拠点作り
ウジウジ言っていても仕方がない。気持ちを切り替えた僕はベルランゴ商会と商業ギルドに依頼を出した。
日持ちする携帯食や調味料、衣服、武具、医療品などである。弓矢や魔術具などは各騎士団が十分用意しているだろうし、わざわざ追加分を準備する必要はない。
後はエスパーダとディーに相談して兵士達の宿泊施設と治療所について内容を決めないといけない。
そう思い、二人を呼び出した。二人は事情を聞き、それぞれ反応を示す。エスパーダは無言で口の端を上げ、ディーは胸を叩いて口を開いた。
「それは良いですな! ヴァン様がどれほど領地を発展させたか見てもらいましょう!」
「ディーまでそんなこと言わないでよ……侯爵家を完全に敵に回したら鬱陶しいことこの上ないでしょ?」
窘めるようにそう言うと、エスパーダが眉を上げて少し意外そうな顔をしてみせる。
「……ヴァン様の言い方ですと、御当主様と確執が生まれることを恐れているというより、煩わしさを感じている、といった風に受け取れますな」
「うん? そりゃそうだよ。正直、敵対しても勝つ自信はあるからね。前回の戦いの時に魔術を使うところも見たから、もう対策は考えてるよ。多分、正面から来てくれるなら負けることは無いかな」
エスパーダの疑問に素直に回答すると、エスパーダとディーは一瞬呆気にとられたような顔になり、すぐに笑い出した。
珍しく、エスパーダまで声を出して笑っている。
「なに? どうしたの?」
尋ねると、ディーが肩を揺すりながら首を左右に振った。
「いや、失礼しました。エスパーダ殿もそうでしょうが、私もヴァン様は常々、自信が足りない気がしておりました。いや、言葉にはしていませんが、どこかお父上やご兄弟に引け目を感じているような、そんな印象ですな」
ディーがそう言うと、エスパーダも顎を軽く引く。
「ヴァン様は我々が新たな主人と認めたお方です。それこそ、お父上にも負けないというお気持ちを持ってほしいと思っていました。その心意気が聞けて、我々は嬉しいのです」
またまた珍しく、エスパーダが上機嫌に心情を語る。どうやら、自信満々で俺についてこい、みたいな主人になってほしかったようだ。
まぁ、任されよ。僕個人はともかく、このセアト村は最強である。
そんな冗談を頭の中で言いつつ、僕は肩をすくめて本題に入った。
「とりあえず、冒険者の街から少し離れた場所に街道に沿って宿泊施設を作ろうと思う。階級のある騎士以上が泊まるなら三百人くらい泊まれれば良いと思うけど、どうかな?」
確認すると、ディーが頷く。
「将官以上に限定するなら百から二百で良いでしょうな」
ディーがそう告げると、エスパーダが顎をつまみながら唸った。
「どの街を拠点にしても宿に泊まれるのは百から三百程度です。他は野営で良いでしょう。ただ、二十程度は他よりも豪華な部屋を用意しなくてはいけません」
「上級貴族用だね。じゃあ、二百で準備しようかな。後は治療所だね。こっちも百人は入れるようにしないといけないよね?」
確認すると、ディーが答える。
「こちらは千人でも良いくらいですが、厳しい戦場なら屋根さえあれば上出来くらいのこともありますからな。まぁ、簡単な倉庫のような建物でも十分でしょう。しかし……」
そう口にすると、ディーは考えるような素振りを見せた。
「どうせなら、お父上に目に物を見せてやりましょう」
ディーがそう告げると、エスパーダも頷く。
「そうですな。既に、ヴァン様の力は他の貴族達に知られてしまっているでしょう。ならば、敵対するのは得策ではないと教える意味でも、少々凝ったものを作った方が良いかと」
「えー、一週間しかないのに? 昨日まで炉を作ってたからゆっくりしたいなー」
口を尖らせてそう言うと、ディーが腕を組んで唸る。
「ぬぅ、しかしですな……」
ディーが困ったような顔でいると、エスパーダが短く息を吐く。
「なんなら銭湯を付けても構いません。銭湯を主として、休憩所のような形でも十分でしょう」
「銭湯?」
銭湯と聞いて、少しテンションが上がる。一般市民は大人数用の浴場など入ったことがない者ばかりだ。だから、銭湯を見たら大喜びするに違いない。
仕方ないなぁ。行軍で疲れているだろうし、汚れも落としたいよね。
と、色々な理由を付けながら、僕はすぐに銭湯の構想を練る。広い三階建にして、一階を銭湯及び休憩所にする。そして、二階を小さめの個室。三階は貴族用の広めの個室だ。トイレは各階に二十ずつ作ってみようか。かなり広い浴場になるから、水車と貯水槽、湯沸器は少し大きめにして二箇所作ろう。
そんなことを考えて遊んでいると、気がつけば拠点は完成していた。我ながら恐ろしいことに、夢中で作ったせいで銭湯付きの宿泊施設は、僅か二日で完成したのだった。
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