ドワーフの魂
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ハベルの突然の発言に、僕達よりも同じドワーフ達の方が目を丸くして驚く。
「は、ハベル!?」
「オリハルコン鉱石はどうするつもりだ!?」
慌てるドワーフ達に振り返り、ハベルは両膝を地面に突き、頭を下げた。土下座のような体勢になるハベルに、ドワーフ達は息を呑む。
「すまねぇ! 俺の我儘なのは分かってる! だが、この武器を自分の手で作り出したい! 打ってみたいんだよ、至高の武器を……!」
まさに、魂の叫びだった。血を吐くような叫びに、ドワーフ達も何も言えずに頭を下げたままのハベルを見る。
「……そうか」
「ハベルが、ここで骨を埋める気だってんなら……」
ドワーフ達はぽつぽつとハベルの覚悟を認めるようなことを言い出した。しかし、表情は一層暗くなる。
「とはいえ、オリハルコン鉱石を探さないといけないのは変わらないぞ」
「一番腕が立つハベルがいなくなったら、よその国の山に立ち入るのはかなり危険だ」
「どうしたものか……」
ドワーフ達は顔を見合わせてそんな会話をする。それを見て、僕は片手を挙げた。
「……その、オリハルコン鉱石はどれくらいまでに必要ですか? さっきの話だと、かなり急いでる感じ?」
そう尋ねると、奥にいるドワーフが頷く。
「普通なら王が六十歳を超えるまでに出来上がる。だが、今回は二年探しても見つからず、もうすぐ六十歳を迎えてしまう状況だ」
「成る程。六十歳を超えると、やっぱり鍛冶なんて難しいですよね。体力的に厳しいかな」
頷いて同意するが、ドワーフ達は揃って首を左右に振った。
「いや、今回オリハルコンを使って武器を作るのはドワーフ族最高の鍛冶師、ルボルだ。大きな声では言えないが、今代の王は鍛冶師としては……」
「先代は五工に名を連ねていたというのに……」
と、ドワーフ達の声が小さくなる。それに舌打ちをして、ハベルが地面を殴りつけた。
「熱意が足りねぇんだよ、熱意が! これまでの王は必ず五工に入ってたもんだ。だが、今の王は剣しか作らねぇし、ミスリルの扱いもまだまだ不十分だ」
地面に座り込んだまま、ハベルが愚痴を吐き出す。どうやら大なり小なり皆国王に不満を抱いていたらしい。
これはチャンスかもしれない。不謹慎かもしれないがドワーフの鍛冶師が街に来てくれるのだ。何とかしなくてはならない。その考えを裏付けるように、これまで手を合わせて祈るような恰好で成り行きを見守っていたランゴが目を光らせて頷いている。
「それは大変ですね。一応、この街で一ヶ月か二ヶ月待ってもらえたら、オリハルコン鉱石も手に入ると思いますが、時間が無いんですよね?」
試しにそう言ってみると、ハベル達が音が鳴りそうな勢いで振り向く。
「一ヶ月!?」
「本当か!?」
驚き過ぎて目玉が飛び出しそうになっているハベル達に頷き、納刀したままの双剣を軽く叩く。
「うちは資源が豊富だから、ちょこちょこオリハルコンが届きますよ。国王陛下に一つ渡してしまったけど、もう幾つもオリハルコンの武具を作ってます」
そう答えると、ハベル達は唖然とした後に顔を見合わせて口を開く。
「オリハルコンを一人で?」
「さっきの見ただろう。オリハルコンですらそれほど時間が掛からないのかもしれないぞ」
「いや、しかし……オリハルコン鉱石がそんなに手に入るなんて信じられないだろう」
内緒話というには大き過ぎる声でドワーフ同士の話し合いが行われる。
「実際にドワーフが打ったとは思えないオリハルコンの武器が目の前にあるんだぞ」
業を煮やしたようにハベルが発言すると、他のドワーフ達も眉をハの字にして顔を上げた。
「……そうだな。それに、ダンジョンに潜ってみたが、自力でオリハルコンを発見するのは難しそうだ」
「ああ。また別の地を探しても見つかるとは限らないからな。それなら、一、二ヶ月くらい待ってみても良いか」
と、そんなやり取りをしてから、ハベル達はこちらに振り向いた。そして、ハベルの後ろに立っていたドワーフが僕を見ながら口を開く。
「……分かった。では、我々も暫く此処に滞在させてもらいたい。オリハルコン鉱石は商業ギルドが定める一石白金貨十枚で良いだろうか」
そう言われて、頭の中で簡単に計算する。一石とは直径五センチほどの石一つの重さである。ギルドや商会に行けば秤があり、それで重さを確認出来る。
とはいえ、武器を作れるくらいの量となると、十石分は必要だろう。そうなると、白金貨百枚に達してしまう。大型のドラゴンを討伐した時と同等の収入だ。
すぐに良いよと言いたくなったが、一先ずドワーフ達に片手の掌を見せた。
「オリハルコンの値段については詳しくないから、執事に確認しておきましょう。では、先にドワーフの皆さんの滞在先ですが、良い宿があるので紹介しますね。出来たばかりで綺麗な宿ですよ」
そう言って笑うと、ハベル達は目を瞬かせながらも頷いたのだった。




