルを囲んで話す姿を見て、父上は呻くようにつぶやいた。
「……いったい、どうやってこんな村を作ったのだ」
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