冒険者の街の発展、炉作り
色々あって疲れた僕はベルランゴ商会の店舗一棟だけで今日の作業を終了とした。
翌日に他の店舗も建築したため、冒険者の街のメインストリートは外観のみ完成となる。
後は各店の従業員が揃えばバッチリだ。
「こう見ると壮観だね。ベルじゃないけど、確かにこの見た目に合わせて他のベルランゴ商会の店も建て直した方が格好良いかも」
笑いながらそう言うと、ベルの目が鈍く光った。
「で、では、冒険者の街に最初に建てた店舗と倉庫も……!」
ベルが慌てて店の建て直しを提案してくるが、微笑みながら首を左右に振る。
「いやいや、それも良いかもしれないけど、大工さん達の良い練習になりそうだからね。建物はばんばん建ててもらって良いよ」
そう答えるとベルはガックリと項垂れた。
可哀想だが、領地の技術力を底上げしなくてはならないのだ。そうすれば徐々にヴァン君の雑用も減っていく筈である。
さぁ、凹むベルは置いて、次は各店のコンサルタントをしようかな。様々な大衆店を利用してきたヴァン君が大勢のお客で賑わう人気店を量産してやろう。
そう思ったのだが、店舗の陰からワラワラと髭もじゃの小さな人影が出てきて断念する。
「約束の日限まで、後十日……! 炉を八日、風送り箱に一日です!」
「あれ!? 日数が減ってない!?」
驚いて確認すると、ハベルが腕を組んだまま鼻息荒く口を開いた。
「当たり前です! こんなデカい店を何棟も建ててるのを見てりゃあそうなります! 気合い入れてやりゃあ三日で作れるでしょう!?」
ハベルが出来たばかりの店を指差して怒鳴ると、他のドワーフ達も頷く。
「こんなに早く街が出来ていくのは見たことがねぇ」
「反則だ、こんなん」
何故か、ドワーフ達は怒ったような言い方で出来たばかりのベルランゴ商会の店を指差す。
「あのエレベーターもそうだが、最後に壁を付けたり減らしたりってのが一番いかんです」
「いかん?」
ドワーフの主張に首を傾げる。すると、その文句を言ったドワーフが地面を何度も踏みしめながら説明した。
「こっちは一回作ってしまったら、後で変えるなんざ出来ねぇんです。大工もそうだが、鍛冶屋だって同じだ。出来た剣を見て、後ちょっと長くしろなんて言われても不可能だ。だが、ヴァン様の魔術ならそれも簡単に出来てしまう。それは物作りをする奴らからすれば反則も良いところ、です」
一人がそう呟くと、周りも頷く。
なるほど。確かに木材や金属の加工にしてもそうだが、出来上がったものを簡単に変更出来るのは便利だろう。
魔力の使用で疲れるといっても、実際に鍛冶や大工をするよりも遥かに楽だ。作業時間などは比べ物にならない。
「成る程。そういう意味ではこの魔術適性で幸運だったのかも?」
腕を組んでそう口にすると、ハベル達が大きく頷いてこちらへ一歩近づいた。
「その通り。だから、今から全力で炉作りに励むのです」
「地道に鍛冶をするしかない我らの為にもです」
「急げ急げ」
一斉にそんな無茶苦茶な意見を口にしながら、ハベル達は僕の背中を押してセアト村に向かって歩き出す。
「ちょ、ちょっと、強引過ぎないかな!?」
文句を言うが、一切取り合ってもらえなかった。こうして、領主の筈のヴァン君はドワーフ達の魔の手によって、ブラックな労働環境を強要されてしまうのだった。
ちなみに、代わりにエスパーダが各店舗を見回り、僕のしたかったコンサルタントを実行してしまった。結果、おそらく僕がやるよりもずっと高い水準で店は開店することが出来、冒険者たちからの評判も大変良いものだった。悔しい。
一方、ヴァン君のほうは連続で早朝から日が暮れるまで炉作りを行った。どうやら、炉の高さが高いと大量の金属を作ることが出来るらしい。いや、そんなに沢山作らなくて良いだろうに。
そう思った僕は、炉の高さを減らして完成を急いだ。なにせ、鉱石も石炭も炉の上部から入れる必要があるのだ。高くすればするほど面倒くさい。
「いっぱい材料ができる方が良いでしょうが!」
と、ハベルが怒鳴り、他のドワーフ達も大きく頷く。
そんな意見を即却下し、僕はセアト村の規模を伝えた。
「この村の騎士団の人数や冒険者、行商人の出入りする総数を考えても、そんなに大量の金属はいらないと思う。だから、炉の高さは二十メートルで良し」
そう言い切ると、ハベル達はコメディ映画で見るような動作で肩を竦めていた。だが、暫く考え込むような素振りを見せた後、ハベルが「まぁ、足りなければ後で作れば良い」と言い出し、他のドワーフ達も納得した。オリハルコンを溶かすために必要な温度と圧力だが、炉の高さは二十メートルあれば良いとのことなので、出来るだけ低くした形だ。
ハベル達はドワーフの国を基準にバンバン炉を使うイメージだろうが、そこまで鍛冶師もいない。高さ二十メートルもある炉を作れば十分だろう。
そこからはドワーフ達は何も言わず、黙々と材料を練り合わせたり魔石を削ったりし始めた。どうやら、少しでも手伝って炉を早く完成させようとしているらしい。
「魔石が一番魔力を食うらしいぞ」
「おぉ、そうか。じゃあ、皆で魔石を削るぞ」
「おっしゃ」
ドワーフ達は最低限の会話だけすると、黙々と働く。それも、場合によっては休憩も忘れてである。
ストイックで職人さんっぽくて良いことだが、それに付き合わせられる僕は堪らない。
「もう五メートル以上作ったよ! もう明日で良いんじゃない!?」
「ダメです。少し重心が北側に寄り過ぎている。調整をしてから、後二メートル高くしてくだされ」
「えぇー……」
人使いの荒いドワーフである。
結果、僕は一日で炉底と呼ばれる部分を完成させてしまった。後は炉の上部と風を送り込む炉風口、そして風送り箱である。
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