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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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炉の完成

 炉の高さを二十メートルに変更したことと、一番大変だった魔石の粉末化をドワーフ達がやってくれたことにより、炉の上部も一日で出来上がった。


 本当なら半日で出来上がりそうだったが、ハベル達が異様に細かく調整させるので一日掛かってしまった。


 だが、流石にこだわるだけあって出来上がった炉は物凄く綺麗に仕上がった。完全な左右対称で、炉底部分から上部にかけての滑らかな曲線や炉内の断面の正円具合も完璧だ。


「……よし、中々だ!」


「うむ、中々だ!」


 ハベル達は炉の隅々まで確認した後、腕を組んでそんなことを言った。どうやら満足のいく出来だったらしい。


 ようやく納得したかと思ったら、すぐに風送り箱について話し始める。


「風穴は下部に八つ、中部に四つ、上部に四つだ。炉の状況に応じて開閉させるぞ」


「下部は全て開放しておいた方が良いぞ」


「風を送り過ぎると冷やしてしまう場合もあるが、高温になる下部は問題ないだろう。風穴が塞がってしまわないように常に風を送るぞ」


「風送り箱は何個作る? やはり、四つは作っておいた方が良いな?」


「そりゃそうだ。四つ作っておけば二つ動かす場合と四つ動かす場合それぞれに対応できる」


 ドワーフの炉は炉の中を燃焼させるのに、人力で送風をしているらしい。日本だとふいごと呼んでいただろうか。


 ドワーフの風送り箱というのは、吸排気弁の取り付けられた気密性の高い容器内で空気の体積の増減を用いて風を送り込む装置である。


 風送り箱はよく考えられており、箱の真ん中で部屋を二つに分けて交互に風を吹き込むことが出来るようになっていた。重しもあり、一人で体力の続く限り風を送り続けることが出来るだろう。


 だが、それでもやはり大変な作業だ。描いたばかりの設計図を見つつハベルの説明を聞いて、僕はもっとどうにか出来るのではないかと思った。


 自動で動くといえば電力、風力、そして水力である。このセアト村には常に川から水が流れている。ならば、使うのは水力だろうか。


「……ちょっと、改造してみようかな」


 僕がそう呟くと、ハベル達は眉根を寄せて首を傾げた。


「あん?」


「何言ってんですか」


 ハベル達はキョトンとしている。いや、半数は呆れたような、馬鹿にしたような目で見ている者もいた。


 これはちょっと本気を出さないと領主としての沽券に関わるかもしれない。


 僕は川から引いた水を使って仕掛けを作ることにした。水車を使って二つのふいごを交互に動かすようにしたのだ。踏むことで空気の体積を増減させるのではなく、左右から壁を移動させて空気の体積を増減させる形で送風を行う形式である。


 足漕ぎボートのペダルのような構造にすることで、水の力で空気を炉に送り込むことが出来る。


 実際に作ってみると、ハベル達は目を丸くして黙っていた。とりあえず、動かないハベル達を放置して、風穴までの配管を作っていく。水車から供給される風を溜める密閉した箱を作り、そこに手動で開閉出来る弁を設置した。その先は配管が幾つも出ており、炉の周りに延びている。


「風穴ってどこに作る?」


 振り向いてハベル達にそう尋ねると、腕を組んだまま呆れた顔をする姿が目に入った。


「……本当に反則だな」


「たまらんな」


「俺もあの魔術が欲しいぞ」


 ぶつぶつとドワーフ達が何か言っていたが、ハベルが自分の顔を自分で殴ってから声を掛ける。


「おら! 今は炉作りだ! 風穴の場所を考えるぞ!」


 ハベルがそう言うと、ドワーフ達は何故か揃って自分の顔を殴り、炉に向かって群がってきた。


「下部と上部は四方で良いぞ」


「真ん中の風穴はズラすか」


「そうだな。その方が満遍なく風が入る」


「おい、炉の壁に印を入れろ」


 騒がしく議論しながら、ドワーフ達は炉の壁に黒い丸を描いていく。


「よし、こんなもんだろ」


 ある程度出来上がったのか、ハベルが炉を見上げて言った。それにドワーフ達が頷く。


「ああ、中々だ」


「これは中々だ」


 中々、中々とうるさい。良い出来という意味だろうか。


 そんなことを思いながら、僕は鉄製のストローのような物を作った。


「それで、風穴ってこういうのを取り付ければ良いのかな?」


 確認のために質問すると、ドワーフ達の目の色が変わった。


「違う違う!」


「風穴の先は直角に切るんじゃねぇ! すぐに詰まっちまうぞ!」


「途中は細くして、先をわざと広げた方が良いぞ。逆流防止だ」


「どうせ半年で先っぽは溶けて取り替えだ。鉄も石も溶けちまうからな」


 そんな会話を聞いて、何となく風穴の周りを保護してはどうかと思い、加工してみる。


 今度は大きめのストローを作り、周りを炉の壁と同じ素材で固めてみる。


「お? 面白いことしてるな。だが、それじゃダメだ。金属部分だけが溶けたら風穴の詰まる原因になる」


「成る程。あ、それならそもそも炉の壁と同じ素材でこれ作ったら?」


 そう聞くと、ドワーフ達は難しい顔で唸った。


「それは勿論やってみたが、長い間使ってると徐々に崩れるんだよ。そんで、金属なら溶けて抜き出し口から勝手に出るが、炉壁の一部が崩れたら溶けないから詰まっちまう。そしたら一旦炉は止めて、火を消さなくちゃならねぇ。そうなっちまうと二ヶ月は炉を使えないんだよ」


 溜め息混じりに、ドワーフはそう答えた。


 火を消したら冷却をして、炉の中へ入って中の掃除や補修。風穴も作り直しとなる。さらに火入となるとかなりの時間を要するらしい。


 とはいえ、半年毎に炉を止めて風穴を作り直すのも面倒だ。


「……よし。じゃあ、作り直さなくても良い風穴の研究をしようか」


 そう呟くと、ハベル達はすぐに反応した。


「なに?」


「そんな簡単には出来ねぇぞ」


「ドワーフの国が何百年研究してきたと思ってんだ」


 懐疑的な視線と言葉を聞きながら、僕は不敵に笑う。


「僕なら、ドワーフの国でも出来なかった実験が可能だからね」


 そう言うと、ハベル達がしばらく固まり、あっと声を上げた。






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