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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】独立した四男

【ジャルパ】


 陛下より先に現地に赴き、大型のテントや仮設の休憩所を作らねばと急いだ。以前、陛下はヴァンのもとに赴いたことがあると聞いたが、その際も崩れかけた家屋でもてなしたのかもしれない。


 しかし、自分が一緒に行くのにそのような無様なことは出来ない。せめて、仮設でも良いから陛下が休むのに相応しい広さの建物を準備しなくては。


 そう思って行軍を急いだのだが、目的地付近で兵達の間に動揺したような声が聞こえてくるようになった。


 辺境に向かうにつれて街道は狭くなるため、隊列を縦に細長くしており、私は中央より少し後方に位置している。それゆえ、先頭の情報は即座に届かない。


「前方で何かあったのか? 確認せよ」


 馬車から顔を出してそう告げると、黒い鎧に身を包んだ背の高い騎士が騎乗で頷く。厳しい顔だが、まだ三十代中頃という若き騎士団長、ストラダーレだ。ストラダーレは青い目で私を見て口を開いた。


「現在、先行している隊から報告はきていますが、要領を得ない内容であったため、報告を一旦止めておりました。再調査させていますが、現在受けている報告内容でよろしければ」


「良い。その要領を得ない報告とやらをそのまま伝えよ」


 そう答えると、ストラダーレは首肯する。


「前方に、大きな建物らしきものが見えた。地理的に、目的地であるヴァン男爵領と思われる。しかし、それを守るべき城壁は建物の奥に設置されていた。また、城壁は巨大であり、みるからに強固な代物である」


 と、ストラダーレは淀みなく答えた。実直を絵に描いたような生真面目な男である。恐らく、曖昧な報告をしたくなくて再調査をさせているのだろう。


 しかし、確かに報告内容は見間違いを疑いたくなるものである。


「……先行隊がもう着いている頃か。ならば、その再調査を待たずとも直接この目で見ることになるだろう」


「は、承知しました」


 ストラダーレがそう返事をした時、ちょうど前方から大きなざわめきが広がってきた。まるで水面に波紋が広がるように、そのざわめきは馬車の周りまで伝わってくる。


「百人以上で入れる浴場があるらしいぞ」


「休息施設を外に作ったらしい」


「城壁の向こう側に二つ街があると聞いたが、本当に潰れかけの村か?」


 そんな声が聞こえてきて、何を馬鹿なことを言ってるのかと思い、馬車から顔を出した。


 すると、街道の奥には確かに遠目からでも大きな建物が見える。見慣れない、真四角な形状をした建物だ。奥には確かに城壁のようなものが見えた。


「あれは……?」


 疑問の声を口にしながら、馬車から身を乗り出す。すると、それを合図にしたかのようにヴァンの名が聞こえてきた。


「ヴァン様……?」


「おぉ、ヴァン様だ。お変わりないようだぞ」


「エスパーダ殿も一緒か」


 そんな言葉に目を凝らすと、兵達の行列の向こう側、街道の一番端側に子供らしき姿があった。どうやら少数で出てきたらしく、こちらに向かってくる一団は僅か数十人程度にみえる。


「……ディー殿の姿はないか」


 小さな声で、ストラダーレが呟く。実直なストラダーレと豪放磊落なディーはよく口論などで争う姿が見られたが、お互い実力を認め合っていた。口には一切出さなかったが、ディーがいなくなって寂しかったのかもしれない。


 そういえば、ディーが竜討伐者(ドラゴンスレイヤー)と陛下に認められたと聞いた時、ストラダーレは何も言わずに頷いていた。ディーの実力を知っているからこその反応だろう。


「ジャルパ様。ヴァン様がお見えです」


 そのストラダーレがもう目前に迫ったヴァンを見て、こちらに声をかけてきた。


「今やあいつも爵位持ちだ。馬車の前で跪いたら呼ぶが良い」


「承知しました」


 私の言葉に、ストラダーレは畏まって答える。


 しばらく声がかかるのを待っていると、馬車の外からヴァンの声が聞こえてきた。


「ジャルパ侯爵家の一団とお見受けします! そちらに、ジャルパ侯爵はいらっしゃいますでしょうか! 僕はこの地を治めているヴァン・ネイ・フェルティオと申します! よろしくお願いします!」


 と、聞いたこともない挨拶の口上を耳にし、思わず苛立ちを感じて立ち上がる。まったくもって貴族らしくない。


「ジャルパ様。ヴァン様がご挨拶を、と」


 今の口上をどう聞いたのか、律儀にストラダーレがヴァンの到着を伝える。


「……分かった」


 兵達も見ている前で、狭量な姿は見せられない。怒りを堪えながら、私は馬車を降りた。ストラダーレの指示によるものか、兵達は馬車の正面だけ左右に分かれて空間を作っていた。そこに、ヴァンを含めた二十人から三十人ほどの者達が跪いて待っていた。


 中には、以前のイェリネッタ王国との戦いで見た弓使いの姿もある。また、いつも通り小難しい顔のエスパーダもヴァンの少し後ろに控えていた。常に執事らしくあろうとするエスパーダは、ヴァンがいる限りは前に出てきて話をすることもないだろう。懐かしいが、少し寂しくもある。


 ヴァンやエスパーダらを見下ろして、私は口を開く。


「……ジャルパ・ブル・アティ・フェルティオ侯爵である。ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵。出迎えご苦労」


 そう返答すると、ヴァンは笑いながら顔を上げた。


「いやいや、すぐそこですからね。ジャルパ卿こそ、遠いところを一番に来ていただいて……道中は中々大変だったでしょう。どうぞ、もうすぐセアト村に着きますので、ゆっくりなさってください」


「……ふん。では、案内してもらおうか」


 私がそう告げると、ヴァンは笑いながら頷いたのだった。





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