【別視点】冒険者からすると
冒険者視点は最後です。
次話からまたヴァン君の物作りが始まります。
戦いが終わり、後片付けをする仲間を見ながらオルトが口を開く。
「依頼は終わった。後は依頼料の残り半分をあの執事の爺さんから貰えば終わりだ」
そう口にしたオルトに、仲間達は顔を向ける。
「うん、それが?」
プルリエルが聞き返すと、オルトは言い辛そうに唸り、ヴァン達を見た。
「……ちょっと興味が湧いてな。まったく金にはならないかもしれないが、残ってみても良いか?」
そう言うオルトに、別のパーティーの五人は首を左右に振る。
「悪いな、オルト。俺たちは隣の伯爵領に用があってな。今回の依頼は都合が良いってのもあったんだ。まぁ、伯爵領で予定済ませたら、また顔出すぜ」
と、申し訳なさそうに謝られ、オルトは苦笑した。
「いや、こっちこそ道中助かったよ。また会おう。とはいえ、今から出ると遅いからな。村の中で一泊させてもらったらどうだ?」
「そうだな。明日の朝、盗賊の生き残りをもらっていくぞ。一人頭銀貨二枚でどうだ?」
「おい、運び代も手数料も無しか? どうした。そんなに親切なやつだったか?」
「うるせぇな。その代わり、次にあった時は良い依頼寄越せ。分かったな」
二人は笑いながらそんなやり取りをして、その場は離れた。近くで話を聞いていたプルリエルや仲間達を見て、オルトは一言、確認を取る。
「もし、皆が残りたくないなら一先ずは戻ろうと思う。だが、残っても良いと言ってくれるなら、一緒に残ってみないか」
そう尋ねるオルトに、皆が顔を見合わせた。
「期間はどうする? 多少の金はあるが、長く依頼を受けずにいれば干涸らびるぞ」
「とりあえずは一カ月様子を見てみたい」
「別に良いですぜ。しかし、あんまり長くなりそうな時はパーティーから抜けるかもしれねぇっす」
「もちろん、そこまで長く居座るつもりもない」
「魔獣でも狩って素材を集めるか。ちょうど、すぐ近くに深い森と山がある」
「確かにな。久しぶりに依頼抜きで魔獣狩りするか。逆に稼げるかもしれないぞ」
意外にも皆が乗り気なことに喜び、オルトは笑いながら返答する。そして、最後にプルリエルが口を開いた。
「……あのヴァンって子、貴族とは思えないよね。まぁ、普通のお子様にも見えないけど」
「……そうだ。それが一番残りたい理由だ。あのくらいの子供が、あれだけ肝が据わっているものだろうか。頭の回転も異常に速い。まぁ、貴族だからみっちり教育は受けているだろうが、それを踏まえても不思議だ」
プルリエルの言葉に同調し、深く頷く。皆が唸りながら、再度遠くの方にいるヴァンを見た。
一見すれば、貴族らしい高貴な雰囲気を持つ子供だ。だが、口を開けばそのイメージは崩壊する。
丁寧でゆったりと構えてはいるが、それでも礼儀正しい普通の子供に見える。貴族らしい庶民を見下したような言動も、そんなそぶりもない。
そして、あの言葉だ。
「……俺は、貴族の覚悟みたいなのを初めて見た気がするんだよ」
なんと表現して良いか分からず、俺はそう評した。すると、皆が首肯する。
「確かにな」
一人が肯定すると、皆が口々に同様のことを言った。
「聞けば、攻撃には向かない魔術適性だって言うじゃないか」
「つまり、あの時、あんな子供が皆の為に死のうとしたってことだろう?」
「はぁー、酔狂な方ですねぇ」
わいわいと盛り上がるところに、プルリエルが神妙な顔で口を開く。
「……私が危ない時、助けられちゃったしね。借りは返さないと」
そんなことを呟くプルリエルに、その場面を見ていた男が同意する。
「そうそう! あれは子供とは思えない動きだった。並みの騎士くらい剣が使えそうだ」
「まだ十歳にも満たないだろ?」
「関係あるか」
議論は次第に白熱していく。
「不思議な子供だ」
一人がそう言うとオルトが腕を組んで答えた。
「そうだな。だが、俺が知る貴族の中では誰よりも好ましい」
「間違いないな。あの子がもし、大きな領地の領主になったら、その領地がどんな場所になるか見てみたいもんだ」
その言葉に、オルトは口の端をあげる。
「ああ。どうだ? ちょっとの間、あの子の手伝いをしないか?」
その提案に、仲間の四人は即答する。
「良いわよ」
「異議なし」
「問題ない」
「良いですぜ」
オルトは仲間達を誇らしげに見やり、笑った。
「ありがとう」
【プルリエル】
ずっと気になっていたが、後処理で中々聞けなかったことがある。
だから、盗賊の死体の始末や拘束をする仲間達に一言言ってから、私はヴァンの下へ向かった。
ヴァンはメイドの子と奴隷の子と一緒に何やら話しているところだった。
「ヴァン様。次はまず私、次にカムシンの命を先に賭けてくださいね?」
「分かったよ。賭ける賭ける」
「絶対ちゃんと聞いてないですよー、ヴァン様」
「わ、分かったよ。泣かないでよ」
泣き出したメイドを見て、ヴァンはわたわたと動揺しながら慰めている。奴隷の子はブスッとした顔で自分の手を見る。
「……もっと力をつけないと」
不満げにそう呟く奴隷の子。
あの子もまだまだ子供だろうに、主人の影響か、生き急いでいるような印象を受けた。あの子達は、ヴァンの為に躊躇いなく命を投げ出すだろう。
「ちょっと、良いですか?」
そう声を掛けると、三人が一度こちらを振り向き、メイドが慌てて顔をそらした。涙を拭う後ろ姿を見て、ヴァンに微笑みかける。
「お若いのに、もう女の子を泣かせているんですね」
冗談を言ってみる。すると、ヴァンは苦笑混じりに肩を竦めた。
「女性には誠実であろうと心掛けているんだけどね。特に、大事な女性には」
と、また子供らしくないことを言い、メイドは顔を真っ赤にしてしまった。両手で顔を隠すメイドだったが、耳まで真っ赤なためバレバレである。
私はヴァンの目をじっと見て、口を開く。
「ヴァン様は実はエルフとかではないですよね? とても子供には見えない時があります」
普通の貴族相手になら失礼になりそうな質問だが、ヴァンは特に気にした様子もなく笑った。
「僕が赤ちゃんの頃からこのティルがお世話してくれてたんだ。間違いなくただの人間だと思うけどね」
そう言うヴァンに、成る程と頷く。
「どこで剣を学んだの?」
思わず、敬語抜きで聞いてしまった。しかし、それも気にした様子は無く、ヴァンは難しい顔になって溜め息を吐く。
「あの騎士のおじさんを見たよね? ディーっていって、騎士団の中でも凄く強い人なんだけど、あの人に直接鍛えられたんだ。僕、あんまり体が大きくならないのに、自分よりも強くするなんて言って訓練してるんだよ。鬼なんだ、ディーは」
不平不満をダラダラ述べつつ、ヴァンは困ったように笑った。文句を言いつつも、ディーを悪くは思っていないのだろう。
「じゃあ、ヴァン様の考え方とか、知識とかは、あのエスパーダって執事の人から?」
「そうだね。まぁ、考え方とかはティルとかの影響もありそうだけど」
そこまで答えて、ヴァンは首を傾げながらこちらを見た。何故そんなことを聞くのか。そう目が言っている。
私は居住まいを正し、敬意を払って一礼した。
「ヴァン様の行動と剣の力で、私はあの時助かりました。ありがとうございます。この恩は、絶対に忘れません」
そう言って顔を上げると、ヴァンは朗らかに笑う。
「いいよ。忘れて、忘れて」
気楽な調子でそう言ったヴァンに、私は思わず目を丸くしてしまった。
これが貴族のカリスマによるものなのだとしたら、大したものだと思う。ほら、もう冒険者の心を掴んでしまったのだから。
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