反則炉作りと火入
「僕なら、炉が稼働中に外から補修したり、新しい風穴を取り付けたりも出来るんだよね」
そう告げると、ハベル達は目を剥いて口を大きく開けた。
「まじか」
「そりゃ、いよいよ反則だ」
「こりゃドワーフの炉に革命が起きるぞ……」
それぞれが驚愕の表情と共に感想を呟く。僕は胸を張って凄いだろうとアピールする。
すると、ドワーフの一人が真剣な顔で他の皆を見やる。
「……皆、聞いてくれ。俺、ここに残……」
「いや、俺の話を先に聞いてくれ。この街で俺は……」
「ちょっと待て! 俺が先だ!」
と、ドワーフ達が突然言い争いを始めてしまった。それを見て、ハベルは手を叩いて笑う。
「な、なになに? 何があったの?」
そう尋ねると、ハベルはくつくつと笑いながら炉を指差した。
「鍛冶屋の腕が鳴るんだろうよ。かくいう俺もそうだ。こんなワクワクする街は見たことがねぇ。武器はいくらあっても出ていくだろうし、材料もいっぱいある。それに街は明るくて賑やかだ。ドワーフの国ほどじゃねぇが、住みやすそうで良い」
ハベルは「鍛冶屋にとっちゃあ天国だぜ」と言って大声を出して笑う。その言葉を聞き、それならばと僕は言い争うドワーフ達を見た。
「僕は偶然にも商業ギルドと取引をしているんだけど、ドワーフの国へ向かう商業ギルドの人にオリハルコン鉱石を預けることも出来るよ。だから、もし良かったら皆揃ってセアト村に残ってみない?」
そう告げると、ピタリとドワーフ達の言い争いが止まった。顔を見合わせて、最後にハベルを見る。
「がっはっはっは! おう、そりゃ良い! お前らも俺と一緒にここで世界最高の武器を作るか!」
ハベルが笑いながらそう口にすると、ドワーフ達は大きく口の端を上げた。
「おお! そりゃ良いなぁ!」
「最高じゃないか!」
「俺たちもここの世話になるぞ!」
そう言って、ハベル達はお互いの肩を叩き合って呵々大笑する。
こうして、セアト村に他国から見ても珍しい、ドワーフの鍛冶師たちが住み着くこととなったのだった。
数日のうちに炉は火入れまで完了して、いきなりミスリル鉱石から溶融、精錬してミスリルの武具がハベル達の手によって作られた。結果、そこから更に一週間程度でセアト村最初の鍛冶師による武具が出来上がったのである。
「わぁ、凄いね!」
僕は出来上がった武具を見て、歓声を上げた。真っ白な石のテーブルに並べられた白銀の長剣、盾、兜、鎧、手甲、脚甲の合計六つの武具は調度品のように置かれている。
「すごい迫力。これなら、間違いなくセアト村の目玉商品になるだろうね」
そう言って笑うと、武具を持ってきたハベル達が歯を見せて笑った。
「おう、そりゃそうだ。今度からどんどんすげぇのを作るぞ」
「だが、今後も二度と作ることが出来ない最初に打った武具だけは……ヴァン様。あんたに献上する」
「大事に使ってくれや」
ハベル達が口々にそんなことを言うので、僕は素直に受け取る。
「本当!? ありがとう!」
お礼を言って剣や鎧を見た。本当に細部まで丁寧に作られている。まさに芸術品だ。炉を作ってよかった。
そう思って笑っていると、腕を組んで満足そうに頷いていたハベル達が口を開く。
「そういやぁ、この領地はすげぇな! 鍛冶に夢中で昨日まで気づかなかったが、あの銭湯とかいうのはなんだ!? そのうえ、セアト村にも冒険者の街にもあるとはな」
「おお、それに鉱石でも魔獣の素材でもなんでも手に入る! 食い物も美味い!」
「冒険者は大都市並みにいるから鍛冶もいくらでも出来るしな!」
ハベル達は嬉しそうに領地内の生活について語った。ハベル達には鍛冶屋を開業するための初期投資費用としてそれなりの金額を渡している。鉱石や石炭、本人達の衣食住の費用もである。
鍛冶にのめり込んでいたようだが、ようやく一区切りついて村と街の中を見て回っているのかもしれない。
「ドワーフはお酒が好きって聞いたから、美味しいお酒の蒸留所も作る予定だよ。楽しみにしていてね」
そう告げると、ハベル達がこちらを見た。
「エールか? 醸造所じゃねぇのか?」
「強い酒が良いんだがな」
何とも言えない顔で自らの要望を述べる。それを聞いて、思わず口の端を上げて頷いた。
「そうだろうと思ってね。ガツンと強い酒精を作る予定だよ。蒸留して作るから、焼酎とかウィスキーとかかな?」
「聞いたことがねぇが、強い酒か」
「それは楽しみだな」
僕の説明を聞いて、ハベル達が本当に嬉しそうに笑う。それを見て、僕もつられるように笑った。
「うん、楽しみにね」
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