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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】ハベル吃驚

25日投稿の内容です!

間違えて一話前後してしまいました…!

改めて投稿しております!




【ハベル】


 何が起きたのか分からねぇ。


 ただ、目の前には長年苦楽を共にした剣のバラバラになった姿がある。


 これでも、ドワーフの国で五工と呼ばれる鍛冶師に選ばれたこともある身だ。旅で使うのだから一際頑丈に作ったが、切れ味も妥協はしていない良い剣を作った筈だった。


 それとも長旅で流石に限界がきていたのだろうか。


 そうでなければ、ドワーフ王の持つオリハルコンの剣であっても、ここまであっさりと切断は出来ない筈である。


 そう思い、剣の断面を確認した。しかし、目の前にあったのは、ある意味で見慣れた光景だった。


 武器と呼ぶにはあまりにも不出来な鉄の塊を一刀両断した時に見る、滑らかな切断面だ。


「……馬鹿な、俺の剣が……」


 これはつまり、それほどまでに性能が違うということ。


 あまりの衝撃に、なんと口にして良いかも分からなくなった。


「……あ、もしかして、かなり大切なものでした? 直しましょうか?」


 ヴァンと呼ばれた少年が、申し訳なさそうにそんなことを言ってくる。普段ならば、間違いなく怒鳴り散らしていた。しかし、今はどうあってもそんな気分にはなれない。


「な、直すってお前……」


 一度折れれば、どうあっても元通りにはならない。芯棒を打ち込んで熱し、無理矢理復元しようとしても、出来るのは見た目までだ。


 剣と剣での打ち合わせなんてすればあっという間に劣化していく。下手をすれば同じ場所から折れて終わりだ。


 だから、直すというよりも一度溶かしてからの作り直しが正しい言い方だろう。


 しかし、目の前の子供は、まるでこの折れた剣を元に戻せるかのような言い方をする。


 訳も分からぬまま、俺は折れた剣を手渡した。


「……おい。その剣は、なんて名のドワーフが打ったか分かるか? 頼むぜ。それが人間の鍛冶屋の手で出来た物だなんて言うんじゃねぇぞ? こっちはオリハルコン鉱石がどうとか言ってられない異常事態なんだからな」


 自分でも意味の分からない言葉を口にしながらヴァンとかいう子供の動向を窺う。すると、ヴァンは無言で折れた剣の刃先を拾いあげ、俺から受け取った剣の柄と重ねるように持った。


 そして、目を瞑り、何かに集中するような素振りを見せる。何をする気なのかと訝しんでいると、ぐにゃりと手の中で折れた剣が形を変えた。


「な、な……っ!?」


 俺だけじゃない、ギルドの中にいる奴らから口々に驚愕の声が上がる。だが、ヴァンの後ろに立つ奴らは誰も驚いていなかった。


 ものの十数秒だ。ヴァンが目を瞑ってたったの十数秒で、俺の剣は元の形を取り戻していた。


「ぉ、ぉおおっ!?」


 自分でも気づかない内に声が出ていた。


「ちょっと誰か剣を……うん、ありがとう」


 出来たばかりの剣を握り、ヴァンが後ろに控える奴らに声をかけ、一本の剣を受け取る。


 それを持ったまま、俺の剣を真っ直ぐに振り下ろした。甲高い金属音と共に、後からもらった剣が真っ二つに切り落とされる。


「おぉっ!?」


 またも自分の口から驚愕の声が出た。なにせ、包丁で大根でも切るみたいにスッパリいきやがったんだ。元々の俺の剣でもそこまで出来るかわからねぇ。


「うん! 良い感じ。やっぱり元が良かったからかな? 厚みがあるのにこの切れ味なら十分だよ」


 こっちの取り乱し様なぞ見えていないかのようにヴァンは笑顔でそんなことを言った。


「はい、どうぞ。お返しします」


 そう言われて、思わず両手で恭しく受け取ってしまう。こんなの、師匠に手本となる傑作を手渡された時以来だぞ。


 ずっしりとした重量感に、刃の方が少し重い重心。厚みや長さもそっくりだ。惜しむらくは、鍔や柄、刃の峰が前よりもかなり凝った装飾になっていたことだ。


 これまでは無駄に過ぎないと切り捨ててきた部分だが、今目の前で見せられた完成度を知った後では、この大袈裟な装飾こそ大事な要素に思えてくる。


「お、おい……」


「ハベル、どうなんだ、その剣は……」


 もう分かっているだろうに、後ろから仲間達が感想を求めてきた。


 答えあぐねて顔を上げると、そこには何事もなかったような表情のヴァンの顔があった。


「……っ! ぐ、ぐぅぬぬぬ……!」


 歯を食いしばり、剣を両手に抱えたまま、天を仰ぐ。


 信じられねぇ。いや、信じたくねぇ。


 だが、こと鍛冶に関しては嘘は吐けねぇ。


 己が内の葛藤に暫く唸り続けたが、やがて諦めの感情が全てを塗りつぶした。


 自分が持つ剣を、刃先を下にして地面に突き立てる。恐るべきことに、剣は石の板を紙を切り裂くように突き抜け、鍔の部分で硬い音を立てて止まった。


「はっ! はっははははっ!」


 思わず、腹の底から笑い声が漏れる。


「参った! この業物は、俺にも作れねぇっ! いや、ドワーフの国にあるどの宝剣にも見劣りしねぇ品物だろう! ここまでのもんを出されちゃあ、どんな言い訳をしても滑稽ってもんだ……!」


 負けを宣言して、どっかりとその場で座り込む。そして、ヴァンを睨み上げた。


「なんでもする。どんなことでもやってみせる。この剣を再現するのに協力してくれ」


 自分でも本当に馬鹿だと思うが、心の底からその言葉が出た。あの剣がどんなものかなどどうでも良い。鍛冶師として、唯々素晴らしい性能の剣に魅せられてしまっただけだ。


 俺はこの時、確かにオリハルコン鉱石やドワーフの国のことも全て忘れて、新たな鍛冶の可能性に狂喜していたのだった。






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