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【別視点】驚愕の発展

【ジャルパ】


 ヴァンに案内されて、遠目に見えていた建物の傍に来る。そこではもうムルシアの指揮する先行隊が野営の準備を行っていた。建物の周辺に、競うように素早くテントを張っているが、これだけ早めの行軍後に何故それほど動きが良いのか疑問に感じる。


 そんな私の視線を感じたのか、前を歩くヴァンがこちらを振り向いて建物を指し示した。


「この建物は急遽用意した各騎士団用の休憩所です。一階は男女半々に分けた大浴場で、二階から上は二百名まで泊まれる個室となっています。一応、各家のご当主及び護衛で同行してくる方々はセアト村の方に泊まっていただこうと思っていますが、ジャルパ卿はどうされますか?」


 何でもないことのようにそんなことを言うヴァンに、眉間に皺を寄せて鼻を鳴らす。


「随分と大きな建物を作ったのは見事だが、あの巨大な建物の一階部分が浴場だと……? そのような大量の湯をどうやって用意するというのか。せいぜいがその十分の一程度だろう」


 そう告げると、ヴァンは困ったような顔で奥を指さした。


「そうなんですよ。お湯を用意するのがすごく大変でした。建物で見えませんが、奥に水車があって水を貯水槽に運んでいます。そこから流れる水の一部を常に沸かし、浴場へ流しています。なので、一度お湯が満水になれば後は常に供給され続けている状態なので、温度は一定になっています。もし一般兵が入っていても気にしなければ中に入ってみても良いですよ?」


「浴場に一般兵が先に入っているだと? 貴様、ただの湯浴みであろうと先ずは爵位を持つ者からだろうが……!」


 貴族の位も持たぬ者が入った浴場など利用できるか。そう思い怒鳴ったが、ヴァンは苦笑しながら片手を振って口を開く。


「いえ、きちんと陛下や各家のご当主殿のご利用する浴室は別に用意しております。そこに見える冒険者や行商人用に作った街にも三階建ての大浴場がありますし、セアト村にも大浴場を作っています。あくまでも、この施設は男爵以下の爵位の者か一般兵のための施設と思っていただけたら」


「馬鹿な、そんなこと信じられるわけ……」


 言いながら、以前にスクデットでヴァンが目の前で巨大な投石器らしきものを作ったことを思い出す。生産系の魔術がどういうものか詳しくはないが、ヴァンが何かしらの特別な力を持っているのは間違いない。


 そう思い、改めてヴァンを見下ろす。


「分かった。ならば、見せてみよ」


「……どうぞ、こちらへ」


 私の言葉にヴァンは意外そうに目を瞬かせ、すぐに含みのある笑みを浮かべて建物の方へと進路を変えた。


 建物は見れば見るほど不思議であった。素材が何か分からないのもそうだが、作りも見たことのないもののように思える。


「あ、父上……!」


 と、建物の中にはすでにムルシアがいた。椅子やテーブルが並ぶ広間のような部屋で兵士長達と話をしていたようだ。そして、その奥にはディーの姿もあった。


「おぉ! ジャルパ様! お変わりないようでなによりです!」


 ディーは私に気が付き、深く一礼して挨拶をした。


「む。ディーも元気そうだな。ドラゴンの首を斬ったと聞いたが、大きな怪我はなさそうだ」


 そう口にすると、ディーは胸を叩いて頷く。


「はっはっは! この通り、無傷ですぞ!」


 ディーが機嫌良さそうに笑うのを見て、こいつは一方的に侯爵家騎士団を退団したことを覚えているのかと不安になった。


 しかし、有能な騎士が他の騎士団に引き抜かれるのは多々あることであり、私自身も近隣の領地から能力の高い騎士を何人も引き抜いているため、それを口にすることは出来ない。


 そんなことを考えていると、私の後ろからストラダーレが前に出てきた。


「ディー殿、お久しぶりです」


 畏まり、ストラダーレがディーに一礼する。ディーの方が年上であり、今は他の騎士団に所属しているため、ストラダーレは気を遣っているのだろう。ディーはそんなストラダーレを見て、ぐいっと口の端を上げた。


「おぉ! ストラダーレ騎士団長! 久方ぶりである! わっはっは! また無愛想な顔をしているな!」


「そちらも、変わらず楽しそうで何よりです」


 二人はそんなやり取りをして久しぶりの再会を喜ぶ。それを横目に、ヴァンは奥を指差した。


「この広間の左右にトイレを設置しています。奥は左側が女性用、右側が男性用の大浴場入り口です。中には脱衣所があって、その先はもう大浴場になります」


 言いながら、ヴァンはさっさと奥に歩いていく。仕方なく後に続き、脱衣所に入ると衣服を脱ぎかけた一般兵達がこちらを見て、慌てた様子で姿勢を正す。ヴァンは「ちょっと見学です。楽にしていて下さいね」などと言いながら横を通り過ぎ、浴場の入り口らしき扉を開けた。


 すると、湯気と熱気がふわりと扉から漏れ、目の前には大きな浴場が広がっていた。石を使った床や柱、壁。窓は天井近くに細い窓が並んでいるだけなので、壁にランプらしきものを取り付けて室内を明るくしている。


 広さは間違いなく侯爵家の浴場よりも広い。むしろ、男女合わせるとしたら王家であっても持ち合わせていないような大浴場ではないだろうか。


 唖然としていると、ヴァンは出入り口を指差す。


「それでは、次の場所に行きましょうか」


「……う、うむ」


 なんと答えて良いかも分からず、ただ返事をした。いったい、我が家を出てから何があったというのか。これだけのものを作るだけでも、数ヶ月はかかるだろう。


 それを百人程度の寂れた村と、エスパーダ、ディーだけで、どうやって……。


 二階に上がり、ベッドなどの家具付きの個室、トイレなどを確認しながら頭の中でぐるぐると考える。


 しかし、もちろん答えなど出るはずもない。






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