オリハルコンの武器
リネットさま、律吾さま
ご連絡ありがとうございます!
最新話、間違えて投稿してしまいました…!
一話入れ替えをしております!
大変ご迷惑をおかけしました!
双剣を鞘から抜いてドワーフ達に見せると、揃って目を丸くする。
「……確かにオリハルコンの剣だ。それも、見た事が無い形状の……」
「……ハベル。あれはもしや、人間が作った物じゃないのか?」
ドワーフ達がボソボソと会話して、最後に一番手前に立っていたドワーフの名を呼んだ。ハベルと呼ばれたドワーフは、こちらを見たまま頷く。
「……そうだな。ドワーフの炉を使っているのは間違いないが、打ったのは人間の鍛冶師だな。オリハルコンを精錬する炉があるならば、ドワーフが必ずいた筈だ。確かに、中には人間の国で暮らして鍛冶をやったドワーフの噂もあるが、そんな変わり者は滅多にいねぇ」
そう口にすると、ハベルはこちらをギロリと睨みつけてきた。
「……つまり、その武器はドワーフの魂が篭ってねぇ偽物ってことだ。ドワーフの炉を手に入れたって、そこにドワーフがいねぇならドワーフの武器は手に入らねぇんだよ」
低い声でそう吐き捨てると、ハベルはこっちに向かってくる。
「材料がオリハルコンだからって、打ち手が二流じゃあ意味がねぇ。俺たちドワーフは、子供の頃から槌を握って鉄の精錬やってんだ。銅、鉄、銀、ミスリルを全て最高のレベルまで鍛えあげられるようになり、金属の声が聞こえるようになる」
そう言って、ハベルは自らが持つ剣を鞘から抜いた。分厚い長剣だ。かなりの重量だろうが、ハベルは軽々と扱っている。
「そうしたら、ようやく作る武具にも魂が篭るようになるってもんだ。そんなドワーフの鍛冶師の中から、一番金属の扱いの上手い奴がオリハルコンを溶かし、鍛錬、焼入れまでやってようやく完成に至る。人間は溶かした金属を型に流し込んで固めて終わりなんだろ? そんなんに使われたオリハルコンが可哀想でならんわ」
剣の刃を指でなぞりながら、ハベルはそんなことを呟いた。僕は頷き、自分の持つ双剣を顔の前に掲げる。
「確かに、鋳造より鍛造の方が良いとされてますね。炉で溶かして不純物を除いた鉄を、更に適した物とそうでない物に分ける。そして、最高の状態の金属だけを使ってまた炉で溶かす。鍛錬や折り返しも何度も行って、焼入れでは水、油の温度や量などを試行錯誤して最良の状態を見極める……鍛冶師というのは、妥協しない人にしか務まらないでしょう」
と、僕は漫画で読んだ知識、セリフを引用して同意してみせる。日本刀を格好良いと思っていた僕は、漫画やインターネットで作り方を見たことがあった。
ちょっと知ってますよアピールをしたくて口にしたのだが、ドワーフ達は目を瞬かせてこちらを見た。
「……お前、細っこいがドワーフじゃねぇよな?」
「人間です」
苦笑しながら否定する。意外にもドワーフは僕を鍛冶の知識を持つ者と認めたようだ。しかし、これまで腕を組んで静観してくれていたディーが逆にハベルの物言いに怒ってしまった。
「この街の領主であるヴァン様に、その言い方は何だ! 叩っ斬られたいか、貴様!?」
ヤバいくらい怒っているディーに、冒険者ギルド内は騒然となる。
「ちょ、ディーの旦那がキレたぞ!?」
「お、おい!? 酒の神の奴ら! すぐに謝れ!」
慌てる冒険者達に、ハベル達はディーを挑発するように肩をすくめて鼻を鳴らした。
「俺たちはドワーフの国のもんだ。なんで他国の貴族なんぞに偉そうにされないといけねぇんだよ。大体、背が低いからって馬鹿にしてんじゃねぇぞ、大男。勝てると思ってんのか?」
と、ハベルがヤンキー漫画のようなノリで剣を手にディーに文句を言う。
直後、ディーは自身の持つ大剣を両手で持ち、上段から振り下ろした。硬い金属の音が鳴り、気が付けば大きな大剣がハベルの顔の前に現れていた。
ギョッと目を剥くハベルだったが、一秒もしない内に自らの剣が切断されてしまっていることに気が付く。
「……な、な!?」
一歩二歩と覚束無い足取りで下がりながら、真ん中から断ち切られた剣を眺める。
「な、なんて腕だ……! いや、この断面は、剣士の技術だけじゃねぇ……! おい、大男! その剣は誰が鍛えた!?」
怒鳴り、折れた剣をディーに向けた。それに、ディーは剣を戻しながら上体を起こす。
「この剣は我が主、ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵の作である! 貴様が馬鹿にしたこの方の剣だ!」
腹に響くような怒鳴り声でディーが答えると、ドワーフ達の目が皿のようになった。
「な、なんだと……!? ま、まだ子供じゃねぇか!?」
「嘘だろ!?」
「騙されねぇぞ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐドワーフ達。それに困ったように笑いつつ、ハベルに声を掛ける。
「あ、その剣をもう一回持ってもらって良いですか?」
「な、なに? ど、どうするってんだ……?」
困惑しながらも指示に従ってくれるハベルに笑いかけつつ、細かく位置を調整する。
「まっすぐ、顔の前に。あ、良いですね。そのまま動かないで」
「あ、ああ? なんなんだよ、お前ら……」
意味が分からなすぎて若干怯え出したハベル。何故か周りの人達も緊張感を出して静まり返ってしまったので、急ぎで終わらせよう。
「じゃ、動かないでくださいねー! よっ!」
元気よく声を掛けてから、素早く双剣を振るう。体ごと回るようにして右手、左手と双剣を下から切り上げた。
双剣の刃の部分は日本刀のように引いて切るタイプにしている。なので、最も切れ味を発揮するには刃の部分を滑らせるように切る必要があった。
だから、僕の動きは体ごと回り、肩、肘、手と順番に加速させて鋭い斬撃を生み出すために特化している。
今度は殆ど音もしなかった。
一回転して納刀しながら振り向くと、ハベルの剣は三等分になって柄以外の部分は地面に落ちる。
「……あぁ?」
ポカンとしたまま、ハベルは刃が無くなった剣を眺めた。




