冒険者の街が充実するぞ!
炉を作る方を優先していたら、いつの間にかカムシンとエスパーダ達も戻ってきていた。
後ろに十数人も人を引き連れており、揃ってこちらを見ている。
「ヴァン様。商売の経験者であり、商売を行いたいという者たちを選別してきました!」
カムシンから声を掛けられて、僕は何とか愛想笑いを浮かべつつ片手を振った。
「ありがとう。意外といたね。エスパーダが選別するとかなり減りそうだったけど」
「はい。本当は百人以上いました」
どうやら合格率一割の中を勝ち残った凄い人達らしい。それなら間違いなく問題ないだろう。
「じゃ、炉より先にお店を建てようか。今日はそこまでにしよう」
そう答えると、後ろでハベルがこちらを睨む気配がした。
「炉の方が優先だろうが」
「材料のオリハルコンはまた手に入ると思うけど、先にドワーフ王国の王様に渡すんでしょ?」
「ぐ、ぬぬぬ……」
ハベルの文句に理由をつけて言い返すと、悔しそうに両手を振って怒りを表現していた。独特である。
「よし、それじゃあ冒険者の街に戻ろうか。多分、クサラの宿も家具は揃った頃だろうし」
どちらにせよ、これで地獄の炉作りをしなくてすみそうだ。よくよく考えたら十五日なんかで炉を稼働する必要なんて無いはずである。危うくハベルの勢いに負けてブラックな労働環境で働かされるところだった。
悔しがるハベルや他のドワーフ達も連れて、再び冒険者の街へと戻る。気持ちが楽になると不思議と足取りも軽くなった。
もう夕方近くになっているため、冒険者の街のメインストリートに戻ってすぐに商売を始める予定の人々に向けて振り返る。
「お店に関しては初期投資費用の立替えや、初年度の納税免除、資材調達の手助けなどのお手伝いはします。ただ、今後お店を出したいという人がきた時に差別にならないように、借金という形でのお手伝いです。もちろん、店の規模でその額は変わりますが、時間が掛かってもお金を返してもらわなくてはなりません。そちらは問題ないですか?」
確認をすると、集まった人々はしっかりと頷く。それだけ熱意を持った人たちということだろう。それに大きく頷き返して、周りを確認する。
まだ家具の搬入があるのか、クサラの宿にベルランゴ商会の商人見習いたちが入れ替わり立ち替わり出入りしていた。ベルランゴ商会も店を出す予定なので場所について話し合いたいと思っていたのだが、ランゴの姿が見当たらない。
「ランゴは……あ、いた……って、ベルも?」
何故か後方からこちらに向かって競歩のような早足で歩いてくるランゴの姿と、そのすぐ後を付いてくるベルの姿が見て取れた。
「ヴァン様!」
「ドワーフの鍛冶師ですって!?」
目が合ったと思った瞬間、二人が手を振りながら大声を出す。待ちに待った鍛冶屋の目途が立って余程嬉しいのか、二人とも目が飢えた魔獣のように鈍く光っている。目の前まで迫り、僕と後ろに並ぶハベルたちを交互に見る二人。
「あ、うん。今はセアト村の端っこに炉を作ってるよ。ただ、オリハルコン鉱石の大き目のやつが二つ以上必要でね。だから、先に冒険者の街の店から作ってからゆっくり炉を作ろうかなと思ってさ」
そう答えると、ベルとランゴが顔を見合わせてから含みのある笑みを浮かべた。そして、こちらを振り返り、ベルが口を開いた。
「ご安心ください、ヴァン様! 先ほど確認に行ったらアプカルルが保管しているオリハルコン鉱石があるとのことでしたので、交渉して一個譲っていただきました!」
「なんてことをしてくれたのかね」
ベルの発言に思わず文句を言い、背後を恐る恐る振り返る。
そこには満面の笑みを浮かべたハベル達がいた。
「オリハルコン鉱石があるだと!?」
「なんてことだ! こんな街中で手に入るとは!」
「わはははは! 国に帰れるぞ!」
「よし、炉を作るぞ!」
ドワーフ達がワッと声を上げて盛り上がる中、ハベルが力強く炉の建設再開を宣言する。それに他のドワーフ達が素早く振り返り、目を見開く。
「おい、ハベル! こっちが先だ!」
「もともとの旅の目的を忘れたのか!?」
仲間たちにそう言われて、ハベルは片手を挙げて手のひらを見せた。
「分かっている! お前たちの気持ちもすべて承知している! だが、この鍛冶をしたいという……熱く焼けた金属を打ちたいという気持ちも分かってくれないか!」
ハベルが力強く説得すると、ドワーフ達は顔を見合わせて困ってしまった。
「そうだよな……鍛冶、したいよな」
「俺ももう二年は鎚握ってねぇよ……」
そんなことを言うドワーフ達。僕には分からないが、どうやらハベルの言葉は強く響いたらしい。しばらく話し合いをしていたが、やがて晴れ晴れとした顔でこちらに振り向き、口を開いた。
「よし、分かった。どうせ次の場所に移動して探す予定だったんだ。一ヶ月か二ヶ月くらいは待っても良いだろう」
一人のドワーフが腕を組んでそう言うと、他のドワーフ達も大きく頷く。
「その代わり、一ヶ月後に炉が完成した時は、俺たちも鎚を握らせてくれよ」
「当たり前だ!」
仲間の言葉に、ハベルが力強く応える。良い話だと周りで頷いている冒険者などもいる。僕も嬉しそうに肩を組むハベル達を見て微笑んでいたが、一ヶ月で炉が完成する前提で話をしていることに気が付き、すぐに頭を抱えたくなった。
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