戦場へ?
領地の発展に注力していたのだが、ついに国王から書状が来てしまった。
フェルディナット伯爵領の防衛の成功を王家が確認。イェリネッタ王国は戦線を大きく下げた。敗走してイェリネッタ王国の領地に侵攻軍が戻った今が好機である。北部の貴族は全ての力を集結し、短期決戦にてイェリネッタ王国領地へ進軍する。ただし、騎士団の団員数が少ないヴァン・ネイ・フェルティオ男爵のみ、反撃戦に不参加とする。
そこまで読んで、僕はホッと息を吐く。良かった良かった。戦争行きたくないという僕の要望を国王はしっかり覚えていたようだ。
そう思って続きを読むが、少しずつ内容に不穏な言葉が混じり始める。
「……イェリネッタ王国への反撃を実行するにあたり、指定する地を拠点として各騎士団を集結させ、戦力増強を図る? 騎士団を持ち出したら防衛が手薄になっちゃうけど、大丈夫かな? 後は……指定する拠点は、ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵領とする……?」
ん? 最後の一文はどういう意味かな?
よく分からなかった僕は、もう一度書状を読み直す。
「あ、よく見たら日付も書いてるじゃないか。えっと、今から丁度一週間後に、ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵領、セアト村に集合すること……」
ん? ますますよく分からないぞ?
騎士団の人数も少ないような極小の領地に、そんな大軍が来てどうするというのか。イェリネッタ王国に近い場所に領地を持つ貴族達だけでも騎士団は総数数万になるだろう。各領地を守るために半数以上を残したとしても、二万か三万くらいは集まるに違いない。さらに、そこに王国軍が加わる。
「……最低でも五万人? え、街道のそばの草原に野宿で良いなら問題ないけど……あ、いやいや、食事や物資の補給も考えないと」
混乱しつつも、もし目にした内容が事実なら何をすべきか頭を働かせる。
というか、久しぶりの領土拡大チャンスだ。間違いなく国王や他の重鎮が同行してくるだろう。そうなると国王達のもてなしは必須だ。なんと面倒くさい。
「やられた……確かに、領地を離れていないし、最前線にはまずならないだろうけど、一番面倒な立ち位置になった気がする……」
書状を机の上に置いて、思わず天を仰ぐ。やるじゃないか、国王陛下。
そんなことを思っていると、紅茶を淹れてくれたティルが机の前で首を傾げた。
「ヴァン様、眉間にお皺が……どうかされましたか?」
そう聞かれて、書状を片手でヒラヒラと揺らしながら溜め息を吐く。
「ディーノさんがまた無理難題を言ってきたからさ……とりあえず、明日から色々と準備しようか」
「ディーノさん……って、国王陛下じゃないですか! そんな気軽に名を口にしてはダメですよ!」
僕の言葉に最初はピンとこない顔をしていたティルだったが、すぐに声を裏返らせて慌てた。その様子に笑いながら、書状の中身を伝える。
「イェリネッタ王国に反撃するみたいなんだけど、何故かスクデットじゃなくて僕の領地から攻め込むみたい。まぁ、僕が戦場に行かなくて良いのはありがたいけど、代わりにこの狭い領地に五万人以上の兵士が来るんだよ。更に、国王やら他の貴族も一緒……って、うわ、パパンまで来ちゃうじゃないか……! ああ、面倒くさい!」
色々余計なことを思い出して頭を抱えながら苦悩していると、ティルも釣られるように慌て出した。
「侯爵様も来られるんですか!? た、大変! 急いでいつも以上にお掃除して、最高級の食材を用意しないと!」
「え、そこ?」
ティルの台詞に思わず疑問を口にしてしまう。すると、こちらを見るティルの目が吊り上がった。
「大事なことです! ヴァン様が侯爵家を出て一年以上経ちます! 今こそ、ヴァン様がどれだけ領地を発展させたか披露する時! 皆でセアト村がどれほど素晴らしい場所になっているか、存分に見せつけてやりましょう!」
と、いつになくティルが燃え上がっている。それを横目に、僕の後ろで護衛として控えるカムシンに声をかけた。
「なんか、ティルがやる気出してるよ」
小さな声でそう言うと、カムシンは息を漏らすように笑い、
頷いた。
「気持ちは分かります。私も、ジャルパ様よりヴァン様の方がずっと優れているのだと見せつけてやりたいですから」
「あ、そ、そう……? まぁ、良いんだけどさ」
カムシンの言葉になんとも言えないむず痒さを覚えつつ、明日からすることを考える。
「……じゃ、一先ずはベルランゴ商会と商業ギルドに食品や調味料、衣服、武具の大量発注かな。同時に、冒険者ギルドに木材の調達依頼と、美味しい魔獣を選んで討伐依頼を出そうか。後は、城壁とかまでは作れないけど街道に沿って最低限の宿泊施設は必要だよね。あ、怪我人が出た時の治療所もか」
必要なものを順番に口にし、手元の紙に羅列していく。しかし、見れば見るほど大変だ。とてもじゃないが、一週間では準備期間として短過ぎる。
本来なら、フェルティオ侯爵領の大きな街のように物資も施設も十分な場所に拠点を置くべきだろう。いや、そもそもスクデットがあるのだから、そちらを使うのが当たり前である。
「……はぁ、困ったな」
僕はメモ書きした内容を眺めながら、小さく呟いたのだった。
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